【完結】ツレない男とツレたい女
西東友一
第1話
昔々、現在の玄海町外津地区にあたる場所のお話。
「ちっ、今日も駄目かぁ」
門左衛門は釣り糸を引っ張り、竿と共に船の中に片づけて、しかめっ面で櫂で船を漕いで、船場へと戻った。
「おーい、門左衛門。今日は釣れたかぁっ?」
門左衛門が声をする方を見ると、女子を侍らせている二枚目の勘十郎が声を掛けて来た。
「もう、勘さんったら、およしったら・・・っ」
勘十郎の隣にいた女が口元を袖で隠しながら、勘十郎を注意する。注意と言っても、目元だけでその女が笑っているのが門左衛門にはもわかった。
「それじゃあ、賭けをすんべ。門左衛門が釣れたと思うもんっ!!」
女子たちも勘十郎も全く動かなかった。
「じゃあ・・・釣れなかったと思う人っ!!」
みんな元気に手を挙げて、ジャンプをしながら和気あいあいになった。
「おうおう、これじゃあ、賭けになんねえべ。なぁ、門左衛門っ!! おろろ?」
勘十郎たちが楽しくしていると、そこには門左衛門はいなかった。
「まったく、あいつはほんに「つれない男」じゃのう。魚も友も女もつれんどっ!!」
「きゃっ、もうっ」
勘十郎が一人の女子のお尻を触ると、女が笑いながら怒る。
「ぎゃははっ、堪忍、堪忍なぁ~」
この勘十郎。生まれもいいとこの御曹司でありまして、今のご時勢ならば考えられんかもしれませんが、他の女は自分も構ってと言わんばかりに勘十郎にくっついた。
「ふんっ」
遠くからでも、聞こえる楽しそうな声に門左衛門は一人。岬へと向かった。
「なんじゃ、門左衛門」
門左衛門が岬に着くと、海をぼーっと眺めていた太郎爺さんがいた。
「ここじゃ、釣れんぞぉ?」
門左衛門は何も返事をせず、釣りに専念した。
「…まったく、年寄りの言うことは聞くもんじゃっけぇ、ほんに門左衛門は才能も聞く耳もなかよ」
太郎爺さんは呆れてそのまま家へと帰って行った。
「ええんじゃよ、俺はひとりになりたいんじゃから…」
ピクッ
「んあっ?」
急に感じたこともない引きが釣り糸からあって、びっくりする門左衛門。
「こっ、こりゃでっけぇぞーーーっ」
海の中で暴れまわる生物。
(こんなに激しく動けるんは、蛸や昆布じゃ、ありえなか。魚じゃ、でっけぇ魚じゃ」
魚と格闘すること一刻。
「おりゃあっ」
徐々に弱った魚が水面へと近づいてきて、ここっ、という機会に思いっきり門左衛門は竿を引っ張ると、太陽にも負けないくらい真っ赤に輝き、大層見事な大物の鯛が釣れた。
「うおおおおおおっ」
男は寡黙な方だったが、感動のあまり思わず声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます