エピローグ 〜女性不信と男性不信〜

暗いまま終わるのが嫌だったので本日2話目を投稿しました。宜しくお願いします。


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雄治はベッドに寝そべりながら、スマホゲームを脳死周回するくらいに暇を持て余していた。


「暇だな……」


もう口に出して呟くほど暇だった。

プレイしてるゲームにも飽きている。

外を眺めながら、これからどうしようかと雄治は真剣に悩み始めた。



「もう14時過ぎか──そういえば飯食ってないわ」


腹の虫は鳴らない。

しかし空腹感はある。



「お昼のお金も貰ったし、姉ちゃんと飯でも食いに行くとするか」


アプリゲームのタスクを切る。

そして、ついさっきの自分について考えた。


「……もっと心を強くしないとな」


さっきの俺は頂けない……姉ちゃんの前で弱いところを見せてしまった。


ダメなんだよ、姉ちゃんに迷惑を掛けたら……今でさえ学校にも着いて来て貰ったり、いろいろ世話になってるんだから……これ以上はいけない。

自分を晒して良いのは……母さんの前だけなんだ。



──雄治はベッドから起き上がると自らの頬を叩き、気合いを入れてから姉の部屋へ向かう。



……目的地に到着した俺は、もちろんノックなんてせずに扉を勢いよく開けた。


うん、これでこそいつもの俺だ。


だけど、姉ちゃんの慌てる反応を期待したと言うのに、ターゲットはスヤスヤと熟睡中……全くもって起きる気配がない。


「ちっ、つまらんヤンキー女だぜっ」


でも折角だし、どんなアホヅラで寝てるのかを見てやろうと──近付いて顔を確認しようとした……が、寝ぼけた姉ちゃんは手を伸ばして俺を掴み、そのままベッドの中へと引き摺り込みやがった……!!



「雄治ぃ~……うわぁ雄治が甘えてくるぅ~……お姉ちゃん好きって……うれじいよぉ~、雄治雄治雄治ぃ~いへへへぇ~♡」


全力で頬擦りされる。

なかなか耐え難い屈辱だ。


「もう頬っぺた舐めちゃう〜……ベロンッ── この味は!……お姉ちゃんを愛してる『味』だぜ……坂本雄治!」


「やかましいわ」


人の顔舐めんなし…………いや流石に寝ぼけすぎだろ。

スリスリされるどころか、終いには脚と腕を絡ませられてガッチリホールドまでされてしまった……身動きが取れない。


しかも姉ちゃんズボン履いてないんだが……?

薄上着でパンツ姿の実姉に抱きつかれる俺……ハハ、マジウケる。



「チュー……チューッ!!んーー!!」


「うおっ!!?それはやめろぉ!!」


冷静に突っ込みを入れてたら、危うくファーストベーゼを実姉に奪われるところだった……!!咄嗟に体を動かしてどうにか躱わせたけど……いやもう本当に危なかったぞ?


「あ、そうだ」


俺はポケットに入れていたスマホの録画機能を使用した。無理やり絡め取られている姿を映像に残す。

ヤラレッぱなしは癪に触るので、目を覚ました姉ちゃんに動画で見せてやろう。

寝ぼけてるとはいえ、弟にキスをせがむ姿を見せられるのはさぞかし屈辱だろうよ……フフフ。



「んんんーーーー!!!チュー!!!」


「はははっ!目を覚ましてからが楽しみだなっ!」



──全く起きる気配のない姉と格闘すること10分。

必死の努力でどうにか姉の拘束から逃れることが出来た。そして反撃の動画もバッチリだ。



「雄治ぃ~何処行くの~?戻ってぎで~」


「二度と来ねーよ」



────────



家を出てから雄治は美味しそうな店を探し外をぶらぶらと彷徨い歩いた。

祝日休みは、日曜日に比べて人が少なく町中が比較的ゆったりとしている。



──商店街に入り、歩き続けること5分。

雄治は気になった店の入り口で立ち止まる。



「ここにしようかな」


ウナギ屋さん……人生初……しかも一人。

なんせ5000円札貰ったからなぁ~、ついつい贅沢な店を選んじまったぜ──



雄治はゴクリと喉を鳴らし、そのまま店の中へ入ろうとした。



「──あっ!雄治様っ!ご機嫌ようっ!」


「…………」


甲高い声──女だ。なんか女に呼ばれてしまった……クソっ!!良い気分だったのにっ!!


相手は──知ってるヤツだ。

金城可憐、可憐可憐、金城金城……キンカレ。


おっ!この子だったら大丈夫大丈夫っ……大丈夫な人だ……なんで大丈夫なのかは良く知らんが、話しても不快にならない女性が相手で一安心だ。



「金城さんもウナギ?」


「ええ、そうですわ!」


やっぱり金持ってんなぁ~……俺は一世一代の覚悟で訪れたのに……なんて羨ましい。



「この店は我が【金城財閥】が経営する飲食店ですわ!ご馳走しますのでご一緒に如何でしょう?」


「デジマ?」


「デジマデジマですわ」


うん、想像よりも遥かに上だった。まさか店ごと我が物とは……でも折角だから頂こう。この5000円は貯金だな……いや課金しよう。



「じゃあお言葉に甘えようかな?」


「……!!やったーーーですわーーー!!」



(あれ?でもこのお嬢さん、さっき店の中から出てきたような?)


(さっき食べたのですけど、更にもう一杯おかわりですわ……うぷ)




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~杏奈視点~


「ふふふ、嬉しいわ♫」


雄治と話せたのは本当に久しぶり。

今日は良い日になりそうね……突然会社に呼び出されたけど憂鬱さはないわ。

それに呼び出された原因は私が直接面倒を観ている後輩のミスによるもの……上司として責任は取らなくっちゃねっ!



──会社に到着しタイムカードを押すと、トラブルの原因である後輩が杏奈の元に駆け寄って来る。



「先輩っ!ごめんなさいっすっ!」


「ふぅー……仕方ないわ。明日は休みを貰えたし、早速仕事を片付けるわよ?中川さん用意は出来てる?」


「は、はいっす!!」


中川と呼ばれた新人は急いで自分の机に戻った。

本人は謝り足りない様だが、懺悔の続きは仕事を完了させてからだ。

とりあえず先輩へのお詫びとして高級なステーキハウスの予約を二人分済ましてある──しかし、杏奈が行くかどうかは別の話である。


彼女の名前は中川楊菜23歳。

大卒で今年入社したての新入社員である。


長い薄茶色の髪でポニーテール。

ただ、もっとも特徴的なのが、その豊満の胸……そこに自信のない杏奈には羨ましい巨乳ちゃんだ。

雄治と優香の通う高校に歳の離れた妹が居るらしく、杏奈はこの後輩に親近感を覚えている。



──昼過ぎに挨拶を交わして以降、二人は一切の私語なく黙々と書類を処理してゆき、その甲斐あってか陽が沈む頃には終わりそうなペースだ。


杏奈が最後の資料へと手を伸ばした時、入り口から二人の勤める部署の上司が様子を見に訪れた。

無精髭を生やした痩せ型の中年男性……相手の性別をみて杏奈は警戒心を強める。



「すまんな二人とも……休日出勤手当ての兼ね合いも有るから二人だけで仕事をさせちまってよ~」


「いえ、二人でも夜までに終わりましたよ!」


「おおー、昼過ぎから始めたのにな……やっぱり坂本は優秀だからなぁ」


「……いえ」


「ま、お前ら二人は明日ゆっくり休めっ!最近使わせてやれなかった有給だっ!」


「………はい」


「は~い」


楊菜は返事をする杏奈をチラッと見る。

上司は気付けない様だが、楊菜には異変がキッチリと伝わっていた。



「相変わらずっすね」


「何がよ?」


「先輩の男性不信っすよ。しかも今日は重症の日っすね……そういう日は上司との受け答えも満足に出来ないで青白い顔してるんすもんっ」


「仕方ないじゃない……無理なものは無理なのよ。信頼出来る男の人なんてこの世に三人居れば良いのよ」


「お父さんと、旦那さんと、息子さん……っすか」


「嫌味な言い方ね?」


「だって!偶に仕事に影響あるっすもん先輩の男性不信わっ!」


「だ、だからお詫びに文句言わず手伝ってあげてるでしょ?!」


「………それもそうっすね」




──二人は最後の仕上げに取り掛かる。

作業が終わったあと杏奈は『後輩と食事に行っても良い?』……と雄治にメールを送った。

しかし、最近の雄治だと返事は期待できない。


だが、珍しく既読の後直ぐに『わかった』と一言だけ連絡が来た。


杏奈は飛び跳ねるように喜び、後輩と二人でステーキハウスへと向かった。






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気が付けばレビュー評価も300を超えました。

やっぱり評価されると嬉しいです。


ふざけた話の後、母親とのエグいエピソードを差し込んだりしており、ギャグ回・シリアス回の強弱が激しいと思っています……にも関わらず、暖かい感想が殆どなので安心して執筆を行う事が出来ています。


これからも多くの方に楽しんで頂けるように頑張りますので宜しくお願いします。



因みに、次回は金城可憐が主役の章です。




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