第4話 小学・中学・高校と
Sさんの息子の健人君は小さい頃から目敏い子だった
常に周囲に気を配り大きな強い子の後ろに着いていて上手く立ち回りそつなくやり過ごせていた
それは子供の頃からすでに自分の資質がわかっていて、弱い上に根性がなく暴力に怯える性格だからだった
ある時Sさんは知人からプロレス団体の興行チケットをもらったので健人君を連れて行く。リングサイド席だったがメーンイベントの試合で場外乱闘が始まった
前から3列目だったので
「こっちまで来るかしら?」
Sさんが心配になって隣の健人君を見ると、いつの間にか音もなく椅子を吹っ飛ばしていて姿がない
探して振り向いた真っ直ぐ先の遠く、会場の外扉に体を張り付け、いつでも出られるような格好でいたという
それくらい、怖がりなので中学生になって町の柔道教室に入れた
ところがじきに指導コーチに「彼は無理です」と断られた
健人君は「痛くされるのが怖い」と言い対戦相手に八百長試合を提案して自分が必ず負けるから、その代わりに痛くしないで技をかけてくれ、とお願いしていたという
「元々、そういうのが嫌いなのに男の子だから少しは強くなった方がいいと考えた私が悪かったの」
Sさんは笑い話よね、と口角だけ上げて笑った
中学時代に柔道教室に入れたのはSさんの仕事が忙しくなり祖母宅で過ごすことが増え、そこでたくさん出してくれたお菓子を食べたせいで成長期とはいえ少し太り始めたことがきっかけだった
同時に太ったことをからかう同級生が体操着に蛍光ペンで臭いブタと書いたのを見つけてイジメられているのでは?と思ったことも大きな理由だ
健人君に落書きはイジメじゃないのか?と聞いても「保育園の時からの友達なのにそんなわけないでしょ」と否定されたが
「私は誰がやったのか?なんて聞いてないの、中学は四方の地区の子達が集まるけど小さな頃から知っている子達に、中学生になってからやられていたってことを白状しちゃってたのよね、あの子」
高校に入るとSさんの想像を超えることが次々と起きた
少し遠くの高校に入学した健人君はまだ慣れない土地の本屋で漫画本を万引きして捕まり警察から呼び出しがきたのが始まりだった
その後もタバコ所持で停学になるまで、何回か学校から呼び出されるたびにSさんは学校の教育指導の先生方とのやり取りで状況を聞いても健人君を信じて庇うが健人君は友達を庇い何も話さないまま罪を全て認めていた
健人君にとってそれが友情のしるしだったのだろうか?
Sさんは担任の先生から「おそらく彼は友達が吸うタバコを代わりに持っていただけだと思います。ライターがないからどうやって吸ったのかと聞いたら吸った後で捨てたと答えてまして、とっさの嘘もスラスラ言えるようになってきているのが心配ですね」と打ち明けられても、どうしたらいいのか全くわからなくなっていた
「担任の先生に付き添われて万引きした本屋に謝りに行ったとき、あの子は学校から本屋までの行き方を知らなかったのですよ、まだ駅と学校への行き来だけだから学校から離れたルートの本屋は知らない場所でした。先生は心当たりがあるらしく、何度も何度も誰かに連れて来られただろう?って聞いても、1人で偶然に入った本屋さんですって言うだけで」
本屋の店員が健人君を捕まえたときに逃げて行く数人の生徒を見たと警察や担任に報告していたという
それを告げても
「それ、友達だったら逃げないと思います、偶然知らない人が走ってただけです」
健人君はどんな気持ちでそう言ったのだろうか?
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