第3話 姉の憂鬱 〜優香視点〜


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~優香視点~


──その日は高校三年の始業式だった。

新しいクラスメイト、慣れない教室、皆がその新鮮味に戸惑ってる中、優香はその異変に気が付く。


(つまんねーことするよなぁほんと)


それは教室の一角で行われていた。

一人の女子を、三人の女子が囲って笑いモノにしていたのだ。優香は机に顔を突っ伏しながらそのやり取りに目を向ける。覗き見は彼女の得意分野だ。



「──あんた相変わらず小さいわね~、ここは中学校じゃないのよ~?」


「てか聞いた?コイツ生徒会長に立候補するんだって!!マジで笑えるよね!!」


「嘘でしょそれっ!あはははっ」


「…………」


その女子……かなり背丈が控えめな少女は黙って耐え忍んでいた。

ただ、言われて平気という感じにも見えない。その女子は血の気が引いた顔でジッと我慢している……少なくとも優香にはそう見えてしまった。


「……ふぅ~……しゃーない、いっぺん泣かすか」


優香はゆらりと立ち上がり少女達の元へと近付いた。



「──アンタら、ウチの友達に何してくれてんの?」


もちろん優香は彼女を知らない。

こんなのは口からの出まかせだ。


「……え?友達?」


真っ先に優香の方を向いたのは嫌味を言われている少女だった。目が合った優香は安心させるようにウインクする……次に性格の悪い三人組が優香の方を向く。



「あん?なに?イカした格好してるのにこんなのと友達なの?そっちのセンスは無いね」


「あん?向こう行けって、でないとアンタ……ただじゃおかないからね!!」


「そうそ────え?」


彼女達は優香を挑発する。

一人は至近距離で優香を睨み付け、もう一人は優香を威圧する様な声を上げる。

ただ、残った一人の態度だけ二人とは違った。どうやら優香に見覚えがあるらしく、見る見る顔色を変えてゆく。



「ほぉう?いいじゃん、いいじゃん。この学校にもまだ骨のある奴が居たんかい。いいよ、相手してやるから……かかって来なよ」


「おう!上等じゃねーか!」


「やっちまいな!」


「ちょっとまっっってぇぇッッッ!!!!!」


「「!?」」


優香に殴りかかろうとした手が止まる。

まさに間一髪……もう少しで病院送りになる所だった……殴ろうとした側が……


「え?何で止めんの?もしかしてビビってんの?」


「ビビってるに決まってるだろう!?顔見て分かんねーのか!?この人は『西方不敗の優香』さんだぞ!?」


「え!?あの伝説上の生き物!?」


「伝説って?」


「ああ!たった一人で半グレグループを壊滅されたっていう……!!」


「あぁ……そういえばそんなこともあったけ?確かアイツらは弟をカツアゲしたからブチ殺しに行ったんだっけな」


「間違いなく本物だ!!あのブラコンっぷりは本物の優香さんだ……!」


「え?ちょ待て、わたしブラコンで有名なの!?聞いてないぞ!?」


「「「ご、ごめんなさい……」」」


優香の怒鳴り声で三人は泣きながら崩れ落ちた。

そして祈るように手を合わせ、優香に命乞いをする。



「もう二度と逆らいません……なので、どうかお許しを……!」


「……くそっ」


毒牙を抜かれた優香は気だるそうに三人を見下ろす。土下座して必死に懇願する三人……しかし、優香はこのまま許すつもりなど無かった。



「謝る相手が違うでしょ?」


「………え?」


「それって」


「………あ!」


三人は一斉に少女を向いた。

その少女は奇妙な展開に着いて行けてないが、いじめっ子達の視線を浴びて萎縮する。

しかし次の瞬間、思い掛けない行動を目の当たりにする。



「「「今まで本当にすいませんでしたッ」」」


土下座の姿勢のまま、勢いよく頭を下げたのだ。

それを見て少女は思考を停止させるが、直ぐに我へと返り三人の謝罪に対する返事をした。



「……あ、え、あ……うん……分かった」


「これに懲りたら、二度と虐めたりすんなよ?あと、お前ら二度とこの子に絡んだりすんなよ?」


「「「はいッ!すいませんでしたッ!」」」


「よしっ、じゃあ行けッ!!」


三人は何も言わず逃げるようにこの場を去って行った。これから授業だと言うのに……


この日以来、この女子三人が少女を虐める事はなかったが、それ以前に優香の舎弟に目を付けられて大変な学園生活を送るハメになったと言う。



──そんなどうしようも無い連中が消え、優香は青い顔で震える少女に目を向けた。



「生徒会長になるんだって?」


「え?あ……そうですよねっ!わたしなんかに務まる訳ないですよね……!やっぱり──」


「ん?なんで?超カッコイイじゃん」


「え……カッコいい……?私が……?」


「うん。まぁ頑張れよ。私は応援してるからさ」


それだけ言い残し、優香はこの場を立ち去ろうとした。

しかし、そんな優香を少女が慌てて呼び止める。



「あ、えっと、な、名前ッ!」


「ん?……そう言えば同じクラスになるの初めてだっけ?」


少女はコクコクと頷いた。



「──私は坂本優香。まぁ外見はこんなだけど、カタギの人間と弟には手を出さない。気が向いたら覚えといて?」


「か、かっこいい……」


「いんや、カッコイイって言われても嬉しくねーし、これでも女の子よ?まぁ先に言ったの私だけどさ──てかアンタの名前は?どうせ自己紹介の時に分かるけど、良い機会だし教えてくれても良いんじゃね?」


「あ、はい……私は高宮椎奈と言います!これからも宜しくお願いします……!」


「敬語はいいって……」




──これが優香と高宮の最初の出会いだった。


それから一か月以上が経過した別の日……二人は屋上で昼食を共に食べていた。

この頃には互いに打ち解けており、高宮も優香に対して敬語で話す事はなくなっていた。



「そんで弟は確かに言ったの『ヤンキーはかっこいい』って……それで頑張って不良になったのに、今はヤンキー極めた私に怯えてんのよ。マジで酷くない?雄治に暴力なんて振るった事ないのにめっちゃ警戒してくんのよ……もうマジ酷くね?……ああ言ってて泣けて来た……」


「まぁまぁ」


高宮はそっとハンカチを差し出す。

しかし、優香はそれの受け取りを拒否する。洗って返すのが面倒臭いからだ。



「うん。でも後輩くん凄くかっこ良かったよ?それにね、あの子とは坂本ちゃんの話で盛り上がるから、話してて楽しいんだよね~」


「…………」


「でもね?坂本ちゃん、いつも悪い事しかしないから、どうしても愚痴っぽくなっちゃうんだよね~……もしかして私たちが仲悪いと思ってるのかも!」


「……………」


「………ん?どうしたの坂本ちゃん?急に黙っちゃって?」


「………私に隠れて弟と会うの禁止な」


「ええ!?どうして!?」


「………なんとなく……すげぇ楽しそうだから、なんかムカツク。私だって最近話せてないのにさ」


「……嫌だ」


「………ダメったらダメ。生徒会長、アンタが学校にトランプとかボードゲーム持って来てるの先生にチクんぞ?」


「うう~……わかったよぉ~……」

(まぁ坂本ちゃんにバレないように会えば問題ないよね?)




──優香に一番の親友は誰かと聞けば、照れ臭そうに高宮の名前を上げるだろう。

高宮に同じ事を聞けば、迷うことなく優香と口にするだろう。


生徒会長と学園の異端児。

二人の絆は太い糸で硬く結ばれている。




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