今日の好きな相手が私なだけ

和泉 有

今日の好きな相手が私なだけ

 長い長い受験が終わり、私は憧れの東京の大学生になっていた。そして、人生初めての1人暮らしだ。今日は入学式で、当たり前のように知らない人ばっかだったが、入学式で隣の人がこの大学のグループLINEを教えてくれて、そこで何人か友達ができた。

 それから早1ヶ月が過ぎ、友達ともよく遊ぶようになった時、私はサークルを勧められていた。

「ねぇー。入ろうよ」

「分かったから。とりあえず、見学だけするからさ」

 私は友達の圧に押され、私合わせて4人でサークルの見学に行った。行ってみるととてもいい雰囲気だと思った。

「君たち。見学の子ら?」

 私たちは男の人に話しかけられた。話を聞くとそのサークルに入ってる2個上の先輩だった。

「そうだ。今度新歓あるからインスタ交換しない?」

 私たちはスマホを先輩に向けた。それからは先輩と喋っていた。見学を終え、4人でカフェにいた。

「さっきの人かっこよかったね」

「本当にね。やっぱり年上ってかっこいいよね」

 こんな風に先輩の話ばっかりだった。確かにスッと身長も高く、顔もだいぶ整っていた。1人の子が「他にもイケメン多いらしいよ」と話を変えた。

「じゃあ、私入ろうかな」

 1人がそういうと「私も」とみんなが入るのを決心していた。気がつくと私もその1人になっていた。

 家の帰り道。先輩から「今日はありがとう」とメッセージが来ていた。私は急いで「こちらこそありがとうございます」と返信した。その後、なぜかトークが続いた。そして流れかのようにLINEに移行した。

 それから数日後、私たちはサークルに入るために見学した場所に行った。LINEでは喋っていたが、リアルで会うのは数日ぶりだった。先輩は私を見つけるなり、私の名前を呼んだ。私たちはたわいのない会話をして、その場から離れた。

「ねぇ!あの人とどんな関係なの?」

 友達が興味深そうに私に聞いてきた。私は「ちょっと仲良くなっただけ」と答えると「いいなー」と羨ましがっていた。

「私も先輩と仲良くなりたいな」

「新歓行ったらなれると思うよ」

「確かにね。なんか新歓楽しみになってきた」

 私たちは次の講義の準備をした。

 あっという間に新歓の日になり、私たちは会場に行くと3、40人くらいが集まっていた。先輩が私を見つけると「こっちこっち」と声をかけてくれた。

「早速、中入って。もうちょいで始まるから」

 私たちはお店の中に入った。数分した後にリーダーらしき人が「みんな揃った?」と指示を飛ばしていた。

「大体、揃ったぽい」

「了解。みんなとりあえず、ドリンクだけ頼んでください」

 それと同時にみんながドリンクを頼みだした。友達は聞いたことのないドリンクの名前をどんどん言っていた。私は「アップルジュースで」と答えると「なんでソフトドリンクなの」と友達に笑われた。みんなが言っていたのはジュースじゃなくてお酒だった。

「私、飲んだことないんだ」

 と答えると「じゃあ、最初はこれがいいよ」と教えられたのはカシスオレンジっていうお酒だった。

 お酒も来てさっきのリーダーぽい人が前に立った。

「えー。今回はうちの新歓に来てくれて、ありがとうございます。今日は楽しみましょう!乾杯!」

「かんぱーい!」

 みんながそう言って、持っていたドリンクを飲み始めた。私も急いでグラスに口を付けた。私は初めてのお酒だったが、このカシスオレンジっていうお酒はだいぶ飲みやすく、まるでジュースの様だった。

「美味しい?」

 と心配そうに友達が聞いてきたので「めっちゃ美味しいよ」と元気に返した。

 こんな風に新歓は大いに盛り上がっていた。友達とたわいの無い話をしていると、先輩たちがやってきた。

「どう?楽しい?」

「はい!」

 私たちは元気に返した。

「じゃあ、もっと飲もっか!」

 最初のお酒を飲んでからだいぶ時間が経っていたが、まだ1杯しか飲んでいなかった私は少し心配になった。大丈夫かなと。

 そんな心配とは裏腹に他の3人の友達は当たり前のようにお酒を注文していた。私はまたカシスオレンジを頼もうとしたが「もっと、他のやつ頼もうよ」と友達に言われた。

「そんなこと言われたって何飲めばいいかわからないし」

「じゃあ、私に任せて!」

 別に信頼してないわけではないが、なんかとても怖い。

 数分後、私たちが頼んだお酒がやってきた。炭酸水の様なものが私の目の前にやってきた。私は恐る恐るそれを口につけた。さっきのやつよりだいぶアルコールの味が強く感じた。

「何これ?」

「レモンハイだよ」

 確かにレモンの味はした。でもさっきのやつの方が私は好きだ。みんなはガブガブとお酒を飲んでいた。昔から飲んでいたのだろう。私はちょびちょびとしか飲めなかった。それを見た友達は「もっと、バーって飲もうよ!」と吹っかけてきた。

「そんなことできないよ。今でもちょっときついのに」

「そんなノリの悪いこと言わずにさ!」

 本来そんなこと言わない子なのに。きっと酔っているのだろう。お酒って怖い。

 私はそれでも飲むのを躊躇っていた。きっと私は弱いはずだ。それなのに一気ぽいことしたらやばい気がする。私はグラスを持ったままでいた。友だちはずっと「飲め飲め」と言っていた。これは飲まないと終わらない気がした。

 私は決心をし、グラスを持ち上げたその時。大きな手が私のグラスを掴んだ。その手の先を見ると先輩だった。先輩はグラスを自分の口に持っていき、そのまま残り全てを飲みあげた。

「あー。久しぶりにレモン杯飲んだわ。やっぱ、うまいな」

 友達は「かっこいいですね」といつもだったら言わないことを先輩に言った。

「じゃあ、俺たちもういくわ」

 先輩たちが私たちの元を離れようとした時に小さい声で「無理だけはすんなよ」とかけてくれた。振り返ると先輩は手を振って他の席に行っていた。

 私は新歓のあとLINEでさっきのお礼を言った。そしたら「いつでも助けるよ」と一言だけ返してくれた。顔がぽっと熱くなったのがわかった。






 新歓から数週間が経っていて、サークルにも慣れていた。私は何故か先輩を目で追っていた。LINEでも、リアルでもよく喋っていた私たちはどんどんと仲を深めていた。そんなある日。大学も終わり、家でご飯を食べていたら、先輩からLINEが来た。

「今度飯行かない?」

 その一言だけだった。私は急なことで味噌汁を溢しそうになった。私は二つ返事で了承した。ご飯行くには今度の週末でまさかの2人きりだった。私は誘われた日からそのことで頭がいっぱいになった。友達からは「ぼーっとすること増えたね」と言われた。そんなこと言われたのは初めてだ。

 日が経つのは早いもので気がついたら週末になっていた。私は大学が終わるととりあえず家に帰ってメイクを直した。少しでも可愛いと思って欲しかった。私は少し早めに家を出た。集合場所について時計を見るとまだ時間まで30分もあった。どれだけ楽しみにしてるんだよと初めて自分の事をツッコんだ。時間の5分前に先輩が来て「来んの早ない?」と笑ってくれた。私たちは先輩の行きつけの居酒屋に行った。

「ここの店長うちの大学のOBなんだよ」

「へぇー。すごい。じゃあ、仲良いですか?」

「そこそこ、仲良くさせてもらってるよ。だから、ちょっとくらいなら割引きさせてくれるんだよ」

 それと一緒に「それに飯もうまいし」と付け足した。そんな会話をしていたら、店員さんが来てメニューが渡された。

「ドリンク何がいいかな?何か飲みやすい物とかあります?」

「あんま、無理すんなって」

 と、先輩から優しい忠告を受けたが、私は先輩と楽しく飲みたかったので「大丈夫!飲みます!」と言い張った。すると、先輩は「じゃあ、これとかはいけると思うよ」とカルーアミルクというお酒がいいと言った。先輩が店員さんを呼んで注文をした。私は先輩に気付かれないように先輩を見ていた。

 注文してすぐにドリンクだけ来た。私はカルーアミルクで先輩はビールだった。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

 私たちはコンっとグラスで音を鳴らした。先輩は一口でほとんどを飲みあげた。やっぱ、かっこいい。私はミルクを飲む子猫のようにちょびちょびと飲んだ。味も見た目もコーヒー牛乳でとても飲みやすかった。

「どう?美味いだろう?」

「はい!コーヒー牛乳みたい」

 そのあとはたくさん料理がきた。どれも美味しかった。それに楽しかった。初めて先輩とこんなに喋った。私はそれだけで満足してしまっている。

「お姉さん。ハイボールください」

 先輩はもう次のお酒を頼もうとしていた。私はまだ半分も残っているのに。私は急いで残りを飲み込んだ。

「まじで無理すんなって」

 先輩は心配そうに私に問いかける。私は「大丈夫」の一点張りだった。

「先輩。私のやつも頼んでくださいよ」

「え?何がいい?」

「なんでもいいですよ」

「じゃあ」と先輩は店員さんを呼んで私のドリンクを頼んでれた。すぐにドリンクが来た。私はお酒の名前も聞かずにそれを口に運んだ。

「美味しいですね」

「あぁ。じゃあ、よかった」

 顔が熱くなったのがわかった。私は訳がわからないままお酒を飲み続けた。

 気がつくと自分の家のベッドで寝ていた。時計を見ると11時を過ぎたくらいだった。頭が痛いし、吐き気もする。スマホの通知を見ると先輩から「大丈夫?」とLINEが来ていた。何が何だかわからなかった私は先輩に聞くと先輩が私のことを運んでくれたらしい。私は先輩に謝罪のLINEの文を送った。そしたら「いつでも助けるって言ったろ?」と返ってきた。私はその言葉だけで胸が高鳴った。






 それから何度も先輩とご飯に行った。私はあれからは気をつけながらお酒を飲んだ。同じようなミスを犯したくなかったし、先輩の前でそんな無様な姿を見せたくなかった。

 そんなある日。私の名前を呼ぶ声が聞こえたから声がする方を見ると友達がニヤニヤしながら先輩との関係性を尋ねられた。

「ただ、ご飯行ってるだけだよ」

「じゃあ。好きじゃないの?」

 私はその言葉で顔が熱くなったのがわかった。それ見た友達が「顔赤くなってない?」と大きな声で言われた。「そんなことないよ」と言ったが、そんなの信じてくれずみんなに言われて、勝手に応援された。

 3年生は就活が始まって、先輩たちが顔を見せることが少なくなった。1、2年と就活を終えた4年生でサークルを回していた。と言ってもすることはあまりなくただ喋るだけだが。

 そんなある日。先輩から「家来る?」とLINEが来た。急のことでびっくりした私だったが、「はい!いきます」と返信した。日にちは今夜らしく私は少し急いで準備をした。先輩の家の場所はここから電車で10分くらいで着くところにあった。私たちは先輩の家の最寄り駅で集合することになった。先輩は今年から1人暮らしらしく、男の子の部屋からするとだいぶ片付けられていた。

「適当に座って。飲みもん何がいい?」

「お茶でいいですよ」

 先輩はお茶を持ってきて、私の横に座った。先輩の家にはテレビはなく、その代わりにプロジェクターがあった。先輩は部屋を暗くしてプロジェクターの電源をつけた。

「何見たい?」

 先輩はパソコンで操作をしていて、Netflixのアプリを開いた。私は最近話題の映画を提案し、先輩はその映画を再生した。

 映画のクライマックスで先輩は立ち上がった。すると急に私のことを後ろからぎゅっと抱きしめた。私はびっくりして、胸の鼓動が早くなった。私はどうしたらいいかわからないまま、映画を見ていた。先輩の顔が私の耳のところまで来て、「好き」と囁いた。私の鼓動は有り得ないくらい早くなり、頭が真っ白になった。

 映画の音だけが部屋中に響いていた。映画のヒロインが告白したのに私はまだ何も言えていない。先輩は私の名前を呼んでくれて「好き」と言っている。それだけでも嬉しいのに先輩と私の体は密着されていた。

「わ、私も」

 私は情けない声を出した。先輩はクスッと笑い私の顔と先輩の顔が重なった。先輩の唇はとても柔らかかった。先輩は舌を私の口に入れた。それがどんなけ幸せだったか。言葉では表すことができなかった。先輩の大きな手は徐に私の胸へと向かった。初めてのことで戸惑いもあったが、それを受け止めた。先輩は私の目の前に行き、またキスをした。そして服を脱がしながら。

 私たちはベッドで寝ていた。そう、私の初めては先輩に呆気なくあげてしまった。とても痛かった。でも、それ以上に嬉しかった。先輩と一緒になれたことが。私は本気で先輩のことが好きだから、先輩の『モノ』になるだけで私は満足になってしまった。

 映画のヒロインはただただキスをして終わっていた。







 私たちはその後も2、3回程度ヤった。最初の痛みはもうどっかに消えていた。気持ちいいとかそんなことよりも先輩とヤレるのが私にとって嬉しかった。先輩だから身体を預ける。

 私たちは会う回数が減ってきた。原因は先輩の就活のせいだ。私は頑張ってる姿を見たいが、邪魔もしたくなかった。それでもLINEは続けていた。先輩の一言一言が胸に沁みる。それくらい私は先輩の虜になっていた。LINEで「久しぶりに飯食う?」と誘われた。私は当たり前のようにそれをOKした。いつもの集合場所でいつもの居酒屋で。

「久しぶり」

「久しぶりです」

 先輩は元気そうだった。それだけでなぜか嬉しかった。

「就活の調子はどうなんですか?」

「ん?まぁまぁかな」

 私たちはたわいのない会話をしていた。そこに店員さんがきて注文をとりお酒が運ばれて乾杯をし、喋りながらきたご飯を食べる。それだけなのにそれがとても楽しい。

「俺さ、久しぶりにサークルに顔出すわ」

「え?いつ?」

「週末かな」

 その一言。それだけなのに。飛び上がるほど嬉しい。

「どうして急に来ようと思ったんですか?」

「いや、色々あって」

 と笑って誤魔化された。私は若干気になりはしたが、他の話題に変えた。

 あっという間に週末になり、いつも通りサークルに行った。今日は先輩が来るからとても楽しみだった。サークルに着くと先輩がいた。なぜか、隣には知らない女性も座っていた。

 みんな先輩に会うのが久しぶりだったから、みんな先輩のところに集まった。

「先輩。このお方は誰なんですか?」

「あー、この人はこのサークルのOBだよ」

 と言ったら隣のOBもペコっと頭を下げて「よろしく」と挨拶をした。とても綺麗な人だった。本当にキャリアウーマンって感じがした。

 それと同時に私は良かったと胸をなでおろした。先輩の彼女ないかと思ったからだ。でも、あの女の人と喋ってる方がとても楽しそうに見えた。

「先輩まさか付き合ってるんですか?」

 と私と同期の男の子が言った。すると「まぁ、そんな感じかな」と答えた。

「え?」

 私は唖然とした。何も考えられなかった。私は頭を整理した。整理した瞬間。一気に涙が溢れた。悲しいとか悔しいとかじゃない。言葉では表現できない感情が生まれていた。私は急いでトイレへと向かった。

 誰もいない女子トイレは私の泣き声で響いていた。

 それから数日後。私はサークルを辞めた。あそこにいてもどうせ悲しいだけ。そんなことなら私の方から逃げればいい。でも、本当は逃げたくはない。でも、今の私には逃げることしかできなかった。

 あの時言ってくれた先輩の言葉は嘘か本当かわからない。でも、嘘をつけれない人だって言うことは私は知っている。

 きっと、セックスをしたあの日だけ。あの瞬間だけ。私のことを好きになってくれたんだろう。それでもいい。もっと、もっと私のこと愛してほしかった。

 私はずっとあなたのことが大好きだよ。

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