北へ南へ編 その8 上から見たら『円』の字

『屋敷を建てる?今から?何言ってんだ?今晩何処で泊まる気なんだコイツ?馬鹿じゃねぇの?』

って感じの視線(少々穿ち過ぎだろうか?)を第二王子と外務の人から受けながらも『他国の貴族の言うことだから一応聞いてやる』って感じで愛想よく求めた通りの場所に案内される俺御一行。

ああ、最初に担当についてくれたおっちゃん、このままだと不手際の責任を押し付けられて蜥蜴の尻尾切り的な方向で今日中にでも処刑されそうなので「滞在中の世話役は任せる」と気を使ってやった。

・・・なのに死にそうなどころか『死人の顔』になったんだけど、どこか体調でも優れないのだろうか?


もちろん他国でお貴族さまが自分で車を運転するわけにもいかないのでメルティスが運転、サーラが先導役で商国の案内馬車の後ろをのんびり黒馬車は進む。

ああ、おっちゃんはこちらに一緒に乗れば良いからな!・・・人間ってここまで絶望的な表情が出来るんだな。繰り返すけど俺の気遣いなんだからね?

当然第二王子も様子を探りがてらこちらに乗りたいと言ってくると思ってたんだけど、商国の馬車に乗り込んだ。

そんなに慌てて、いったい何を相談するつもりなんだか。


一年前ならまだしも、今となっては自国の王族に不幸があるとかちょっとだけ寝覚めが悪いから早めに心が折れるなり、心の底から反省するなりして王国の自室ならぬ自屋敷に引きこもって欲しいものである。

ああ、おっちゃんのデコからそこそこの血が出ていたので車に乗せる前に治療しておいたのは言うまでもない。車内を血まみれにされるとか嫌だし。

代金?一つ貸しってことで!だからどうしてそんなに震えてるのか。


「あーっと・・・」

「ハフィダーザでございます閣下!」

「お、おう、車の中だからそんな大声出さなくても聞こえるからね?で、ハフィダーザ、今回の一件は誰の差し金だ?」

「差し金・・・特に誰からも命令されてはおりませんです閣下。・・・いえ、しかし・・・まさかそんな・・・」


何と言うか歯切れの悪い受け答えをするおっちゃん。何なのこのおっちゃん、『まさかそんな』とか言ってるんだけど?

ゲームのイベントシーンで真相を隠すために小声でゴニョゴニョ喋るNPCかよ。

しかしここは現実世界、耳に入っちゃうような声で喋ったことは徹底的に詰められるんだぜ?


「どうした?聞かれたことにはハッキリと答えるべきではないのかな?それとも隠し立てしなければいけない理由でも?」

「い、いえ、もちろんそのようなものはございません!ただ、あの建物自体が今年の夏になってから急に設えられたモノでありまして、それまでは入港管理所の客間を使っておりましたもので・・・私も何故わざわざ近くもない場所にあの様なモノを建てたのか気にはなっていたのです」

「ほう、そして上からは『他国の貴族』が訪れた際にはあそこで待たせろと言われたのだな?」

「はい、その通りでございます。しかし考えなくとも閣下がおっしゃったようにあの様な場所では身を隠す場所も守る手段も無く・・・」


あれだな、いくら船の出入りが多いと言ってもあくまでもやって来るのは商人の船。

なのにわざわざ『他国の貴族』と限定してるのはやっぱり後ろ暗い目的があるとしか思えないんだよなぁ。

『今年の夏』、つまり戦争が一段落ついてから建てたモノみたいだしさ、利用しそうなのは何らかの要請に来る皇国貴族か苦情を言いに来る王国貴族しかないじゃん?

まぁ一般人(元日本人)一人で考えてても国家の思惑なんてわかんないし後でお姫様方の意見でも聞いてみるかな、性格はアレでソレだけど能力で言えば二人とも超優秀だからね?

うん?お姫様は三人いる?気のせいです。



パカポコ走る馬車に先導されて到着したのは街の中心からやや離れた場所にある『元商人の屋敷、庭荒れ放題』ヨロレイヒーな建物。

土地の広さで言えば王都の屋敷の半分くらいかな?


「少々荒れてはおりますが、こちらなどはいかがでしょう?もちろん建物の取り壊しなども好きにしていただいて問題ございません」

「ふむ、少々手狭ではあるがそこは屋敷を上に伸ばせば問題もないか。いいだろう、ここを譲り受けよう」

「では早速人足のご用意に取り掛からせていただきたく思います」

「ははっ、何を言っているんだ?そのような事をしていては艦の上で退屈なさっている姫様方をお待たせしてしまうではないか」


うん、お前が何言ってんだ?って顔になってるけど俺氏、いつも通りこれをスルー。

さて・・・どうするか。城を建てるには狭すぎるし見た目ただの砦を建てるとか品がないし。

・・・よし、とりあえずは整地からだな。

まずは土地の上にあるウワモノを全部時空庫に放り込んで土台をしっかりと固める。

その後は空堀、土地の境界からきっちりと1m分の堀を掘り、内側に土地にほり起こした土砂を乗せて高く・・・うん、ちょっとやそっと乗せたところでただの誤差でしかないな。

まぁエルドベーレの港湾工事をした時に海の底さらいをしたから土砂は大量に補充してあるからまったく問題はない。


ほら、南の方の国って雨季とかありそうだし?台風も頻繁に来そうじゃないですか?だから水はけをよくするために回りの土地よりも高台にしておかないとね?

近隣の被害?知るか、この国の偉い人に言ってくれ。

基礎が出来たら次は外壁である。石垣・・・は似合わなそうだし、堀の底からまっすぐにコンクリートの壁を高さ3m、厚さ・・・50cmくらいでいいかな?外周一周くるっと囲んでしまう。

コンクリ?貝塚みたいになってたゴミ捨て場から貝殻を大量に仕入れて焼いて砕いてあるし、砂もそのへんに大量にあるから大丈夫。ちなみにこのコンクリート、乾いたあとでも時空庫に回収しちゃえば再利用も出来る優れものなのである。


てか四方をコンクリの壁で囲むと・・・見た目がどうみても『ヤ○ザの総本部』って感じで威圧感が凄いことになりそうだな。ギリシャ建築っぽい感じで柱とかレリーフの飾り付けを入れておこうか。ウケ狙いでエジプトの壁画風もアリ。

外壁全面にメジェドさま・・・止めておこう。

入り口は一休○んがオープニングで渡るような広めの橋を掛けて階段を付けて・・・門は鉄製にしたかったけど造船で大量に使っちゃったから在庫がこころもとないので木製・・・だど寂しいな。表面を銅でメッキしちゃうか。ついでに真実の口みたいな彫刻・・・どうせならドラゴンの顔にしてやれ。どこの魔王城の入り口だそれ。


建物は・・・豆腐(四角系の建物)だと見てくれが悪いからなぁ・・・王都屋敷とおなじようなのも芸がないし。ああ、あれだ、日本銀行とかどうかな?

上から見たら『円』の字になってるやつ。

アレを丸々パク・・・リスペクトして、『円』の足部分(?)の外壁を近代的な感じで総ガラス張りにしちゃうとかどうだろうか?さすがにガラス張りは趣味が悪い?確かに。

いや、中庭部分の天井をガラス張りにしてパーティルームにしちゃうのはアリじゃなかろうか?

パーティを開く予定とかまったく無いんだけどな!そもそも客を呼ぶ気もないし厩を作る予定もないし。


てか俺、一度見学に行ったことがあるだけなのによくこんなに詳細な間取りとかこと細かに覚えてるな・・・あ、はい、魔導板さんの補助のおかげですよね。わかっております。

まぁ間取りに関してはほぼ作り直しなんだけどさ。だって銀行業務がしたいわけじゃないし金庫室とかいらないからさ。

庭に関してはよくわからないからこっちもお姫様方に相談すればいいか。便利だよなお姫様方、ぜひとも一家に二、三人くらい欲しいものである。

てかウサギさんが居ないとこの規模のお家を建てる時の魔力の消費が半端ないな・・・。

侵入者対策?とりあえず外壁の上部に雷撃魔法を仕込んであるし大丈夫じゃないかな?


「さて、お姫様方をお迎えする用意も出来ましたので私はお迎えに参りますが皆さんはどうします?ああ、ハフィダーザ、貴様は残ってくれ」

「ど、どうするもなにも・・・いや、そうじゃない、そうじゃないんだ!な、なんなのだこれは・・・ハリス、何がどうなったら小一時間でこの様な屋敷が出来上がるのだ!?」

「もちろん魔法を使えばに決まってっるじゃないですか」

「手をかざしただけでこの様な建物が・・・魔法?これほどの建築物を魔法で作り上げたとおっしゃるのですか!?」

「王国の魔法使いならこのくらいの事は全員出来ますが何か?」


二人とも物凄く中の見学をしたがってるみたいだけど俺は今から奥さんを迎えに行かないとならないからな!

また明日にでも来てくれと言って帰らせた。

てか土地を『借り受ける』ではなく『譲り受ける』って言ったことに関してはスルーだったな。後々何か言ってきても知らん顔をしてやる。

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