第7話

「ごぼぼぼぼっ」


 沈んでいく門左衛門。


 ヒュイッ


 門左衛門の襟もとに寸分たがわず、釣り針が引っかかる。


「よしっ」


 よぼよぼの声はゆっくりと門左衛門を引いていく。


「まったく…でかい身体をして、情けない有様じゃのう…」


 なんとか、砂浜付近まで引っ張ると、その老人は門左衛門の脇を抱えて引っ張って、砂浜まで運ぶ。


「よしっ息はあるな。全く…門左衛門が土左衛門にでもなるつもりか。ほれっ、さっさと起きんかっ!!」


 胸を押すと、門左衛門が水を吐き出す。


「ぶはっ、ぶはっ」


 その水がその老人の顔にたくさんかかっていた。


「うっ、あぁ…太郎爺さんか…すまないっ」


 そういって、赤ん坊のように四つん這いになって海へと向かおうとする。


「馬鹿者、今は言ったら死ぬぞっ」


「痛っ」


 太郎爺さんは門左衛門の頭を叩いた。


「まったく。海に半端な気持ちで入ると後悔するぞ」


「半端な気持ちじゃないです。こん想いは…俺の全てです」


 溺れかけていたとは思えない門左衛門の目力の強さに太郎爺さんは心を突き動かされた。


「あの鯛を追う方法…知りたいか?」


「あるんかっ!爺さん」


 太郎爺さんの両腕を握り締める門左衛門。

 それは、溺れる者が藁をも掴む必死さだった。


「馬鹿もん、痛いわい」


「あぁ、すいません」


 太郎爺さんは痺れた腕を振ったり、揉んだりしながら、自分の腕が折れていないか確かめる。門左衛門は太郎爺さんをよく見ると、歳の割にはしっかりとした体つきをしていた。


「昔話を聞きたいか?」


「いいえ、早くたゑ子に会える方法を教えてください」


「…」


 ジトーっと太郎爺さんは門左衛門を見るけれど、門左衛門は西の玄海をチラチラ見て、太郎爺さんのことなどまったく興味がなく、早くたゑ子のことを追いたくて仕方がなかった。


「むかーーーし、むかーーーーし…」


 太郎爺さんも少し腹が立ったので、ゆーっくりと、昔話を始めた。


「ちょっと、遅い…あぁ、すいません。俺が間違っていました。ちゃんと、聞きますんで普通でお願いします」


 太郎爺さんの冷めた目に気づいた門左衛門はちゃんと手のひらを地面につけて、頭も砂浜につけて謝った。すると、太郎爺さんはため息をついて、昔話をしてくれた。


「えっ、太郎爺さんが、あの有名な浦島太郎だったんですかっ!?」


「呼び捨てにすな、呼び捨てに」


「あっ、はい。すいません」


 太郎は話した。

 いじめっ子から亀を助けたこと。

 その亀が竜宮城に連れて行ってくれたこと、そして、玉手箱を貰って帰ってきたこと。

 帰ってきたら、太郎を知っている人はいなくなっており、寂しくて玉手箱を開けたら、年寄りになってしまったことをだ。

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