序章
そこは暗かったけれど、少しも
けれど、五歳年上の従兄は、もっと難しくて広い遊び場を求め、外に飛び出したのだ。
何度か遊びに来ている場所とは言え、
きっと小さな
けれどそこは、ひよりの想像とは少し
まず
「ここ、どこだろう」
ひよりは小さな
「わあ……! すごい、ぴかぴかだ」
子どもの目を引いたのは、棚の中ほどにあり、皿のように立てかけられた
それは土にまみれてくすんでいて、ひよりの言うような「ぴかぴか」ではない。
けれどひよりはその円盤が鏡であることにすぐ気づいたし、彼女の目にはどんな調度品よりも美しく
ひよりはうっとりと鏡を見つめる。丸っこい指で鏡に
『
静かな女性の声がした。
「でも、ぴかぴかだから、わたしがさわったら
『ぴかぴか? 面白いことを言うのね』
「うん。あのね、前におまつりでね、りんごあめを食べたんです。そのときのぴかぴかとおんなじだと思う」
『りんごあめ』
「おねえさんは食べたことありますか? つやつやのぴかぴかで、すごーくきれいなの」
ひよりは
「それでね、あまくて、なかみを食べるとちょっとすっぱいんです。歯を立てるとあめがくっついちゃうけど、ずっとなめてるとね、あまいのが口の中いっぱいに広がって、ゆめみたいにおいしいの」
りんごあめを語るひよりの顔はとろけていて、声の主はくすっと笑う。
『そう。あなたにはそんなふうに見えるのね』
「ここはどこですか? おねえさんのお
『いいえ、ここはお店。いわくつきの
そんなことより、と声は思い直したように言った。
『ねえ、聞いてくれる? 〝私〟のかりそめの姿は、ぴかぴかじゃないの。年月と
そこでひよりは気づいた。この声は鏡から発せられている。鏡がひよりに語りかけてきているのだ。
『……でも、そう。ほんとうの姿は、あなたの見ている通り』
『私がぴかぴかに見えるあなた、
「丸い心?」
『
ひよりには難しい言葉だらけだ。首を
『前にもあなたみたいな人がいて、私はその人と約束したの。またその力を持つ者が現れたら、協力してあげるのよって。すごく昔のことだけれど、ええ、今も忘れてはいないのよ』
よく分からなかったけれど、とても
足元がゆわんと
「またお話しできる?」
『分からない。次会うとき、私はもうぴかぴかに見えないかもしれない。あなたはここに入ることすらできないかもしれない。……けれど』
声が優しくひよりの
『あなたなら
さようなら。また会いましょう。
そう言い残し、声はぷつんと
ひよりはのろのろとその建物を出た。
「なんのお店だったんだろう」
女性の言葉は難しくて、半分も理解できなかった。ここが何を売っているお店なのかも分からずじまいだ。
それでも、何か大切なことを告げられたことは、何となく頭に残っていて、ひよりは何度も振り返りながら、新しい隠れ場所を探して
いずれまたこの「店」を
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