籠の鳥のような
むかしむかしとても可愛らしいお姫様が―――
「あーーーーーーー!!!!!」
「どうなさいました!?」
「か、鍵なくした…。」
「なんですって!?大変だ!!」
―――とても可愛らしいですが、とてもおっちょこちょいでガサツなお姫様がいました。
「なぜ失くしたんですか!!ずっと首にかけて肌身離さないよう、あれほど申し上げたのに!」
「ご、ごめんってばー。別に失くしたくて失くしたんじゃないんだよ?朝起きたらなかったんだもん…。」
世話係は城中の者に鍵を探すよう伝えると、姫を椅子に座らせて怒りました。
しかし、姫に反省の色はなくいじけながら言います。
「大事な鍵なので失くさないでください、と申し上げたでしょう?なのに――」
「そんなに大事な鍵なら、私なんかに預けなきゃいいじゃない。」
世話係の言葉をさえぎって、姫はむくれた様子で言いました。
「あの鍵は、代々王族で受け継がれるものです。だから姫様に――」
「そんなの知らないわよ!」
姫はそう言うと同時に椅子から立ち上がり、部屋のドアの方へと歩き出しました。
「どこに行かれるのですか!」
「散歩よ!一人で行かせてよね!」
そう言うと、世話係にこれ以上何も言わせまいとすぐに部屋を出て行ってしまいました。
「あ!姫様!あぁ、まったく…。」
世話係は溜め息とともにつぶやくと、部屋を出てメイドに部屋の掃除を頼みました。
その頃姫は、城の庭のあまり人が来ない方を散歩していました。
「何で私なのよ!お姫様なんて楽しくないわ!籠の鳥のようにどこにも行けないし、首輪みたいな鍵のネックレスは渡されるし!もうお姫様なんてうんざりよ!お城から出たいわ。」
お姫様は生まれてこの方、お城から出たことがありませんでした。
何をするにも城の中だけ。もちろん、散歩も。
城の外のことは本の中や召使たちの話でしか知りませんでした。
「ミャー。」
「ん…?この泣き声…猫、よね?どこかしら?」
周りをキョロキョロと見回すと、少し離れたところに白い猫がいました。
「わあ!本物の猫!初めて見るわ!かわいいー。でも、どうして城の中にいるのかしら…?」
「ミャー。」
猫は再び鳴くと、足元の物を口に咥え、顔を上げました。
「え…。そ、その鍵…。」
猫が咥えていたのは、ついさっき失くしたと思っていたあの鍵でした。
「その鍵返せー!!!」
姫がそう言って猫に近づこうとすると同時に猫は逃げ出しました。
「あ!待てー!!」
猫を追いかけて姫は走りましたが、猫が行く道は城の中のはずなのに姫の知らない道ばかりでした。
『どうして!?城の中は私が一番知っているはずなのに!!』
心の中でそう思いながらも必死に猫を追いかけます。
いくつもの草の中や抜け道を通って猫を追っていくと、目の前に男の人が現れました。
「そこの人!その猫捕まえて!!」
その男の人はすっとしゃがみこむと、猫を捕まえて抱き上げました。
「ありがとう!ほら、鍵を返しなさい!」
「…そんなに大事な鍵なのかい?」
猫から鍵を取り返す姫を見て、男の人は言いました。
「え…?」
「君は、お姫様でいたくないんだろう?だったら鍵は要らないんじゃないのかい?」
戸惑う姫に男に人は更に言いました。
しばらく黙り込んでいた姫は、ぼそりとつぶやきました。
「…いらない。」
姫は今まで走ってきた道を振り返りました。
すると、城が少し遠くに見えます。
『いくつか抜け道を通ったうち、見覚えのある壁の抜け道があったのよね。あれ、やっぱり城壁だったんだわ。つまり、私は今城の外にいる。お姫様じゃなくなれるチャンスかもしれない。』
そう思った姫様は男の人に向き直り、次ははっきりと言いました。
「私にはいらないわ。私、猫を追ってきただけだもの。」
男の人はそれを聞くとにっこりと微笑み、姫から鍵を受け取りました。
「そうか。では、どうするんだい?」
「ここは城の外でしょう?途中で城壁の穴を抜けたから。」
「そうだよ。」
「私、城にはもう戻りたくないの。私を連れて行ってくださらない?」
姫のその言葉に男の人はにっこりと再び微笑んで答えました。
「いいよ。それじゃ、行こうか。」
男の人は猫を地面に下ろすと、歩き出しました。
猫も姫も男の人についていきました。
――後に知ったことですが、実は猫は男の人の飼い猫で、男の人は有名な怪盗でした。
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