東へ西へ編 その17 さらに状況が変わった!?
「なるほど、大まかな話は理解した。しかしどうしてスーリが私の命を狙う様な事を・・・伯爵からの紹介で身辺怪しからぬ人間だと思っていたのに・・・」
そう言う皇女殿下の言葉に
「えっ?」
「えっ?」
俺と皇子の声が重なる。
「ティア、あの娘はクレスト伯爵からの紹介で共に行動をしていたのか?」
「皇女殿下、その情報はもう少し早く欲しかったのですが・・・」
「どっ、どうしたのだ2人揃って・・・仲が良いのだな?」
そう言うこっちゃねぇんだよ!!
いや、勝手に『その辺(ギルドとか)で知り合って意気投合(向こうからすり寄ってきた)して一緒にいた』とか思いこんでた俺も悪いんだけどさ!!
ここの領主の紹介だって?そうなってくると完全に話が変わるじゃねぇか!!
「殿下、あまり状況が宜しくないかもしれませんね、念のため早急にこの屋敷から出られた方がよろしいのではないでしょうか?」
「ラポーム侯もそう思うか?しかし出ると言ってもここは屋敷のほぼ最奥。はたしてそう簡単に出してもらえるかな?」
何故出た方がいいかって?
今回の一連の流れに領主のナンタラ伯爵も関与してる確率が高いからだよ!
むしろどう考えても黒幕としか思えねぇけどな!
それなのにその黒幕の屋敷でのほほんと相談をしてるお馬鹿な集団。
間違いなくここでの話はリアルタイムで盗聴されているだろう。
そして聞こえてきたのは『ドーン!!』と言う大きな爆発音。
「思い切りが良いと言うか行動が早いというかもう手を打って来やがった!全員俺に掴まってください!!」
慌てて防御魔法――3メートル半径の円形の防御膜を張る魔法を唱え、そう叫ぶ。
案外手抜き工事だったのかそれとも最初からそういう作りだったのか上から瓦礫が大量に降ってくるのを事もなげに弾いてるけどただここで埋まってるだけってのも面白くない。
室内に居た全員、皇子、皇女、宰相、わん子、エオリアと俺の体に掴まらせ・・・さすがに距離が有りすぎて王国の俺の屋敷まではこの人数で跳ぶのは厳しいか?
そもそも跳べたとしてもあの2人――大事な嫁をこんなところに置いたまま俺だけどこかに避難するなんて考えられないんだけどな!
なので転移したのはこの屋敷内で一番覚えのある場所、メルティスとサーラが稽古に使っていた屋敷の中庭だ。
あたりの景色が屋内から野外に一瞬にして変わる。
後ろから連続した破裂音と共に建物がガラガラと崩れ落ちる音が聞こえる。
そして俺たちの前には武装した兵士の集団。
人数的には五十人以上百名未満ってところか?
転移であらわれた俺たちには気付かずこちらに背を向けたままで綺羅びやかな鎧兜に身を包んだ伯爵が兵に向かい大声で叫ぶ。
「くっ、一足遅れてしまったかっ!おいたわしや王太子殿下、皇女殿下・・・おのれ・・・おのれ王国の狗めっ!まさか暗殺などと言う手段に出るとは!」
こんな派手な暗殺があってたまるか!
そもそもタイミングが良すぎてどう見てもお前の犯行以外に見えないだろうが!
そして一足遅れてる癖に鎧を着込んで兵隊を集める時間はあったのかよ!
まぁその話しかけられてる兵隊からは皇子も皇女も、ついでに俺含むその他3名も見えてるんだけどなっ!!
そこそこの人数の兵士が『何いってんだこいつ・・・』状態なのでおそらくナンタラ伯爵の独断による行動なのだろう。
まぁ別にそんな事はどうでもいいんだけど。
そう、俺の判断ミスで危険にさらしてしまったメルティスとサーラ。
今日は2人ともフル装備で鎧を着用してるからこの程度の爆発ではかすり傷を負うことすら無いと思うけど・・・心配なものは心配なのである!
てか髪の毛一本でも産毛一本でも抜けたり擦れたりしてたら・・・お前ら、どうなるか覚悟しておけよ?
ちょうど馬鹿(首謀者)がこちらに背中を向けているので叫んでるので後ろからつかつかと近づいて、殺さない程度に思いっきり後頭部を殴りつける。
「殿下、後は任せました!!わん子、この場の全員の護衛を!!」
時空庫から予備の剣を取り出しわん子に投げ渡した後、崩れ落ち、一部火が出て燃えている屋敷の中に飛び込もう――としたんだけど、向こうから無事だった家屋部分を壊す破壊音、むしろ全て灰燼に帰すくらいの勢いで暴れまわる爆音と共に2人が俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「メルティス!!サーラ!!こっちだ!!」
俺の声が届いたのか黒い鎧の2人が瓦礫の中から飛び出してきた。巨大な屋根の梁を頭上にかかえ上げながら。
小さな声で「化物・・・」とかうちの嫁に向かって大変失礼なことを言っている人間がいるが後で覚えておくように。
「ハリス!!無事だったか!?」
「閣下!スーリとか言う女が部屋ごと爆発してしまいましたので捕まえられませんでした!」
「2人とも・・・そちらに向かうのが遅くなってごめんね?俺の状況判断が甘かったみたいで・・・危険な目にあわせて・・・ごめんね?」
とりあえず安全確認が出来たことで安心したら力が抜けたらしくストンとその場に座り込む俺。
お互いに無事を思い合う恋人同士の再会、なんと美しい光景であろうか・・・。
てかその感動の再会を見つめる帝国兵の顔が恐怖で凍りついていると言うのはあまりにも失礼すぎではないだろうか?
・・・
・・・
・・・
てことで・・・一週間後。
いや、どうしてそんなに日にちが過ぎてるんだよ!
ごもっともである。
だってほら、3人でお互いの無事を確認し合ったじゃないですか?
そしたらもう・・・いろいろとこみ上げてくるモノがあるじゃないですか?
だから事後処理は皇子とエオリアにまかせて3人で一度南都まで帰宅した。
帝国の宰相とか皇女もいるしどうにかなるだろう?
黒馬車に乗り込む俺たちを見送るエオリアの瞳はちょっと涙目だった。
「元気だった?」
「君・・・物凄くいい笑顔で第一声がそれってどうなのかな!?そもそも僕、ただの下級地方貴族なんだよ?なのにどうして国家間の問題に関与しなきゃいけないのかな?それも皇族暗殺未遂とかちょっとした歴史的事件だよね?いや、それ以前に一人で置いていかれた人間の気持ちをもっと考えてもらえるかな?」
「お疲れ様?」
「君がそのつもりなら帝国の貴族令嬢からの君に対する求婚とか全部前向きに承認するよ?」
絶対にやめてください。
てか何なんだよその話・・・帝国貴族に知り合いとかほぼ皆無なのにどこから令嬢がわいてきたんだよ・・・。
あと「お詫びに何かしようか?」って聞いたらちょっと拗ねた感じで「ごはんを作って欲しい」とか言うのもどうかと思うんだ。
お前は仕事であまりかまってもらえなかった恋人かなにかなのか?
あ、南都を出る時に会ったけどお前の嫁むっちゃオコだったぞ?
伝えるとこのまま帝国に亡命しそうなのでもちろん教えないけど。
エオリアのリクエストがハンバーグだったのでおまけで中にチーズを仕込んだものを何故か帝国の面々&わん子達と一緒に食しながら今回の騒動の結果を聞く。
まずここの領主の行動に関しては
「最初は妹が迷宮に出入りしているのを利用して妹の責任で魔物が街で暴れたのを大々的に喧伝して大損害を被った責任を国に取らせる形で周辺貴族を引き連れて独立しようと言う話だったようなのだがな」
「そこにタイミング良く?悪く?私と王太子殿下が関わってしまったと」
まぁあれだ、王様の代替わりの時にはよくある系統の話だった。
おそらくここの領主としては皇女を殺すつもりまでは無かったのだろうが結果的に死んでいても不思議じゃない、むしろ生きていることが奇跡な大怪我を負ったものだからさぁ大変。
そこに待ち構えていたかのようなタイミングで王太子が現れ、皇女を助けたのが遠く離れた王国から現れた皇女の婚約者だと言うのだから内心大恐慌状態だっただろう。
それだけならまだ言い訳も出来たかもしれないが・・・協力者(腹筋)が証拠を残してしまったのものだから後がなくなり『死なば諸共』と、この爆発騒ぎである。
「しかし、それでもあのランクの魔物が街中で暴れるとなっては独立どころか街が消えても不思議ではないほどの大災害レベルの被害になったのでは?」
「ああ、そのへんはスーリだったか?その女と教国に上手く騙されていたらしいな」
腹筋さん自体は屋敷の崩壊と一緒に――いや、もしかするとその前に消されていたかもしれないけど――居なくなったから教国に関する詳しい話や王国で使われた魔物の誘導の方法などは結局のところ不明のままだった。
せめて今回の騒ぎと、教国の仕業であると解るような繋がりがあればなぁ。
「てか全員そんなに食べて大丈夫なのかな?平均で二人分、皇女殿下は三人分、わん子に関しては五人分くらい食ってるよな?」
「大丈夫、私にとって肉は別腹だからな?」
「むしろ肉食獣が肉を食べないで何を食うと言うのだワン!」
肉が別腹とかもうそれ一生食い続けられるじゃないですか・・・。
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