東へ西へ編 その15 デリケートゾーンの話
何故だか解らないがどんどん重くなってゆく室内の空気。
もちろん俺が重力魔法を使ってるわけではないので念のため。
ちょっと話題を変えようかと、いきなりだが皇女殿下に話を振ってみる俺はとても空気の読める男なのだ!
「ああ、そう言えば姫様のパーティが拾って暴走させてヒュドラを呼び出しちゃったっていう高価そうな魔道具?って言うのはやっぱり古代魔法遺産(アーティファクト)の類だったんです?」
「なっ!?・・・ティア、お前は身内の恥となる様な事をラポーム候にお話したのか!?」
「え、ええ、まぁ。ハリスにはこの身を二度、いえ、もしかすると三度?も助けられましたからね。そして、それだけではなく・・・私のお、夫となる者ならば、いまさら隠し事など必要もないでしょう?」
わりと男前のくせに今日はやたらと顔芸の激しい皇子と、どんどん自分の中で思い込みを『ぷ○ぷよ』の様に積み上げてゆく皇女。
あれだぞ?その先に待っているのはどちらが先に連鎖を仕掛けるのか命がけののチキンゲームなんだぞ?
・・・何かこう良い事言った感は出してるけど特に深い意味は無い。
しかしとりあえずこれだけは言っておこう『ぱ○え~ん』。
「まぁそう言うデリケートゾーンの話は置いといてですね。こちらに伝わっているかどうかは不明ですが昨年王国内で『人為的であろう迷宮の氾濫』が起こったんですよ」
「ああ・・・色々な情報の精査をしている時にその様な報告もあったが・・・もしかしてアレは事実であったのか!?」
「皇国の関与も確認出来ておりますので間違いなく事実ですね。いや、もしも皇国がこちらに『事実である』と誤認させたいがだけの為に長期間潜ませといた草を切り捨て、戦まで起こして大量の人死(ひとじに)を出したと言うならば違うのでしょうが・・・その様な事をする意味がまったくわかりませんし」
「確かにそのような馬鹿げた損害を出してまで誤解をさせて特をする人間など・・・」
そこでじっと前を見つめる俺とこちらの視線に気付いた皇子の目と目が重なる。
「いや、違うからな!?それに限っては私も父もそして兄も関与はしておらぬからな!?」
「ええ、もちろんそうでしょうそうでしょう」
「兄上・・・そのような卑劣な真似を・・・」
「だからそのような事はしておらぬと言うのに!!」
皇子、そんな必死にならなくても軽い冗談だからね?
そして『それに限って』とか言われると『じゃあ貴方は何をしたんです?』って問いかけたくなるよな!
あとこれまでの付き合いで皇女様は『とてもノリのいい人』じゃなくて『ただの思いこみの激しい人』の線が出て来たという事実。
そうだね、お付き合いをする異性としてはとても面倒くさいタイプだね?
出来るならばキャッチする前にリリースしておきたいものである。
「それでですね、今回のこちらでの『迷宮での騒ぎ』も、もしかしたら何らかの繋がりや関連性があるのかなぁと思ったり思わなかったり」
「ふむ、なるほど・・・いや、しかし王国では『魔物の氾濫』だったのだろう?それと比べれば亜竜種とは言え魔物が一匹出てきただけ・・・いや、そもそもヒュドラは魔道具から出てきたのだよな?ならその魔道具を大量に用意出来れば・・・」
「現状ではあくまでも私の思い付きだけですからね?そもそも王国の迷宮では実行者を抑えられておりませんのでどの様な方法が使われたのかまでは確認出来ておりませんし。何にしても警戒をするにこしたことは無いかと。もし今回の騒動の原因である魔道具が見つかれば何かが判明するかもしれませんしね。ああ、もちろん皇女殿下を責めているとかじゃないですからね?だからそんなすまなさそうな顔をしないでください」
危なかった、もし隣に座ってたら条件反射で『よしよし』しちゃうところだった。
そして部屋の中の空気はもちろん先程よりもさらに重いものになったのは言うまでもない。
俺以外はみんなうつ向き、黙り込んで静かに考え込む。
いや、だって俺はほら、他所(王国)の子じゃないですか?
むしろどうしてエオリアはそんな深刻な顔してるのかな?
もしかして帝国に亡命でもする予定なのかな?
俺と嫁の仕事が増えそうだからそれだけは勘弁して頂きたいのですが?
もっとお給料増やそうか?
そんな中、その静寂を破るようにバーンとドアを開けて
「話は聞かせてもらったワン!!」
「ビックリするくらい浮いてるぞわん子」
飛び込んできたのはいつの間にかキャラ変をしたわん子である。
「お、おまえがやれと言ったんだろうが!?だからしょうがなく、喜ぶかと思って不承不承やったのに・・・わ、わたしだって恥ずかしかったんだからなっ!!」
「時と状況と場所を考えて?あと国家の重鎮が揃ってるところに飛び込んでくるとか良くて無礼討ち、普通なら暗殺者と間違えられて国家反逆罪で一族郎党吊るされるぞ?」
「ふっ、大丈夫だ、わたしには親兄弟どころかすでに・・・身内の一人すらいないのだ」
耳をペタンとさせ、何かを思い出すような耐えるような顔をするわん子。
・・・そうだよな、そりゃこの近辺の国では見かけない様な人種の人間がわざわざ長旅をして来たわけだしさ。
獣人国内でなんらかの内乱、もしかしたら他国からの侵略や獣人狩りなどと言う蛮行に巻き込まれ
「何故なら日頃の行いが悪すぎて勘当された上に親戚一同に見放されたんだからな!!」
「ただの自己責任だったかー・・・つまりわん子は家族に愛されてないサーラって感じだな?」
「閣下!さすがに『ソレ』と同じ扱いは承服致しかねます!・・・ワン!」
ドアの外から顔だけ出して少しおかんむりのサーラ。
ところでどうしてワンを付け足したのかな?恥ずかしそうに顔を赤く染める所がとても新鮮でいいとおもいます!
メルティス、ほら、メルティスも一緒に猫のポーズして『にゃあ』ってやってごらん!!
うん?ドアの影から覗き込んでる理由?
さすがに『コレ』と一緒に室内に入って来るほどの非常識では無かったからだと思いたい。
「てか皇子殿下『またか・・・』みたいな生暖かい目でこちらを見ておられますがコレは私の連れではなく皇女殿下のパーティメンバーですからね?少なくとも家の子ならもっと教育が行き届いておりますからね?」
「どうしてそんな突き放した扱いをするっ!もう耳も尻尾もお腹も触っただろうが!アレだぞ?獣人族の掟ではそれはもう求婚の儀式と言っても過言でもないんだぞ!!」
「わん子、ステイ。とりあえず他所様の前だし一旦だまろうか?あと『過言ではない』って言うやつが本当に過言じゃなかった例がないからきっと過言、もしくは言い掛かりだろそれ?で、いきなり何なの?今みんなでむずかしいはなしをしているところだからね?あとでボールあそびしてあげるからむこうでまっててね?」
「どうして急に幼子に言い聞かせるような態度になっているんだ!だっておまえが言ったじゃないか!化物が出てきた魔道具が見たいって!」
「確かに言ったけどさ。・・・えっ?てかわん子・・・魔道具持って帰ってきてるの?」
「ふふん!もちろん!」
「手癖の悪ぃ犬だなぁ。あと盗み聞きも感心しないぞ?」
「まさかの泥棒犬扱い!?盗み聞きなどしなくとのこの狼イヤーは扉1枚くらい屁ともしないのだぞっ!!」
「それはそれでお貴族様の周りに居る人間としては大問題なんだよなぁ」
使い道を間違えなければそこそこ優秀そうだぞこのわん子。
でもいくらオプション性能が良くても本体性能がコレだからなぁ。
―・―・―・―・―
『身内の恥となる様な事』でやたらと皇子が慌ててるのは『皇女が自国内で魔物を暴れさせた事』が発覚すると帝国国内的にも物凄く拙い話だから&どうしてそれを他国の貴族に説明しちゃうかな・・・ってことですね。
『色々な情報の精査』もちろん(ハリスくんの)色々な情報を集めてた時に飛び込んできた情報です。
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