嘘つき皇后様は波乱の始まり
淡 湊世花/ビーズログ文庫
序章 波乱の始まり
コチュンは、王宮勤めを始めたばかりの新米女中である。
それなのに、思いがけずコチュンは裸の男と向き合っていた。
「ぎっ、ぎゃああああっ!」
◆
すべては、時をさかのぼること一刻前。女中仲間のムイが、コチュンに泣きついてきたことに始まる。
「どうしようコチュン、
コチュンは、親友の血の気の引いた顔を見あげた。ムイは同じ時期に働き始めた女中仲間で、背が高く大人びた子だ。対するコチュンは、
「ムイは
コチュンは
当然、ムイもそのことはわかっているはず。それなのに、コチュンの雑巾を取りあげてまでも、ムイには騒がなければならない事情があった。
「どんなに探してもどこにも落ちてなかったのよ! きっと、皇后様の
「それ本当なの?」
「もうそれしか考えられないよ!」
いよいよムイは
先月、バンサ国の若き
それが、新皇后のニジェナ様だ。
ニジェナ様は、ユープー国王の妹君であられる。トゥルム様との
「そんなことになったらどうしよう、わたし絶対に
ゃうわ!」
解雇で済めばまだいいほうだ。
くれるムイが勢いで窓から飛び降りかねない。かといって、このままにもできない。
そのとき、コチュンはハッと
「なら、皇后様が化粧着を着る前に、針を
「どうやって?」
「化粧着って湯あみのあとに着るでしょ。仕立て直した化粧着も、お
「そんなことできる? わたしたちみたいな下っ端の女中は、皇帝夫妻の
ムイは不安を口にした。皇帝夫妻が居住するのは、
だが、宮殿の警備は王宮より厳重で、新米女中たちが気軽に訪れてもいい場所ではない。
「
コチュンは掃除道具を物置に片付けると、
コチュンはちびで痩せっぽちな少女である。ムイはおどおどしていて、いかにも
「コチュン、あれを見て」
落ち着きなく周囲を見回していたムイが、
コチュンは
「ムイ、手を貸して。あの窓から中に入れると思う」
ムイは
ムイの手を借りて、コチュンは難なく換気窓に手をかけることができた。だが、ムイには
「ムイは先に
「ごめんね、コチュン。気をつけて」
コチュンは答える代わりに
コチュンが降り立ったのは
音を立てずに脱衣所を横切ると、あっけなく化粧着を手にすることができた。しかし、指先にチクリとした痛みが走り、コチュンは身体を硬くした。化粧着を
これでもう安心。あとは、一刻も早くここから出るだけだ。コチュンは入ってきたときと同じ手口で外に出ようと、窓まで戻ろうとした。ところが、そのときだ。
「トゥルム、そこにいるのか?」
ほのかに低くて落ち着いた声と同時に、風呂場と脱衣所を隔てた垂れ幕が開かれた。コチュンが身を
「お前、こんなところで何をしている?」
コチュンは
「ご、ご無礼をお許しください、これには訳がありまして……」
コチュンは、事のあらましを説明しようと、ニジェナ様を
「……!?」
その目線の先に、あってはならないものが飛び込んできた。絶世の美女で、この国の新皇后で、トゥルム皇帝陛下の妻であるニジェナ様のお身体に、なぜか男の一物がぶら下がっているのだ。
「ぎっ、ぎゃああああああ!」
コチュンは
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