【完結】月一の彼女と週七のセフレ。どっちがいいと聞かれたら? 

悠/陽波ゆうい

月一の彼女と週七のセフレ。どっちがいいと聞かれたんだが……?

「……ごめん。もう一回言って?」


「えーとね。月一の彼女と週七のセフレ、どっちがいい?」


「……」


 あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。

 これほどもう一度聞き返したことを後悔した瞬間はないだろう。

 

 何気ない休日の昼下がり。ゆったりしたこの時間帯に俺、天宮秀あまみやしゅうは隣のマンションに住む幼馴染、郁瀬綾いくせあやに究極の二択を迫られていた。


 母親同士が幼馴染で昔から家族ぐるみで仲がよく、自然と兄妹のように育った俺と綾。

 純粋無垢で学校では『天使ちゃん』として崇められている。俺以外の男子はちょっと苦手らしく必然的に不愛想になるが「見た目と中身のギャップがたまらん。オドオドしていて可愛いし巨乳で天使、もはや神」とひそかに男子からは人気がある。密かにじゃないな、ガッツリだな。ファンクラブとかできてるし。

 本人は気にしているどころか、怖いらしくよく相談してくる。


 綾は優しい性格が故に、断るのが苦手なので気を抜いたらどこぞのヤリ〇ン野郎に寝取られそうと俺は常にガードを怠らなかった。

 校舎裏に呼ばれたら隠れてついて行き、諦めが悪い野郎は叱りつけ、綾の手を握り無理矢理しようとする野郎は殴った。幸い停学とかなったことは一度もない。そして二人きりでお出かけしようと誘う野郎がいれば間に割って邪魔した入り、綾に俺以外と遊んだらダメだと言われていると言うようにと仕向けたり様々なことをし、彼女の純情を守り続けている。

 お陰でついたあだ名は『天使の番人』うん、俺に似合う言葉だ。


 そんな純情な綾が……


『えーとね。月一の彼女と週七のセフレ、どっちがいい?』


 どこで育て方を間違えた。

 セックスという単語を出しただけでも顔を赤らめてしまう初心な綾の口からまさか"セフレ"という言葉が飛び出すとは……。


 なんでその言葉を知ってるのかと問い詰める前に、


「なぁ綾。お前、セフレの意味知ってんの……?」


 知らないで使っている可能性があるので問う。

 意味を知らないで使っている子供をただしてあげるのも幼馴染の役目ってものですよ。


「しし、知ってるよ……!」


「じゃあ説明してみろ」


「えっと……そのー…男女がまず裸になって」


「おう」


 そこからなのね。


「身体を合わせて……その、えっちなことして……」


「おう」


「それで、そのえっちな肉体関係が恋人でもないのに続くこと……」


 最後のこの説明だけで良かったな。


「あう、あうぅ……」


「あーよしよし。よく頑張ったな~」


 顔がほんのり赤くなり、股を少しモジモジさせた綾を頑張ったね、と頭を撫でる。


 やっぱり綾は綾でホッとした。


「うぅ……秀くんにいじめられたぁ。秀くんのヘンタイしゃん……」


「ちょっと待て。何故俺がわる——」


「頭撫でるのやめないで」


「ウッス……」

 

 たまに綾が怖い。

 とりあえず撫で続けないとご機嫌ナナメになるので続けながら話す。


「俺何も悪くないよね? 綾がセフレとか言ったからだよね?」


「セル……セフレだけじゃないもん。月一の彼女と週七のセフレ、どっちがいいのって聞いたもん」


「その二択を聞いてきたことが問題なんだけどな」


 そして綾がちゃんとセフレと言えているのはセルフと混ざっているのだろう。セル……って言いかけてたしな。

 やばい。考えてた俺までセフレとセルフがごっちゃんになりそう……。


「えーと、何? 月一の彼女と週七のセフレのどっちか選べってこと?」


「うん」


 うん、って言われてもなぁ……。

 

「なぁ綾」


「うん?」


「男の子にセフレになろうとか簡単に言っちゃいけません」


 二択の前にまずは無防備なところを少し直してもらわないと。


「秀くんだから言うんだよ?」


「あの俺、これでも男なんですけど……」


「男の子は男の子。秀くんは秀くん」


 えっ、何? 俺だけ別の生き物扱い? やっぱ『天使の番人』は格が違うの?


「いくらツヨツヨの秀くんにでもセフレは無闇に使ったらダメです。つか、ぜってぇ俺以外には言うなよ?」


「言ったらどうなるの?」


「そうだなー。その時は男の子がみんなピュアじゃなくなって、味をしめた猛獣になる」


「秀くんもそうなるの?」


 ……えーと、うん。綾が純粋に質問しているのは分かってる。きっと何も考えてない。そう、ただ分からなかったから聞いているのだ。

  

 改めて綾の容姿を見る。

 ミルキーブラウンの編み込みが入ったロングに、優しい垂れ目。しっかりとした目鼻立ち。ぷっくりとした唇に日焼けを知らない白い肌。服を押し上げるほどの巨乳に、スラリと伸びた手足。全てが完璧と言っていいほどの調和で織りなされている。

 その容姿に、思わずたじろぐ。


 そして綾は今、俺の隣にいて腕を掴んでいる。

 微か腕に当たる胸の感触。ほのかに香るシャンプーの香り……。

 

 ……いかん。意識しちゃダメだ。気を逸らそう。


 そういや、綾が男が苦手になったのって、小学校で俺との仲を冷やかされたからだった気がする。そこからいつも俺の後ろに隠れるようになったよなぁ。

 教室でも廊下でも、事あるごとに絡んできて、いつも勘違いしてしまうくらい思わせぶりな近い距離感。いやもうゼロ距離と言っていいだろう。無自覚だから仕方ない。繰り返す、本人は無自覚なのだ。


 ――幼馴染は俺のことが好き

 

 そう思っても仕方ない。

 正直、選べと言われたら月一の彼女でも週七のセフレのどちらでもいい。綾と一緒に入れる時間があれば俺は幸せだから。


「秀くん?」


 綾はそんな視線を送る俺を、特に表情も変えることなく、逆にジーと見つめ返している。


 いかんいかん。純粋無垢な綾の前では賢者モードでいなければ。


「ま、まぁ俺はそこらの男の子とは格が違う秀くんだからそうはならないよ」


「秀くんすごーい」


 パチパチと手を叩いて尊敬の眼差しか知らないが、キラキラした目で綾が見てくる。


 ああ、辛い。とりあえず一緒に拍手しとこ。

 でも困ったなぁ。こんなに無自覚だといつヤ○チン野郎に食われる分からん。

 当然だが、綾は男に触られた経験はない。俺とスキンシップする時くらいだろう。いや、別にやましいことはしてないよ? スキンシップといってもハグしたり、膝の上に座られたりするだけだし。よく周りからは「距離感が恋人か!」とは言われるが……。

 

 よし。ここは心を鬼にして、男に触られるのがどういうことか教えるか。


「綾。もし、セフレを選んだ場合どんなことをしてくれるか今体験してみていい?」


「え、えぇ!?」


 顔を真っ赤にし、あわあわと狼狽える綾。さっき自分で意味を言ったから尚更だろう。

 

「さすがにえっちな事はなしで。それ以外はどんな事をしてくれるのかなーって」


「な、なるほど……」


 そこで納得したらダメなのよ綾さん。


「えーと、美味しい料理を作る」


「ほうほう」


「一緒に遊ぶ」


「ほうほう」


「添い寝する」


「ほうほう」


「あとは、えーとえーと……む、胸とか揉んでいいよ……?」


 お、おお! 中々大胆発言。


「なるほどな。じゃあ今できるとすれば胸を揉むことだし、早速体験していいか?」


「えぇ!?」


 添い寝と胸を揉むを比べた時、胸を選んじゃうところが男の子の本能なんですよ。やっぱりおっぱいがいい。


「ダメか? じゃないと彼女とセフレとの違いが分からないんだけど……」


 綾が今答えたことは彼女になったとしても変わらないと思うのは黙っておく。


「そうだよね、選んでもらうんだから……。いいよ、触って……」


 俺って最低な男だなとつくづく思う。


「じ、じゃあいくぞ……」

 

「う、うん……」


 綾もさすがに少し怖いのか、背中を向けて俺のズボンをギュッと握っていた。

 とりあえず下から持ち上げるように触る。


 むにゅん


「……」


 や、柔らけぇぇぇ!! なんだこの柔さか!!


 少し硬いのはブラジャーだとしても、手が吸い込まれるように胸にフィットしてく。


「お、おぉ……」


 夢中になって揉んでいると、


「んぅッ……」


 そんな甘い声が綾から漏れた。


「……」


 いつになく妙に艶っぽい彼女に思考が停止する。


 あれ? 俺、今何やってんだ? なんで幼馴染の胸なんて揉んでるんだ……?


 我に返り考え込む。

 甘酸っぱい雰囲気に満ちたい空気感。

 本来なら幼馴染で守る立場にいた俺になすがままされる綾。信頼を裏切っているようで背徳感が増す。


 あーどうましょう。これは色々とマズイ……。


「……秀くぅん?」


 上目遣いで見てくる綾の目の端には涙が溜まっていた。それはくすぐったいからなのか、恥ずかしからなのか。それとも感じて――ゴホンゴホン。とにかく無自覚にも程がある。これじゃ天使ではなくサキュバスだろ……。

 

 俺はどこか名残惜しそうな綾の胸から離れて頭を撫で、

 

「負けるな天宮秀……ここでパパになるのはさすがにマズイ……」


「パパ……? 秀くんパパになるの?」


 あかん綾さん。その発言は今一番しちゃダメです!!


「……綾はパパのこと好きか?」


「うん! 大好きだよ!」


 この純粋な笑顔を見てみろ天宮秀。己が今考えている雑念なんかが吹き飛ぶだろう。


 ……。

 …………。

 ……………押し倒してキスしたい。


 だぁぁぁぁぁ!! チクショーーーっ!!


「……綾。俺に『我慢しないとパパになっちゃうよ』って言ってくれ」


「う、うん……分かった。秀くん、我慢しないとパパになっちゃうよ?」


「ありがとう」


 頬を軽く叩き煩悩を払拭する。

 よしよし。俺は天宮秀だ。綾の幼馴染で天使の番人だ。


 話を逸らしてと。


「でも綾以外にセフレにならないって言われたら思わず頷いてしまいそうだな」


 だってもし、綾みたいな美少女に「セフレになってもらえますか?」って言われたら思わず「はい喜んで! わふわふ!」って言っちゃうだろ? えっ、最後のは余計? 


「えっ……秀くん他の女の子のセフレになちゃうの……?」


「あっ、あー違う違う!!」


「秀くんが他の女の子のところに行っちゃうの……ぐずっ……やだよぉ~~」


「泣かないでマイエンジェル!! 俺は綾以外とはセフレにならないから、絶対っ!」

 

 悲しませるつもりはなかったと焦ったせいで、なんだが口説いているような事を言ってしまった。口説いているというか最低なことを吐いている。君のセフレになりたいとか言い合ってる俺たち大丈夫かな……。


「そっかぁ。良かった~」


 えへへ、と安心した笑みを浮かべる綾。

 一応言っとく。俺たちは恋人ではありません。ただの幼馴染です。


 と、話もひと段落してきたところだし、そろそろ本題に入るとするか。


「で、他にも何か言う事があるんじゃないのか?」


 俺の言葉に綾は分かりやすく肩を跳ね上がらせる。

 やっぱりな。最初から何か隠していると思っていた。

 月一の彼女と週七のセフレ、どっちがいい?なんて普通、何か裏がないと聞かないだろう。


 綾は身を縮こませ、何かに怯えるようにギュッと俺のシャツを握ってきた。


「……ゆっくりでいいぞ。俺は綾が言うまで待つから」


 優しく声をかけると表情は不安そうなままだが、ゆっくりと口を開いた。


「私、遠くに引っ越しちゃうんだ……」


「……そうか」


 会話は一度そこで途切れた。

 俺たちももう高校三年生。進路も決まり、後はそれぞれのところに行くだけ。いつも報告とかは俺に真っ先にする綾が進路のことについては言わなかったのはこれが原因か。

 

 数十秒の沈黙の後、


「だからね、一人暮らしになっちゃうの。でも家賃は高いし、秀くんは地元に残るし……」


 と、ここまで言って綾は言葉を詰まらせた。

 

 あーなるほど。察したわ。

 俺たちはまだ付き合っていない。

 だからもし、付き合ったら月に一度しか会えない関係になる。

 セフレの方はあれだな。一緒に綾のところについて行く代わりに、お金はないから身体を提供するということだと思う。だから週七でセフレと……。

 

 綾なりに一生懸命考えたのだろう。

 なのになんだろうな。真面目な話をされているのに、笑みが漏れそうだ。


「なぁ綾。今二択の返事言っていい?」


「えっ、今!? う、うん……いいよ?」


「月一の彼女と週七のセフレのどちらかねぇ……。じゃあさ」


「う、うん」


「玄関で毎日とびきり可愛い笑顔で迎えてくれる彼女にする」


「っ……」


 月一の彼女と週七のセフレ。どっちがいいと聞かれたら俺は第三の選択肢を選ぶ。選択肢になくてちょっとずるいが、これで俺の答えだ。と同時に俺の想いも伝わっただろう。


 綾が上目遣いでこちらを見上げる。

 混乱と歓喜が合わさった表情の彼女を抱きしめ、


「たくっ……。ちゃんとした告白もまだなのに難しいこと考えやがって。素直に寂しいからついて来てって言えばいいのに」


「えと、えと……秀くん……?」


 綾から離れ、向き合う形で告げる。


「俺は綾が好きだからどこだってついて行くぞ」


 人一倍傷つきやすくて、人一倍頑張り屋さんで、人一倍優しい彼女が好きだ。幼馴染としてではなく、一人の女の子として。


 昔はほっとけない可愛い妹として守ってきた。

 今は好きな人だからほっとけないというのを口実に独占して守ってきた。

 いつも俺がリードしてきた。だから今もこれからも俺が彼女をリードする。


「わっ、私も秀くんとこと好き……大好きっ!」


「おっと」


 飛びつくように勢いよく俺の胸に飛び込んできた綾を受け止める。


「よしよし。よく言えたな」


 優しく頭を撫でると、にひひーとふにゃけた笑顔を見せてくれた。


「秀くんが好きなことバレてた……?」


「おう、めっちゃバレバレ。むしろこれで好きじゃなかったら俺は女性恐怖症になる。という俺もただ漏れだっただろ?」


「うん! いつも守ってくれるから!」


 良かった。ちゃんと行動おもいが伝わってて。

 

「というか、セフレって言葉どこで覚えたんだ?」


「と、友達に聞いたっ。男の子を誘惑するならやっぱり身体だって。だからセフレの関係持ち込めばイチコロとか……」


「その友達め、なんつーこと綾に教え込んでるんだよ……。うちの純粋無垢な天使がえっちになったらどうしてくれるんだ……」


 アドバイスがロクでもねぇな。今度どんな奴が見てみよう。


「ふぇ? 秀くんは私がえっちだとダメなの?」


「……」


 この無自覚さんめ……はぁ。


 俺は無言で綾を後ろ向きに抱き寄せ、そのままバッグハグする。


「どうしたの秀くん?」


「後ろから抱きしめたかっただけ」


 本当のところは直視できない。だって彼女が可愛すぎるから。


「そうなの? でも秀くんの顔が見えないから寂しいなぁ……」


 綾は膨れ顔でそう言いもぞもぞと動き出した。そして身体が向き合う形になる。


「えへへ、やっぱ正面から抱きしめられる方がいいや」


 ……お付き合いすっとばして結婚したい。いや、絶対結婚するッ!


「綾」


「んー?」


「月一の彼女と週七のセフレのどっちがいいなんてもう言うなよ。綾は俺の一生の奥さんなんだから」


 綾は「奥さんはまだ早いよ〜」と言いながらもその言葉を否定することはなかった。

 

 幼馴染から恋人へ。さらには結婚して夫婦に。

 俺たちの選択肢みらいなんて始めから一つしかない。

 

 そう。ずっと隣で二人幸せに過ごす未来しか――


              完

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