「その時私は走り出す」

山崎 藤吾

「その時私は走り出す」

 その1


  「ハァ…ハァ……」

 口から出る白い息が煙のように

 暗い夜空へと消えていった。

 私はとても早く急ぐように走っている。

 真っ直ぐ続く夜の道が

 なぜかとても寂しく感じ

 一体私はなぜ走っているのだろうという

 疑問が脳裏から無くなる様に

 私は走った、走り続けた、

 そして寒い夜中に

 誰もいない街の中を永遠走りいた。

 こんなに悲しく

 苦しいのは久しぶりだな……

 一体なにがこんなにも苦しいのだろうか?

 それは今は分からない……。

 走りながら横目に通り過ぎる街頭

 誰もいない服屋のマネキン

 同じ時が何度も

 繰り返されてる様に

 幾度も光る黄色信号機を

 私は追うように走り続けた。


 その2


 さっきから私はなぜこんなにも

 感情的に走っているのか、

 急いでいるから?

 焦っているから?

 それとも追い詰められてるから?

 きっと、答えは全部なんだろう

 色々なことを後回しにして置いてきて

 見捨ててきて見て見ぬふりをし続けて

 そんな事ばかりしていたから

 今こうやって

 走るハメになっているんだろう……。

 別に、何か大きいことを

 見捨てたとかしなかったとかではない

 ただほんと些細なことだった……

 人間小さいことで

 こんなにも狂うなんて…

 思ってもいなかった。

 いやそもそも

 思いたくなかったのかも知れない。


 その3


 私が若い頃の話

 何年も開けていない襖のように

 ほこりっぽく懐かしい記憶だ。


 昔、友達と一緒に外の

 川辺で遊んでいた。

 すると皆で鬼ごっこを始めた。

 最初はタダの鬼ごっこだったけれど

 次第にルールが変化し最終的にはただの

 追いかけっ子になってしまった。

 みんなは一斉に

 川辺の下流の方に走り出すと

 そこで問題が起きた。

 友達のAくんが筆頭となり

 Gくんを勝手に鬼にして

 逃げ出してしまったのだ。

 みんなは急ぐようにして

 Gくんから逃げ惑う

 まるでGくんが本物の鬼であるかのように

 私もA君たちと一緒になって

 Gくんから逃げる。

 するとその時Gくんが

 転んでしまった。

 私はその光景を目にしたが

 助けようとはせずに怖くなって

 ついその場から逃げだしてしまった。

 あれから目を逸らさなかったら

 私は今この場所をこんなに縦横無尽に

 走りぬくことは無かったのだろう…

 人生はキツかろうが、辛かろうが

 いつかはソレがやってくる

 私の後ろに迫ってる後悔と罪悪感の

 概念たちが攻めるように

 追いかけている様に。


 その4


 私はこんな自分がずっと嫌いだ。

 後々になって後悔するくせに

 いざその状況になると

 怖くて何も出来なくなる。

 だかそんな醜い自分もここら辺で

 もう終わりにしなくちゃいけない。

 いい加減私も大人だ

 逃げてばかりでは駄目だ。

 そろそろ本当に現実と親身に向き合って

 一つ一つちゃんと自分の中で

 精算しなきゃいけない。

 例えそれが自分にとって

 辛く苦しかろうとも

 私にはアレと向き合う義務がある。

 ここまで走って逃げてきてようやく

 本心からそう思えるようになった。

 だから私は今からアレと

 向き合おうと思う。

 足取りを緩め少しづつ減速し

 ピタッと止まり

 ゆっくりと後ろを売り向く。

 するとそこにはアレが

 すぐそこまで迫っていた。

 私はアレを見て軽く深呼吸をすると

 覚悟を決めて

 目の前から向かってくる

 後悔と過ちの概念を

 余すことなくすべて受け入れる。



 そして私は、また一つ……

 小さな過ちを犯すのだった。


 ─終わり─

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「その時私は走り出す」 山崎 藤吾 @Marble2002

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