〈短編集〉インスタントフィクション

有田 賢生

第1話 アリ

 俺は蟻だ。しかし、ただの蟻ではない。

 巣に餌を運び、幼虫の世話に励み、女王に尽くす。

 蟻の中でも名誉ある選ばれし蟻。


 そう「働き蟻」だ。


 我らこそ、群れの中心であり巣の大黒柱。

 そんな俺からすれば、人間とはとても愚かで滑稽である。

 奴らは決まった時間に列を成し、移動を始め、それぞれの出入り口に吸い込まれ、また決まった時間には吐き出される。

 それらを遂行する彼らの顔から感情のようなものは感じ取れない。まったく何の為に生きているのか、甚だ疑問である。

 俺は蟻でヨカッた。

 この「人生」に感謝しなくては。

 「おーい、昼休憩終わるぞ」

 おっと先輩に呼ばれてしまった、俺はそろそろ自分の仕事に戻らねば。

 「じゃあね蟻さん」

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