新しい年編 その15 戦場のTPO

「・・・つまりハリスはその2人と一緒にお風呂に入って口では説明出来ないようなことをしたと?」

「いや、別に?ただ洗ってもらっただけですし?後ろめたい事なんて特に何も有りませんでしたし?」

「はい!おっぱいで背中とお顔を流させていただきました!その後は太もものというよりもその付け根で・・・」

「サーラ、不用意な発言は慎むように」


拠点防衛の準備も整ったし、監視は目視で夜は見えない――そもそも地図スキルの広域表示で敵勢生命体のアラート設定をしてある――ので、日がな一日ボーッとしながら待っていようと思ったのに・・・ヴェルフィーナ嬢に2人との婚約の経緯(いきさつ)を問い詰められている俺たち。

味方にアホの子が混じってるけどそれも可愛いと思えてしまう心の余裕。


「そしてその後、2人の方から夜這いをかけられてそのまま行為に及んだと?」

「いや、別に?ただ一緒に添い寝をした的な?何もやましいことなどしておりませんし?」

「はい!閣下ったら一晩中・・・わ、私のあんな所まで執拗に指で唇で舌で責めつづけ・・・」

「サーラ、巻き込まれ事故のメルティスが頭から湯気を出して恥ずかしがってるから自重するように」


メルちゃんだけじゃなく俺まで恥ずかしい思いをするからプレイ内容を他人様に説明しようとするんじゃない!

あと思い出し勃○とかしそうだから!


「そもそも君に夜這いをかけたのは私が最初だよね?その時一緒にお風呂にも入ったよね?なのに2人とは婚約、私は未だにおあずけ、この区別は物凄く理不尽なモノではないだろうか?」

「少なくともお風呂はエルフさんが勝手に入ったと口を酸っぱくして言い続けてるんだけどなぁ。て言うかヴェルフィーナ嬢は本気で、真剣に私の妻になりたいのですか?」

「これでも一応公爵令嬢なんだよ?伊達や酔狂で好意を持っていない殿方にすり寄るような事するわけないじゃないか・・・」


唇をつき出して拗ねた顔になるヴェルフィーナ嬢。

確かにそれはそう・・・なんだろうけどさ。

何と言うかこう、この2人、いや、男爵家で一緒に暮らしてるみんなと比較すると気持ちの種類が違うような気がするっていうかさ。

ただの俺の思い込みなんだけどね?


少なくともこの2人は俺を利用しようなんてことは一切思ってないんだよね。もちろんヴィオラだってドーリスだってミヅキだって。

むしろミヅキとドーリス、メルちゃんとサーラ嬢だって逆に俺のほうが利用してる様で心苦しい時があるもん。

うん?ヴィオラ?あの子は親戚の姪っ子だし持ちつ持たれつで問題無いのだ。


いや、もちろんヴェルフィーナ嬢がなにがしか腹の中で持ってるとは・・・少ししか思ってないんだよ?

それを考えるとアリシア王女はとてもわかりやすい子なんだよなぁ。

初回登場時は王族で切れ者って事で物凄く警戒してたんだけどさ。


行動原理が『行き遅れによる焦り』だって気付いてからは妙に可愛らしもの。

同じ様にリリアナ嬢もわかりやすいんだけどね?

でもおねぇちゃまはほら、ほらって言うかホラーな一面があるから・・・。

『尽くしてくれる』と書いて『束縛される』だからなぁ。


一緒にカラオケ行ったら古いところなら中○み○き、新しいところだとミ○ヤ○ザ○とか熱唱しそうな感じ。

個人的には大好きなんだけどね?ちなみに俺もモノマネしながら歌う。


そもそもさ、俺、ヴェルフィーナ嬢のことあんまりよく知らないんだよなぁ。

陰毛の本数以外。

と言うようなことを(もちろん陰毛の本数のくだり以外ね?)伝えたら


「・・・そんなの一緒に暮らしてる子がズルっ子じゃないか・・・」


って言ったきりしゅんとなってうつむいてしまった。

まぁ、もしも戦争が終わっても貴女の気持ちが変わらないなら・・・その時また考えようよ。最初からこの戦争が終わったらって話だったんだからさ。

てかこの戦争関連で色んな所で死亡フラグ建てまくってるな俺。

もちろん自分も好いている女の子も、追加で出来る範囲内でだけども世話になってるその他諸兄も死なせるつもりなんて毛頭ないんだけどな!!


そこからはよく懐いた犬のように擦り寄ってくるサーラ嬢、それを見て自分も同じ様にしようとしたもののまだ踏ん切れないメルちゃん、借りてきた猫のように大人しくなったヴェルフィーナ嬢、のびのびと遊び回る精霊さん達のお相手を続けながらも待つこと・・・3週間。


さてここで問題です。『ラッコちゃんの遊びといえば何でしょうか?』・・・そう、みんな知ってるアレ『おとうさんのぼり』だね!

俺の上によじよじと登っては転がる精霊さん達にとても癒やされました。

てかお肉が切れそうになったから途中で食料の補充の為、街に何度か戻ったわ。


ああ、対北の皇国用の野戦陣地構築予定地の見学にも何回か行ったんだよ?手伝いはしてないけど。声を掛けては見たんだけど普通にご遠慮された。

向こうは向こうで手柄を挙げたい貴族様がいっぱいいるからそれを俺が横取りしちゃったら感謝されるどころか心の底から恨まれるだけだし。

ウサギさんのバフ込みなら野戦陣地どころか稲葉山城でも建てれそうなのに。

貴族ってホントにメンドクサイよね・・・。


そして帝国軍、防壁の上に普通のお家を建てたから俺達の生活に不便は無かったけど待たせ過ぎだと思うんだ。

もちろん2人、ヴェルフィーナ嬢を含めて3人とはエッチなことはしてないからね?

暇でも戦場は戦場なのだから。これでもTPOは弁えているのだ。


・・・まぁ添い寝はしてたけどさ。ヴェルフィーナ嬢も含めて。

いや、だってすごく寂しそうな感じで2人に腕枕する俺のことを扉の影から見つめるんだもん。

そして一度添い寝してからは昼でも遠慮がちにくっついて来るようになった。

1人躊躇してると自分に不利益が生じると危機感を抱いたメルちゃんと共に。


ごめん、戦場だけど普通にイチャイチャしてたわ。

TPOとは一体何だったのか。

おそらくは『T・・・とっても、P・・・ピンク色をした、O・・・おっぱいのさきっぽ』だと思われる。あいうえお作文か。


だってほら、普通にタオルを使ってお風呂で洗いっこくらいは仕方がないじゃないですか?戦場だし水とか貴重だもん男女一緒にお風呂とか仕方ないじゃないですか?

淡い色の突起物くらいは観察してもいいじゃないですか!!

海はしに・・・おっとこれ以上は危ない。


いや、おっぱいとさ○ま○しは今はどうでもいいのだ、大事なのは越境してきた帝国軍の話なのだ。


各地で先だって用意は出来ていたが情報がもたらされてからの兵力の招集だったため、やや出遅れていた王国軍の主力があらかた北に集まったのも少し前になるからそこまで帝国軍の動きが遅かったわけじゃないんだけどね?

3週間待ってやっと警告音が(俺だけに聞こえるように)鳴り響き、広域地図に赤いマーカー、帝国の斥候らしき一団を発見。

こちらの目視できる所まで来たその一団は・・・戻っていった。


まぁいきなりこんな見たこともないような長城が完成してたらビックリもするわな。

『斥候が報告に戻ったらそのまま軍も引き上げるかな?』なんて少しだけ思ったんだけど・・・帝国軍を率いる将軍はそこまで賢くは無かったらしく、それからさらに5日かかって本隊が続々と越境してきた。


いや、こんなものいきなり建設出来る相手だぞ?

もっと最大限に警戒しろよ、馬鹿じゃないのか?


「ふむ、3万って話だったけど輜重隊とか付き人その他諸々含めて全軍で4万近く居るな・・・」

「こんなに離れてるのに正確な数がわかるのかい?」

「ああ、こうやって指で四角形を作ってその中にいる人数を数え――」


などとどこぞで聞いたことがあるような軍勢の数え方を適当に説明してるけど、もちろん魔導板さんが広域地図内の敵勢力の人数を表示してくれているから一目で解っただけである。

そもそも目視ではまだ帝国軍の全軍まで見えてないし。


相手が宣戦布告もなく勝手に越境してくるような野蛮人だとしてもこちらはジェントルメンな文明人、一度くらいは降伏勧告をしてやることに。

降伏勧告、それはお前ら帝国軍が幸福に退却出来る最後のチャンスなんだからな?


『こちらはキルシブリテ王国西方国境防衛軍である。理由なく王国内に展開する所属不明の帝国軍に告げる。皆殺しにされたくないならとっとと身ぐるみ置いて帰れ。繰り返す、死にたくなければ身ぐるみ置いて帰った後、俺の貴重な時間を無駄に浪費させた謝罪と賠償に金を持って土下座しに来い』


「全然繰り返してないじゃないか、1回目と2回目で言ってること変わってるし私怨も混じってるし。それに、ここで過ごした時間は・・・私にとって無駄でも浪費でも無かったよ?だってハリスと以前よりも仲良くなれたもの」

「こまけぇことはいいんだよ!なんとなく『馬鹿を馬鹿にしてる』ことが伝わればオッケーなんだから。あと、そういう恥ずかしいことはお外では言わないように」

「あちらから一騎、旗を持った騎士が駆けて来たな」


ちなみに騎馬が駆けてきたからと言って開戦の挨拶に来た律儀な人間だなどと思ってはいけない。勝手に越境して来ている時点で既に開戦されているのだから。

あの騎馬はただ単にこちらを偵察に来ただけなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る