エピローグ2 〜ヒロインズサイド〜
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~可憐視点~
「流石にウナギ2杯はキチいですわ……」
可憐は両手で腹を摩りながらウナギ屋を出た。ぽっこり膨らんだお腹は彼女の満腹さを表している。
「ナイフとフォークを使ってウナギを食べるの……アレっておかしいんですのね。雄治様に指摘されてしまいましたわ」
可憐は振り返りウナギ屋を見詰めた。
まだ雄治は店に残っている。食後のお茶を飲みながらもう少しゆっくりしたいとの事だ。
本当は可憐も死が二人を別つまで付き合いたいが、この後の予定が押していて長居は出来ない。多忙な人生を恨みながらやむ終えず帰るのであった。
「……どうしてでしょう」
雄治との幸せな時間を噛み締めていたが、共に食事をしてる最中から、どうしても楽観視できない異変に気付いた。それは錯覚や勘違いではない。明らかに壁が出来上がって居たのだ。
「……だいぶよそよそしい感じでしたわ」
肩を落としながら可憐はそう呟いた。
僅かな時間ではあったが、地道に築き上げて来たこれまでの好感度が全てリセットされてしまったような感触。それを今日の雄治から感じてしまったのだ。
その理由が解らず、可憐は自身の不甲斐なさにひどく落胆する。
「雄治様……何かあったのですか……?」
知りたいです……貴方の全てが。
教えて下されば幾らでも助けになりましょう。我が金城財閥の全てを貴方に捧げます。
昔は大人の言いなりでしたが、今の私は家を捨ててでも貴方に付き従う覚悟っ!つまり結婚ですわよっ!
──金城可憐はグッと拳を握り締め決意する。
そして近くに停めて居たリムジンへと向かった──まさにそんなタイミングで事件が起こった。
「──辞めましょうよっ!」
「うるさいな、関係無いんだから帰って!」
「………あら?騒がしいですわ」
店から少し離れた場所で、二人の女性が何やら揉めてる様子だ。もちろん無視するつもりだったが──
「……あれは」
それが見知った人物だったので可憐は捨て置けず、口論する二人の元へ向かった。
その二人の側に近付くと、部分的にしか聴こえて無かった会話の内容がハッキリと聞こえる様になった。
「もぉっ!私たちは坂本先輩を傷付けたんすからっ!付き纏うのは辞めましょうよっ!」
「ふんっ!アンタだって此処に居るじゃないっ!人のこと言えないじゃないっ!」
「私は後を着けてる貴女を見掛けたから止めに来てるだけっすよっ!!」
──中川さんと……姫田さん。
話を聞いた感じですと、雄治様をストーキングしている姫田さんを中川さんが止めてるみたいですわね。
店に近づこうとする姫田さんの服を引っ張り、説得を試みてる様ですが……聞く耳持たないと言った感じですね姫田さんは……もう怖過ぎですわ。
しかも結構な騒ぎでギャラリーも大勢集まっています……と、止めなきゃですわ。
「姫田さん、中川さんの言う通り──」
──可憐が二人の前に姿を現した瞬間、愛梨は話しを最後まで聞かずに大きな叫び声を上げた。
「ああぁぁーーーーーーー!!!!泥棒猫っ!!!不倫女っ!!!」
「あ、ちょ」
ざわつき出すギャラリー。
会話の内容から男を取り合う女達の修羅場だと勘違いしているのだろう。
それに気が付いた可憐は羞恥に襲われ、赤い顔で周囲をキョロキョロと見渡す。
そんな彼女に愛梨と口論中だった楊花が声を掛ける。
「金城さん、久しぶり……だね」
「ゔぇ?……あ、久しぶりですわね……少し元気になられた様で良かったですわ」
「……ごめんね?私の所為で先輩に怒られて……」
「何を仰いますのっ!悪いのは焚き付けたわたくしですっ!中川さんは悪く有りませんっ!」
「……で、でも、私に嫌がらせしてた女子達に文句言ってくれてたし」
「アレは、別に目に余るから注意しただけですわっ!それに嫌がらせは私もしましたわ」
「金城さんとは単なる言い合いっすよ。それに陰口は絶対に言わなかった……だから注意してくれてありがとうっす」
「は、はい……」
中川さん、本当に良い子ですわね……雄治様と仲が良いのを嫉妬してたのが恥ずかしいですわ。
………ん?姫田さんどういう顔ですのそれ?
「何を怪訝な目で見てますの姫田さん?」
「いや『っす』とか『ですわ』とか変な語尾だなぁ~って思った」
気を遣って誰も言わないでくれた事を……!!
「……ふざけないで下さいまし」
「……馬鹿にしないで欲しいっ……です」
「はんっ!そうやってゆうちゃんに媚びてたんでしょ?!特に金髪の貴女っ!ゆうちゃんと一緒に御飯を食べてどういうつもりっ!?」
「あらあらぁ?嫉妬ですのぉ?」
「ええそうよ!!!!」
「………!!」
な、なんて正直な人ですの……ここは強がって否定するべき所なのに。中川さんもたじろいでますし、何よりギャラリーが目障りですわね。
「金城さん、この人さっきからずっとこうなんです。話が全く通じないっす……じゃなくて『です』!!」
「別に普段通りの喋り方で良いですわ。彼女の言うことは気にする必要は有りませんことよ?」
「で、でも……変だから……」
「……いえ、可愛いらしいと思いますけど?」
「ほ、本当っすか!?う、嬉しいっす!!」
──普段は弄られる事の多い楊花の独特な喋り方。
意識してないと勝手に出てしまうモノだが、それを初めて可愛いと言って貰えた。それが嬉しく、楊花はついつい可憐の履いている丈の長いスカートを握り締めた。
「ほ、ほんとに可愛いですわね………ん?」
って、目を離した隙に姫田さんが雄治様のところへ向かってますわっ!
「ちょっと待つっす!!」
「お待ちなさい!!」
「……しつこいわね……私とゆうちゃんの邪魔しないで。ゆうちゃんは私にとって大切な存在なんだから」
──今の発言に二人とも呆れ返った。
可憐も楊花も、愛梨のしでかした事を知っている……だからこそ今の台詞に納得出来ない。
二人とも怒りを滲ませながら反論する。
「雄治様を傷付けて何を今更……」
「そ、そうっす、私も人のこと言えないっすけど、もう坂本先輩が嫌がることしないで下さいっ!」
「……アンタ達に何がわかるの?私とゆうちゃんは幼馴染なのよ?その関係に口出しするなんて……身の程を知りなさい」
「ふんっ!ただの幼馴染ですわ」
「……………はぁ?」
──その瞬間……場の空気が一気に凍り付いた。
愛梨の中にあるタブー……絶対に言ってはいけない一つとして、その言葉があった。
【ただの幼馴染】
これを言われた時の愛梨は怖い。
お嬢様と巨乳後輩に全く興味など無かったが、侮辱された事で初めて視界に捉えた……それも射殺すような目つきで。可憐は強気に睨み返したが、楊花は威圧され少し後退ってしまう。
「いい?私とゆうちゃんはただの幼馴染じゃないの!!────産まれた時からずっと一緒なのよ!!もう産まれた病院が一緒!!ゆうちゃんの産まれた三日後に私も産まれたから生を受けた日から同じ場所に居たの!!誕生日も近いし小中高も同じ学校に通ってたわよ!!家だって近いから毎日顔も合わせた学校でも何処でもゆうちゃんの好きなこと趣味その日誰と話したかも知り尽くしている!!私が初めて発した言葉は『ゆう』だったわ!!なんでかって?運命だから!!赤ちゃんの私がゆうちゃんの名前をいち早く発するのは宿命運命なのっ!ゆうちゃんが嫌いでどうしても食べれなかったピーマンそれを食べれるようにしたのも私!!苦手なコーヒーも無理やり飲ませて慣れさせてる!!将来喫茶店をゆうちゃんと経営するから克服して貰わないと!!でも最近コーヒー飲ませてないから凄く不安!!幼い時は何度も一緒にお風呂に入ったわ!!おチ◯チン可愛かった!!ゆうちゃんの好きなゲームもそのプレイ時間もソシャゲでどれだけ爆死したかも知ってるわ!!成長するにつれて音楽の趣味も変わるからそれに合わせてゆうちゃんの好きなアーティストも調べ尽くした!!ゆうちゃんがB'◯にハマった時はその人達の歌を全曲聴いたの!!多過ぎたけど全部よかったわ!!森で一緒にカブトムシを取りにも行った!!私の好きなところを作文に書いてくれた事もある1万文字くらいの凄いやつ!!ゆうちゃんを目に写さない日なんて本当にただの1日もなくて!!手を繋ぎなら毎日一緒に過ごして!!漫画も読んでアニメも観て映画も観て過ごした沢山の時間を過ごした!!しかもゆうちゃんの部屋で二人っきりで!!二人でカレーを作った事がある!!その時は煮込み過ぎて焦げたカレーを不味いと言いながら笑い合って食べた!!ゆうちゃんのなら髪の毛の本数だってわかるのよ私には─────ねぇ!!?これの何処がただの幼馴染なの!?もう一度言ってみなさいっ!!」
「……ごめんですわ(怖過ぎ)」
「……ごめんなさい(あ、おしっこ漏れた)」
今度ばかりは可憐も圧倒される。楊花に至っては股を抑えてガクガクと震えていた。たった今愛梨の放った威圧感は尋常じゃない……見るものを恐怖で支配し怯えさせる。
「解れば良いのよ──ふぅ~……アレ?人がいっぱい居たのに、誰も居なくなったね?」
お前が怖いからだよ……二人はそう思ったが、ヤバそうなので口にしなかった。
そして辺りはシーンと静まり返っている。
愛梨がゆうちゃん情報をベラベラと喋ってる間に、話題の張本人も何処かへ移動したみたいだ。
窓越しに見えていた雄治の姿は既に消えていた。
「あれっ!!?ゆうちゃんが居ない!!ゆうちゃーーんどこーーー!??」
愛梨は慌てて走り去って行く。
取り残された二人は互いに顔を見合わせ、どちらともなく深い溜息を吐いた。
「……金城さん。私ずっと姫田さんだったら坂本先輩と一緒になってもギリギリ許せたんすよ。なんか凄く綺麗で大和撫子みたいな印象が強かったから」
「そうですわね……私も似たような理由で、姫田さんならと……信用しておりましたの……でもまさかアレ程のおバカさんだったなんて」
「……あと喋ってる途中でチ◯チンって、言ったっすよね?」
「はい……確かにチ◯チンと言っておりましてよ」
「坂本先輩のチ◯チン……」
「幼き頃とはいえ、雄治様のチ◯チンを間近で拝めるなんて……う、羨ましいですわ」
二人は妄想を膨らまし、どちらともなく喉を鳴らした。
そんな時二人の前に生徒会長の高宮が姿を現す。
「……貴女達」
「あ、生徒会長様、ご機嫌よう」
「こんにちわっす」
「どうもご丁寧に──そんな事より、公衆の面前でチ◯チン連呼するの止めよう?」
得体の知れないものを見る様な目で高宮は二人に注意する。顔見知りの後輩にどうやって声を掛けようか悩んでいたが、唐突にチ◯チン談話が始まってしまった。
そのオゲレツな会話を止める為に、小柄で気弱で根暗な高宮は、頑張って話掛けたのである。
「あ、ごめんなさいっす」
「ごめんなさいですわ」
二人は深く反省するのであった。
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