新しい年編 その5 悪巧みの似合う人たち
さすがに国王陛下による新年の挨拶が終わるまでは会場を離れるわけにもいかないのでじっと待機する俺。むっちゃソワソワしてるんだけどね?
いやね、新しい精霊様、火の子と水の子なんだけどさ
『とても愛でたい』
のである。
だって火の精霊様
『赤い鬣を靡かせた凛々しい大獅子』
・・・のコスプレをしてる茶トラの子猫。
そして水の精霊様
『あなたはカワウソですか?いいえ違います私はラッコです』
つまり数多の水生生物の中でも最可愛(さいかわ)候補ナンバーワンのラッコなのだ!!
それもあれだよ?ラッコ、他の子は各お嬢様の頭の上に鎮座してるのに寂しそうにこっちをウルウル見つめるという・・・完全に置きに来た可愛さ。
だがそれがいい!!
「ハリス、微妙に興奮が伝わってきて少々、いえ、多大に気持ちが悪いのだけれど?」
「だって、全員あまりにも可愛すぎるんだもん」
「・・・あなた、その態度は精霊様よりも先に女性に、いえ、私に向けるべきではないかしら?」
「はいはい、お嬢様ももちろん可愛いですよー」
・・・お嬢様、ドレス姿なのにこそっと蹴るのはおやめ下さい。裾で足を引っ掛けてコケますよ?
てか早く来いよ王様、役目でしょ!!
あ、王妃様と一緒に出てきた。そして長い、話が長い。
何なの?いつもより人が多いからテンション上がっちゃってるの?校長先生なの?
あ、目があった。取り敢えずほほえみ返しておこう。
・・・国王陛下、どうしてビクってなってんだよ・・・。
内容は一切伝わっていない割に長々とした新年の挨拶も終了したので精霊様と別室に移動する俺とお嬢様御一行・・・おっさんを添えて。
あ、おっさんは大丈夫です。お好み焼きにもおでんにも辛子はいらないタイプなので・・・ごはんはほしいです。お好み焼き定食最強。
ちなみに『焼きそばにごはん』はもちろんのこと『たこ焼きにごはん』もギリいけるからね?
おでんにごはん、焼き鳥にごはん、シチューにごはん・・・さすがにチャーハンにごはんは無理だと思う。
おじさん連中、どうしても付いてくる感じ?しょうがないにゃあ・・・。
てかそこかしこからめかしこんだ青年の視線が飛んでくるんだけど?
それもそこそこ殺意のこもった。
まぁ1人で綺麗どころ全員連れて歩いてる奴がいたら俺だってそんな目になるわな。でもお前らの顔は覚えたからな!!
アンダーなヘアの本数を見分けることに比べたら人の顔を覚えるくらい・・・いや、興味のない男の顔とか間違いなく記憶にのこらないや。
「コーネリウスから聞いたが・・・そこに五大精霊様が皆揃われていると言うのはまことなのか?」
なんかいつも使ってる待合室とか応接室よりもワンランク上のお部屋に通された俺。
ソファに座った途端精霊様全員に膝から肩から頭に乗っかられてちょっとしたヘヴン状態である。
「いや、聞こえているか?魂の抜けたような顔になってるぞ?」
「あっ、はい、大丈夫です、みんなとっても良い子ですよ?」
「全く聞いていなかったな・・・」
呆れ顔のガイウス様。
だってラッコちゃんがさ、あまりに寂しそうにしてたからさ、頭の上に乗せてあげたのさ。そしたらさ、嬉しそうに『キューッ』とか鳴くのさ。
もうね、この子はうちの子にするべきではないだろうか?
なんかおっさん連中が難しそうな顔であーでもないこーでもない言ってるけどそんな事はどうでもいいじゃない?だってモフモフだもの。
「しかし、本当に卿は行動が読めないと言うか周りを巻き込むと言うか・・・。そちらには行方の知れなかった水の精霊様もいらっしゃるのだよな?」
「いや、婿殿の周りに精霊様が集まられていると娘も言っているのだが・・・そもそも精霊様、それも皆様に好かれるなどと言うことが有り得るのであるか?各家の初代様ですら属性違いの精霊様とは意思疎通が難しかったと聞き及んでいるが」
・・・多少意思疎通の方法がズルっ子なので少々後ろめたい部分もあるんだけどね?
まぁ長時間おっさんが集まって話し合った結論は『五大精霊様が集まったとか新年早々目出てぇな!』と言う当たり障りところか内容も全く無い物であったという・・・。もっと意味のある相談しろよ。
王様、と言うか皇太子様的には水の精霊様も王城で暮らして欲しい感じであったんだけどラッコちゃんに
「ここで住みたい?」
って聞いたら雲ひとつ無い青空がいきなり雷雲に覆われだしたので慌てて撤回。
その後は全員におやつ(魔水晶)をあげていっぱい遊んでから解散した。
ねこちゃんも一緒に帰りたいの?
さすがにそれは勘弁してくれと王様がアワアワしだしたのでダメだった。
てか転移とか出来るなら遊びに来ればいいじゃん。
「いや、まだ普通に新年のパーティが続いてるんだけどまた1人だけ帰るつもりかい?」
「1人では無いわ、私も帰るもの」
「わ、妾も帰る!」
「いや、殿下のお家はここですし・・・」
フィオーラ様がちょこっと○波っぽいなと思いました。
だって臭いおっさんいっぱいの会場とか戻りたくも無いしなぁ。
うん、やっぱり帰ろう!!
こちらはハリス、ついでにお嬢様方全員(しかたがないのでアリシア王女も)が帰宅した後の王城・・・のさっきのお部屋。
残されたおっさんが話を続けていた。
「いや、まさか新年早々に長らくの間行方の知れなかった水の精霊様が戻られるとは・・・」
「確かに驚きましたね。いえ、そもそも他の精霊様方も揃って王城にお迎えするなどいつぶりのこととなるのでしょうか?」
おっさん(国王陛下)がそうつぶやくとややおっさん(皇太子)がそう返す。
「それこそ建国の時まで遡らなければならんのでは無いかな?しかしあやつはその重要性を一切理解しておらんようだが」
「そもそも欲が無い子ですからね、権力にもお金にも女性にも。いや、女性に関しては多少はあるのかな?」
おっさん(フリューネ候)の疑問にややおっさん(コーネリウス)が答える。
「キーファー家はそんな男をよく取り込めたな・・・」
「いえ、特に取り込んだりはしておりませんよ?あくまでも彼が自主的に妹を通して協力してくれているだけで」
続いてはややおっさん同士の会話。・・・この説明、はたして必要なのだろうか?
「竜を倒すほどの魔法も使うと言うではないか?それは・・・大丈夫なのか?」
「ふっ、あやつの本質は武人ではないわ。二言目には『ダラダラと暮らしたい』と言っておるからな」
「確かに本来は戦など、いや、貴族的な騙し合いも含めて揉め事などには一切関わり合いたくないと思ってそうであるな」
「覇気がない・・・と喝を入れるのが正しいのか、それを喜ぶのが正しいのか」
「何にしても放浪癖・・・と言うより面倒事があると『あ、もういいや』って感じでそれまで積み上げた全てを捨ててしまう事の出来る子ですからね」
「やはり幼くして親に捨てられた事が影響しているのだろうか?・・・それなら私にも一端の責任があるのだが」
「竜退治の話ばかり有名になっているみたいであるが婿殿の本質は大いに優れた内政家であろう?先の北の謀略に国内の混乱なく対抗できたのは先だって物資の用意などが出来ていた部分も大きいぞ?」
「・・・国を出ていかれると国内の物価に大きな影響が出るだろうな。いや、そもそもあやつしか用意の出来ない品物も多いからな・・・特にトイレットペーパー、アレが無くなるなど考えたくもない」
「何なのだその『といれっとぺーぱー』と言うのは?そもそもあの男、王家を避け過ぎでは無いか?ないがしろにしているわけではないが」
「それは王家の責任もあるのではないですか?第三王子との決闘騒ぎの件、最初は『王族との縁を切る』と書かれていたのをこちらでどうにかこうにか修正したのですからね?」
「いや、貴族籍にある者が王家と縁を切るとかおかしすぎやしないか?」
「ですから彼は別に貴族になど拘っていないのですよ・・・。いや、そもそも今回の北の皇国の件も最初は我関せずで行こうとしてましたからね?」
「さ、流石に国難と言っていい状況でそれはどうなのだ?」
「運良く婿殿の遠い親戚筋の者が海沿いで領主をしていたのは幸運であったな。婿殿の塩がなければ塩不足でちょっとした暴動騒ぎになっていたかもしれないのである」
「彼は基本的には善人なんですけどね。・・・恐らくですが家族に裏切られたわだかまりの様なものが少し心を頑なにしている所があるとは思われますが」
「しかしそんな出世欲もない人間をこれからもどうやって引き止めるのだ?金にも興味がない上に好きなように稼ぐ力もあるのだろう?今の伯爵位についてもキーファー家からの物だから受けているだけとも思われるし」
おっさん全員で大きなため息・・・。
飲酒しての徹夜明けなので結構な口臭が部屋に漂う。
「そのへんは・・・もう妹に頑張ってもらうしか無いかも知れないですね」
「そうだな、幼い頃は娘に惚れこんでいたようだしな」
「たしかに!家は娘3人であるし婿入りにはちょうどよいのであるな!」
「いや、ここは王家から降嫁させるというのもよいかもしれぬぞ?」
和気藹々とした空気から一転、互いに牽制し合うおっさんたち。
「・・・内政向きと言うなら何度か立ち上がっては中止になったあの計画、南都の建設でもやらせてみればどうだ?嫁を取らせてのんびりと自由にやらせれば本人もそれほどの不満は持たんだろう?水の精霊様が付いているとなれば侯爵位まで押し上げても問題は無いだろうしな。南都の形が整えば降嫁させて公爵位、その時にフリューネ家にも嫁を入れて公爵にすれば四方の領主の位が揃ってちょうどよかろう?」
「・・・良いかもしれませんね」
「いや、しばしお待ちを。アリシア殿下以外で年頃の・・・年頃?の姫様と言えばいきおく・・・陛下の妹君しかいらっしゃらないのでは?」
「フリューネ候、良かったのであるな!」
「うむ、めでたい話だな」
「いや、さすがに私とほぼ変わらぬお歳の方を息子の嫁には」
「別に候が嫁にしても構わぬぞ?」
「そうですね、息子も王家から降嫁いただけるとなれば代替わりの際にはこれ以上ない箔となりますな!いやあ、新年早々実に目出度い!!」
・・・預かり知らぬ所で陞爵が決まりそうなハリス君だった。
あと勘違いで元実家が大貴族&王族から忌み嫌われる事態になった。
そして侯爵家のご長男・・・頑張れ。
―・―・―・―・―
分けるほどでも無かったので少し長めになりました・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます