第2話 変わった心
学校に到着し、靴を上履きに履き替える。
すると愛梨がソワソワし始めたので、一応どうしたのかと尋ねる事にした。
無視したい所だけど、それで機嫌を悪くされても非常に面倒だ。
なんて迷惑な存在に成り下がったんだこの幼馴染は……数分前までは一緒に居るだけで楽しかったと言うのに。
「どうした?何かあんの?」
「う、うん……ちょっと隣のクラスに……行ってもいいかな?」
ああ、彼氏か。
別にいちいち俺の許可取らなくても良いのに。俺に何でも聞いて来るのも彼女の悪い癖の一つだ。これからは依存しないで頂きたい。
「いいよ」
「あ、ありがとう」
「おう」
「それじゃ途中までは一緒に行こうよ」
「おう」
適当に返事をし、俺はいつも通り愛梨と肩を並べて廊下を歩く。それ自体は昨日までと同じなんだけど、俺の気分は180度違った……ハッキリ言うと凄く嫌。
というか、一緒に歩くのは今日で終わりにしないと……石田に見られるのはマズイと思う。
もし、俺が逆の立場だったら死ぬほど嫌だからな。
石田は女に凄くモテると有名な奴だ。そんな男に恨まれるのは嫌だし、後で愛梨に注意しておくか。
でも今日は話し掛けたくない。明日だ明日。
──いろいろ考えてると、いつの間にか教室に到着していた。
「それじゃ雄ちゃん、後でね」
「うん」
愛梨は足早に隣の教室へと向かう。
俺はそれを見送らずに自分の教室へと入った。
……すると席に座ろうとしたタイミングである男に話し掛けられる。
「──よぉ雄治!!元気~!?俺は元気だぜぇ~?」
「気安く話し掛けないで」
「いや同級生だから気安い関係だろ」
ダル絡みしてくるのはクラスメートにして友人の碓井恭介。茶色に髪の毛を染めている。ただし、見た目はヤンキーだが中身はヘタレ。今でこそピアスを付けているものの、先生が近くに居ると外す……実に眉唾な男だ。
「それはそうと雄治、姫田さんはどうしたん?いつも一緒なのに」
「ああ、アイツなら彼氏の所へ行ったぞ」
「ん?」
すると碓井は辺りをキョロキョロし始める。
「居ないぞ?」
「だから彼氏の所だって」
「いやだから彼氏はお前だろ?ようやく付き合い始めたんだろ?」
「…………」
「………え、まじか……笑えんぞそれ」
「俺も笑えねーよ」
俺が愛梨を好きだってのを碓井だけが知っている。碓井は心許せる親友だと思ってるから、それとなく相談した事があった。
そんな親友は俺の態度で事情を察したらしく、悲しそうな顔をして泣いてくれた。
「……ぐずっ……ゆうじぃ~……」
「なんでお前が泣くの?」
「だってお前……あんなによぉ~」
「落ち着けって!今は何とも思ってないから!」
「そんなに早く切り替えられる訳ないだろ……」
「……それはそうなんだけど……いろいろあってな。脳みそ詰まってない人間に話したところで理解出来んと思うから敢えて言わないけど……まぁいろいろ有ったの」
「え?なんで不用意にディスられてるの俺?」
でも碓井に指摘された通り、我ながら恐ろしい切り替えの速さだと思う。まぁ振られ方が酷かったのもあるけどね。あの出来事は冷めるのに充分だった。
でも能天気で普段適当に生きてるだけの男が泣いてくれるとは思ってもみなかった……ありがとう。
ほんの少しだけ胸のモヤモヤが晴れた気がする。意外といい奴だったんだ、初めて知ったよ。
「なんかお前……失礼なこと考えてない?」
「ごめんな」
「え?否定しないの?お前の為に泣いてんだけど?」
「だからごめんっつってんだろ」
「なんでちょっとキレてんだよ……まぁいいや──今日の昼、学食行こうぜ。お前いつもパンだろ?スペシャルランチ奢るからよ」
「……二食いい?」
「ううん、調子乗んな、一食だけ」
「……じゃあもう良いよ、一食だけで」
「態度悪ッ!!──いやでもよ~、てっきり向こうも脈アリだと思ってたぜ。マジでびっくりなんだけど?」
「……そうだな」
俺だって結構期待してたよ。
でもこればかりは仕方のないこと。俺に男としての魅力が無かったと諦めなければ……でもな……はぁ~……
「碓井よぉ……気を遣って答えて欲しい。俺ってお前から観てどれ位かっこいい?」
「キモい質問だな……けどそうだな………まぁ70点くらい?気を遣って答えるなら90点くらい有りそうだけど」
「じゃあ、間をとって80点か……」
「どうして間をとったのか気になるけど、マジで見た目は悪くないぞ?身だしなみもしっかりしてるし、俺が女だったら黙ってないぞ」
「……いやそこは黙っててくれる?キモい奴だな」
「………確かに今のはキモかったなマジごめん。けどそもそも先にキモイ質問したのそっちだからな?」
「じゃあ許す」
「なんかテンポ良くて腹立つな」
愛梨に彼氏が出来たと話をしてから、その話題に触れては来ない。だからこうして楽しく話が出来る。
やっぱり持つべきモノは友人だと今ハッキリと分かった。
成績も悪く、いつもふざけてるから少し見下していたのが凄く申し訳ない。悔い改めるとしよう。
──そんな話をしていたら愛梨が帰って来た。
てっきり時間ギリギリまでは向こうに居ると思ってたけど、意外に帰ってくるのが早かった。
それに気付いた碓井は急いで話を切り上げ、自分の席へ戻って行った……やっぱり薄情だなアイツ。悔い改める必要なし。
「ただいま」
「おう」
愛梨とは隣の席だが、今となってはそれも非常に残念な事実だ。
ただ、俺からの話し掛けるなオーラは流石に感じ取れたらしく、帰って来てからはずっと大人しかった。
──それから時間はあっという間に過ぎ、時刻は放課後を迎える……普段はこのまま愛梨と一緒に帰るんだけど──
「ごめんね、雄ちゃん……今日から石田くんと一緒に帰る事になって……何度も放課後までに言おうと思ったけど、雄ちゃん今日忙しそうだったから、中々言い出せなくて……」
「ああ気づかなくてごめん」
ほんとは何か言いたそうにしていたのには気付いていたけど、俺から距離を開けていた。気持ちが落ち着くまでそうするつもりだったが、愛梨から離れてくれるなら実に有り難い。
「いや、でも、朝は今まで通り一緒に登校しよう!」
「ああー……いや、石田に浮気相手だと勘違いされても嫌だし、止めといた方が良いんじゃない?」
「……え?大丈夫だよ、石田君には雄ちゃんの関係も話してあるし……!」
「本人は良いって?」
「うん!私の判断に任せるって」
石田……頭大丈夫か?
そうは言っても、奴は学年でも指折りなイケメンだし、愛梨もクラスで一位二位を争う美少女だ。
そんな容姿の釣り合った二人の関係を邪魔し、周囲の反感を買うような真似したくないんだけどね。
俺と愛梨が幼馴染だなんて学年でも知らない人の方が多いんだし……
まぁ取り敢えず、それについては明日話すか。
もう今日は帰ってゆっくり考えたい……これからはどのように愛梨と接したら良いかも含めて。
「それじゃまた明日ね」
「じゃあな」
──愛梨と別れた俺は一部の陽キャの騒がしい放課後の教室を後にし、一人で帰路に向かった。
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