約束の織姫星

江倉野風蘭

1.

 ある夜遅くのこと。

 ひとりの女の子が、家のバルコニーで星を見ていました。

 女の子の名前は春野はるの星見ホシミ。ホシミのお父さんは仕事で忙しく、遅い時間まで帰ってこないのが普通でした。だからホシミはいつも、こうして星を見ながらお父さんを待っていました。お母さんはいませんでした。


(お父さん、まだかな……)


 さっきまでは空に浮かんでいた月が、もういつの間にか沈んでいました。

 それだけ時間が経っているのに、お父さんが帰ってくる気配はまだしません。

 ……こうしてひとりで星を眺めていると、その日にあった嫌なことが色々と思い出されてきます。体育の先生に口答えして怒られたこととか、みんなの話に上手く混ざれなかったこととか。

 考えたくないようなことが次々と頭の中へ思い浮かんできて、じんわりと涙が出てきます。泣きたくもないのに。もし今お父さんが帰ってきて泣いているところを見られたら、きっと心配させてしまいますから。

 けれどいくら拭っても涙は止まらなくて、目の前の星空がぼんやりと滲んでいきます。天の川も夏の大三角も、あの真っ赤な彗星も──


「──えっ?」


 ホシミは目を疑いました。ごしごしと涙を拭って再び空を見上げてみます。

 こと座のベガのすぐ近く……そこには燃え盛るような赤い彗星がありました。あんな星がさっきまであったでしょうか。

 その彗星は次第に大きくなりながら、南の方へと流れていきます。そう、次第に大きくなりながら。

 つまりは地面に近づきながら。


「い、いん石だああっ!?」


 真っ赤な隕石は物凄い音を立てながら落ちてきて、ホシミの家のすぐ近くにある神社へと突っ込んでいったのでした。

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