新しい同居人編 その18 新しい領地と新しい領民

さて、話は少しだけ戻って――西都に到着してからノルデン商会の人間を呼び出すまでの間の時間のこと。


そろそろ王都からエルドベーレのディアノ商会に男爵家の新しい役人候補が到着してるだろうと思われるのでお迎え&新領地(ロマル、元ラモー男爵領だな)に送り届けるために足を運ぶ。

ちなみに新しく雇う人間は11人、男4女7と女性比率は高いが今回に関しては全く他意はない。いや、いつも他意はないんだけどね?

あ、この黒い人(メルちゃん)は悪い黒い人じゃなくて良い黒い人なので怯えなくとも大丈夫だから。見た目の圧がすごいけど害はないから。


もちろんエルドベーレからロマルまで歩いて行くのは時間が無駄な上に(俺が精神的に)疲れるので黒馬車での移動である。

ん?後部座席が6人乗りだから2往復する?

・・・どうして後ろに1両しか繋げないと思った?

広い道(荒れ地)を走るんだから連結数を増やせばいいじゃない。


線路はなくとも列車は走る、なぜならタイヤが付いてるから!

機関車の能力的には5両くらいは連結出来そう・・・だけど方向転換能力はダダ下がりするので多くても3両までだな。

馬車と言われても馬車に見えない乗り物におっかなびっくり乗り込む初々し・・・くもない新人さん達。年齢幅が16歳から34歳まであるので仕方がない。

と言うわけで目的地までご一行さんご案内である。


しかしあれだね、メルちゃんに運転してもらって景色を見ながら助手席でのんびりと座ってるんだけどさ。

西都に向かった時に見た景色はもっとこう活気があったんだけどなぁ。

こっち方面は普通に荒れ地だけ。人の行き来も無い。

『ほぼ無い』ではなく『人っ子一人見かけない』レベルだからね?


例の人身売買小屋跡地を通り過ぎて中心部、一応元男爵領の領都(笑)だった村に到着する。

昔のヴィーゼンよりいくらかはマシな家屋と人口、寂れ具合はどっこいどっこいって感じかな?

男爵家の屋敷は特に荒らされた形跡も無いので使えそうだな。

てか貧乏領地にしては小綺麗で随分と立派な屋敷だ。


前にも使った風魔法、拡声の魔法で領内の広域に『新しい領主代理が着任の挨拶をするので全員領主の屋敷まで集まるように』と声を届ける。

当然の様に覇気も無く、老若男女問わずめんどくさそうな顔でダラダラと歩いて集まる新領民達。

俺が教頭先生なら『はい、みなさんが集まるまで2時間もかかりました』って説教が始まるぞ?


何なのこいつら?例の女の子達の件で俺のやる気がマイナススタートしてるのにさらにやる気を削って行くとか馬鹿なの?俺のやる気はお前らの生活にコミットするんだぞ?むしろオミットしてやろうか?

そしてヴィーゼンと比べれば働き盛りの男性の数が多い。

ラモー男爵、自分の領内で魔物の反乱が起こったのに他領からの応援から使い潰した感じか?

まぁ為政者としては間違ってない判断だな。・・・間違っていない判断が正しい判断だとは言わないがな。


そもそもここの領民の人数も知らないので適当な人数が集まった所で前にも使った少し高い台を出して登り、声を上げる俺。

新人さんは普通に台の横に並ばせている。


「前領主が不正で失脚した事によりこの領は隣領であるヴァイデ男爵家に併合される事となった。以降はそちらに居る新しい代官により統治されるので従うように」


うん、別にここで新しく何かを始めるとかないんだよね。

当分は忙しい上に冬場だしさ。

集まった領民はザワザワしてるけど俺の仕事はここまでなので気にせず新人さんを連れて屋敷の中に入り取り敢えずの方針説明。

領民の意見を聞く?別に話しかけられてもないし必要なかんべ?


屋敷の中・・・と言っても暖房がきいている訳でもないので普通に寒いな。

黒い人あらためメルちゃんが『くちゅん』と可愛いくしゃみをしたので魔道具を取り出して応接室を温める。

椅子に座る俺、その後ろに立つメルちゃん、壁際で直立不動の新人さん。

うん、何となく居心地がとても悪いので説明だけしちゃってとっとと帰ろう。


「見てもらった通り今日からあなた達に治めてもらうのはこの領地になる。一応前領主の残した書類や報告書などは有ると思うが収益どころか領民の人数すら正確ではないはずなのでまずはそれらを調べて把握してもらうことから始めてもらわないとならないだろう。ここまでで何か質問はあるかな?」


全員で首をふるふると横にふる新人さん。いや、ちゃんと返事くらいしろ。


「税率は五公五民・・・でわかるかな?統治方法やこの領内の開発などは自由にしてもらっていい、もちろん事前に報告は必要だがな。成功時にはもちろん褒めるが失敗時には特に処罰はしない。わざと失敗する様な馬鹿は居ないと信じているからな?給金は皆一律で月に金貨5枚からの開始、年明けに代表をここにいる全員の投票によって決める。当然役職手当も発生する。ああ、不正を見つけた場合は精査をした上で事実なら首を斬る。わかっているとは思うが辞めさせるという生ぬるい意味では無いからな?場合によっては親類縁者まで罰が及ぶと思うように。何か質問はあるかな?」


全員青い顔をして高速で首を横にふる。少し脅かしすぎたかな?そして喋れっつってんだろうが。

ちなみにこの世界、5割でも農業中心の村では税率が低い方なんだぜ?平均でも税率65%くらい、高いところだと80%とかいう領民(どころかある意味自分で自分)を殺しにかかってるとしか思えない所もあるのだ。

そして小役人の初任給は金貨2枚~手当込みで3枚くらいが相場なので金貨5枚はそこそこの高給取りなのである。

・・・今のヴィーゼンの領民より金貨1枚少ないけどね。


「繰り返しになるがここに関してはしばらくの間は自由に統治してもらって構わない。やる気がある人間は給料くらいはどんどん上げてやれるだけの収益はあるからな?何かすぐに必要になりそうな物があれば言うように。今すぐで無くとも定期的にディアノ商会の商隊に立ち寄ってもらう様に手配しておくのでそれほど心配はいらないと思って欲しい。ああ、そう言えば支度金もまだ渡していなかったな。ええとそこの・・・ケイン、幾ら欲しい?」

「はっ、はい!?いえ、しばらくの生活に必要な金銭はございますので大丈夫です!」

「いや、着任早々自分の手持ちを持ち出すのはおかしいだろう・・・メイサ、必要だと思う額を遠慮なく言うように」

「へっ!?そ、そうでございますね・・・大銀貨・・・2枚位でしょうか?」

「子供の小遣いじゃないんだから・・・ここで遠慮しても特にメリットは無いとおもうけどなぁ・・・メルティス、卿ならいくら必要だ?」

「そうですね、生活の基盤も整えなければなりませんので給金の半年分は必要ではないでしょうか?」

「ふむ、流石メルティス、妥当な判断だな」


褒めては見たけど何が妥当かはわからない。

と言うことで一人に付き金貨30枚を支度金として配っていく。

掌の上に積み重なっていく金色の重さに喜色が滲んでいくのが見て取れる。

あ、新人さんの名前はもちろん覚えていた様なフリをしてるだけで視ながら言ってるだけだからね?

『この人・・・自分の名前ちゃんと覚えてくれてるんだ!』って思い込みから少しでも忠誠心が芽生えてくれることを期待する。


てか一応貴族や商人の子女とは言っても次男三男四女五女と言う立場の者達である。

自分で使える小遣いなどそんなに持たされていたはずもないので支度金を全員に配り終わってからも急にもらえることになったそれなりの大金に顔が緩みっぱなしだ。

うん、最初に飴を与えるのは非常に大切なのだ。

そしてメルティスと名前を呼んだ時に嬉しそうな声で答えるメルちゃんはとても可愛いと思いました。


余談ではあるがメルちゃんとサーラ嬢のお給料は月に金貨20枚なり。

ドーリスの給金はあまりにも多すぎると言う本人の希望により金貨30枚まで下げさせられた。

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