美少女だらけのハーレムなのはいいとして、なんで俺のハーレムにはツンデレヒロインしかいねぇんだよ!
本町かまくら
第1話
俺、御崎八太郎(みさきやたろう)は、そりゃもう健全な男子高校生はわけで。
美少女だらけのキャッキャッウフフなハーレムラブコメをいつだって期待しているわけで。
そんな高校生活が送れたらもう最高なのだ、が……。
「ねぇ八太郎、今日は私とで、で、デートとはちょっと違う遠回り寄り道アリのお散歩をしなさい!!!」
「いや、今日は私と走り込みをするんだよな、八太郎君。べ、別に二人で楽しくランニングしたいとか、そういう思惑はないぞ! ただ、トレーニングをだな……」
「先輩は私とカフェに行くんですよね? ちなみに、これは別に私が先輩のことを誘っているわけではないですからね! これはぼっちの先輩を労わってあげる私の優しさで……」
俺の机の押し寄せる、剣幕がすごい美少女三人。
周りの男子はもれなく全員ハンカチを噛みながら「呪ってやる……」とおぞましい怨念を放出している。
それくらいに、全男子高校生としては『憧れ』のシチュエーションなわけだが。
「とりあえず、離れてくれます⁈」
なんで全員、ツンデレヒロインなんですか!!!!!!
***
「起きなさい、八太郎。じゃないと私、いたづらしちゃうわよ」
眠い。
昨日は好きな深夜番組、「水着だらけの大運動会!」という男なら一度は見たことがあるテレビを見ていたため、寝不足だ。
だが、寝不足までがワンセット。
もはや、「俺昨日これ見てて寝れてねぇわ」と言うのが本命である。
「あれ? もしかして本当に寝てる? じゃ、じゃあ……」
ぎしっ、とベッドが軋む音で、俺は一気に覚醒した。
目を見開くと、俺にまたがるようにして、金髪ツインテールの美少女が顔を真っ赤にして俺のことを見つめていた。
「何やってんだよ、沙耶」
隣の家に住む幼馴染である。
ちなみに、貧乳だ。(言ったら殺されます☆)
「い、いやこれは違うのよ! そう、別にこれは八太郎の寝顔が無防備だからちょっといたづらしちゃおうかな、とかそういう下心があっての行動じゃなくて! ってか、別に八太郎のことなんか好きじゃないんだかねっ!」
「いやなげぇしなんで説明口調なんだよ。下心があったようにしか聞こえねぇよ」
「は、はぁ⁈ なんで私が八太郎なんかに好意を抱いてる前提なのよ! 八太郎なんか、ただ十年前からずっと一緒にいて、幼い頃に『大人になったら結婚しようね』っていう約束交わして未だにそれを覚えてるくらいの幼馴染なんだからねっ!」
もうそれ好きじゃん。好きって言ってるようなもんじゃん。
ただ沙耶は何やら自慢げに俺のことを見下ろしていて、相変わらずバカだなぁと思う。
「はいはいわかったから、そこどいてくれる?」
「あ、あんたに言われなくてもどくわよ!」
そう言いながらも、少し残念そうな顔をする幼馴染だった。
別に頼んでもないのに、自ら俺を起こしにくる幼馴染と一緒に家を出る。
これは出会った十年前からずっとそうであり、おかげさまで休みの日は昼過ぎまで寝る俺が遅刻ゼロ回の快挙を達成している。
まぁ、休みの日も大概誰かしらに起こされるんだが。
「あっ八太郎、ネクタイ曲がってるわよ」
「別にネクタイくらいどうでもいいだろ」
「ダメよ。ほら直しなさい」
「めんどくさいからいいって」
「……もう、しょうがないわね」
ため息をついて、沙耶が俺のネクタイを正し始めた。
それも、通学路のど真ん中の、同じ高校の奴らがいる前で。
「あれ、坂宮さんじゃね?」
「めっちゃ可愛いじゃん!」
「あの二人って毎日一緒に登校してるよね。やっぱり付き合ってるんじゃ……」
周囲の噂話を聞いて、みるみる顔を真っ赤にさせていく沙耶。
「で、できたわよ……」
「さんきゅー」
こういう視線には慣れているので、お構いなしに歩く。
すると沙耶が俺の制服の袖を力強くつかんだ。
「べ、別に私とあんたは付き合ってなんかないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「それ、俺に言う?」
「う、うるさい! で、でもまぁ……付き合ってほしいって土下座で頼んだら、考えて挙げなくもないけど……(ボソッ)」
「え? なんて?」
「なんでもないわよっ!」
鞄で後頭部を殴られる。
鞄って弁当とか教科書とか入ってるから、何気に痛いんだぞ……。
ただ、殴られ過ぎて硬化した俺の後頭部は、もはやたんこぶすらできないけどな。
悲しい人類の進化だな……。
正門につくと、たまたま朝の走り込みをしている先輩に出会った。
「おぉ八太郎君ではないか!」
「こんにちは、美琴先輩。今日も走り込みですか?」
「うむ! やはりこういうのは継続することが大事だからな! 八太郎君も、私とどうだい?」
「遠慮しときます」
「そうかそうか!」
そう笑いながら、タオルで汗を拭う美琴先輩。
美琴先輩は、三年生で剣道部の部長。
一年生の時からインターハイで優勝しており、この夏に三連覇がかかっている。
そして、アイドル並みの美貌を持ち、青髪のポニーテールと言えば美琴先輩! と男子高校生が熱狂するほどに人気がある。
おまけに、とんでもない巨乳。
あぁ、とんでもないさ。
「それにしても八太郎君、まだその女と一緒に登校してるんだね」
「あぁ?」
そしてこの二人、とにかく仲が悪い。
「ってかあんた、気安く八太郎にしゃべりかけないでくれる? 好きなのバレバレだけど?」
「べ、別に好きとかそういうんじゃないからな! そ、そうだからな! 八太郎君!」
「あっ、はい」
「これは後輩を慕う、先輩の余計なお世話というやつでな……。それはそうと、君の方が好きなのかバレバレじゃないか? そんなに体を寄せて」
「は、はぁ⁈ こ、これはただ道を塞いだら悪いかなぁ? っていう配慮であって、八太郎とくっつきたいとか、そういうわけじゃないわよ‼ そ、そうよ八太郎!」
「はい」
もうこうなるとめんどくさいので、手軽く処理して済ませる。
「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」」
数秒の間視線をバチバチさせたあと、
「「ふんっ!」」
二人そっぽを向いて、戦いが終わった。
「行くわよ八太郎! この女にかまう時間なんてないわ!」
そう言って、俺の手を引く沙耶。
「な、何八太郎君の手を……! き、貴様ぁ‼」
俺はなされるがままにしていると、沙耶が立ち止まって俺の手をぱっと放した。
そしてすごい剣幕で、
「な、何勝手に手を繋いでるのよ!」
「繋いだのお前だろ‼」
ぷんすかと怒った沙耶は、俺を置いてさっさと下駄箱に向かった。
だけど、俺の下駄箱の前で待っているあたり、やっぱりこいつツンデレだわ。
午前のハードな授業が終わり。
「八太郎飯食おうぜー!」
「食後はもちろん大富豪な。罰ゲームはコ〇ラ一気飲みで」
「しゃーねぇーなぁ。その前にちょっと飲み物買ってくるわ」
昼休み恒例の大富豪大会に備えて、近くの自販機に向かった。
その途中で、なぜだかほぼ毎回、こいつに会う。
「あれぇ先輩じゃないですかぁ~」
「げっ」
「げっ、とは何ですか! ぷんすか‼」
胸をトントン叩かれる。
こいつの得意技はこのボディータッチ。これで数々の男を落としてきたんだろうなと思いつつ、無心で攻撃を受ける。
こいつの名前は宮本雫(みやもとしずく)。
茶髪のショートボブで、ザ・後輩キャラと言った美少女だ。
上級生に死ぬほど好かれており、リピーター続出のこちらも人気の美少女。
ただ、こいつは何故か俺に死ぬほど絡んでくる。
「それにしても先輩、いっつも昼休み一人ですねぇ?」
「んなことねぇわ。ってか、それを言うならお前も一人だろ?」
「私はたまたまここを通りかかっただけで、先輩と違ってお友達いますから!」
「俺、ぼっちじゃねぇからな?」
「またまた~!」
何を根拠に俺をぼっちたらしめてるんだこいつは。
どうやら俺がぼっちである方が、こいつにとっては都合がいいらしい。
「私昼ごはん一緒に食べる人いるんですけど、しょうがないから先輩と一緒に食べて挙げましょうか?」
なんでいつも救いの手を差し伸べる女神的ポジションなのかねこいつは。
まぁそろそろいつもの展開は飽きてきたし、こっちから攻めてみるとしよう。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「いやなんで断るんですか……へ?」
このアホづらが見たかった。
「だから、一緒に食べてくれるんだろ?」
「…………それ、本気で言ってるんですか?」
目をうるうるさせて、上目遣いでそう言ってくる。
大成功☆
「冗談」
「もぉ~しょうがないですねぇ~! 先輩がそこまで私と一緒に食べたいなら、仕方なく一緒に食べてあげますよ……へ?」
「ごめんな先約ありなんだわ」
いつもからかわれているので、これくらいの仕打ちはおつりがくるレベルで大丈夫だろう。
むしろ良心的なまである。
「せ、先輩のくせに!!! ま、まぁ先輩が土下座で頼んできても一緒に食べてあげることなんてしなかったですけどね!」
「いやお前の記憶力ニワトリかよ!」
さっきおもっきし一緒に食べてくれようとしてたじゃねぇか。
「か、勘違いしないでくださいよ! 自意識過剰すぎですよ先輩!」
「はいはいそうですね~」
「きぃ~~~~~~~!!!!!」
軽くあしらって、その場を後にする。
気のせいだろうか。
雫のさらに後ろから、おぞましい視線を感じたのだが……。
「……あいつ、馴れ馴れしく八太郎と話して……羨ましい! はっ! べ、別に私、八太郎のことなんか好きじゃ……!」
何一人ツンデレしてんだよ。君は誰に弁明してるのかね。
もはやヤンデレと化して、一周回ってアホになってきた幼馴染は気にせずに、教室に戻って大富豪を興じた。
俺は大貧民でフィニッシュした。
――というわけで放課後。
「八太郎はっきりしなさい!」
「八太郎君、私のところに来い!」
「先輩、私と出かけたいですよね?」
この学校の三大美少女に迫られている、幸せなハーレム主人公の図、なわけだが……非常にめんどくさい。
美少女なのは、まだいい。
だけどこいつら全員――
「まぁでも、私はどっちでもいいんだからね!」
「まぁ今日が無理でも、明日は私と……って、私が誘ってるみたいじゃないか!」
「これは別に、先輩に好意があってのことじゃないですからね! 勘違いしないでくださいよ!」
――ツンデレなんだよなぁ。
おかしい。
明らかにおかしい。
だってさ、ヒロイン全員同じ属性で、しかもめんどくさいツンデレとか、そんなのある?
否、ないのである。
俺はふぅ、と一息ついて、にこやかに微笑んだ。
「うるせぇ黙れぇ!!!!!!」
そのままスクールバッグを肩にかけて、逃走した。
――しかし、
「逃がさないわよ!」
「やはり私との走り込みを……ふふっ」
「待ってくださいよ先輩~!」
もうストーカーでしょこれ。
日ごろの運動不足と、ものすごい剣幕に押され、みるみる追いつかれ……
ドサッ!
三人に上から抑え込まれた俺は、息を切らして逃げることをやめた。
「「「三人の中で、誰が一番好きなのか、はっきりしなさい!!!!!」」」
なんでそうなるんだよ……。
俺は呆れたようにため息をつく。
俺は声を大にして、このめんどくさいツンデレどもに言ってやりたい。
いや、もう言ってやる。
「俺は、従順で聖母のように優しくて、おっぱいが大きくて俺に『好き』ってはっきり言ってくれる美少女が好きなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
でも、そんな俺の願望は叶うはずがない。
だって、俺のハーレムには、ツンデレヒロインしかいないのだから。
美少女だらけのハーレムなのはいいとして、なんで俺のハーレムにはツンデレヒロインしかいねぇんだよ! 本町かまくら @mutukiiiti14
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