孤児院編 その7 草むしりが最強だといったな?あれはウソだ

 トイレットペーパーが生産可能になり精神的に少し余裕の出てきた初夏。うん、現在は初夏なのだ。

 何が言いたいかと言うと・・・すでにそこそこ部屋の中が暑い。だってここ物置部屋だからね?風の循環が無いのだ。


 これ、真夏になったら命に関わるんじゃね?脱水症状起こして朝死んでたとか嫌過ぎるんだけど・・・。

 最低限でも扇風機、出来ればクーラー、冬に向けて暖房も出来るエアコンが是非とも欲しい。欲しいのだが・・・。


「スキル的には魔道具制作スキルがいるのか。それに材料がまったく何もないからなぁ・・・」


 うん、無理。だって限りなく無一文に近い貧乏だもの。素材の調達が採集するか拾ってくるかしか無いからね?

 風魔法が使えるから延々と魔法を使い続けるとか・・・どう考えても魔力的に無理だし。

 水魔法で水を作り出して桶か何かに貯めておくとか・・・それ井戸使えば良くね?てか常温の水を置いといてもそんなに意味があるとは思えない。


 ・・・なら水の温度を冷たくすればいいんじゃね?いや、むしろ氷出せばいいじゃん!!


『氷魔法を使用するには水魔法ランク3、火魔法ランク3、魔法合成ランク3が必要です』


 ああ、氷は水魔法じゃなく上位スキル扱いなんだ・・・。てか氷魔法なのに火魔法?ああ、温度的な関連は火魔法なんだ。

 でも条件的にはそんなに難しくないよね?3日もあれば経験値貯められそうだもん。

 てことで4日後に氷魔法をゲット(3日じゃ少し足りなかったよ・・・)して氷を部屋に設置・・・したら溶けて水浸しの大惨事になるので『煉瓦を作ってそれを氷魔法で凍らせる』事で最低限の結露で抑えることに成功。


 そして氷魔法のランクを上げることで長時間低温で持たせることも出来るようになり一安心である。てかこれ商売になりそうだな。いや、小銭稼ぎにしかならないだろうけど。

 魔道具さえ作れる様になれば・・・。


 あとさ、俺の部屋がなんとなく涼しい事に気付いたシーナちゃんがさ、夜になるとさ、来るんだよ・・・。

 そして俺と同じベッド(と言う名の木の台)で一緒に寝るんだよ。勝手に部屋を出てきて大丈夫なのか?

 そもそもくっついて寝たら少々涼しくても暑いからね?それでなくとも子供は体温が高いからね?


 さて、そんなこんなで一生懸命に草むしり――夏場は雑草の季節なのでお声がけも多くて小銭もそこそこ稼げたので10日に1度くらいはシーナちゃんとの買い食いなんかも挿みながら――頑張って頑張って頑張って・・・気付いたら秋である。

 まぁ孤児院に夏らしいイベントなんて無いからさ。


 海水浴?海まで往復すると徒歩でふた月以上掛かるし・・・。

 川とか湖?いや、別にそんなに泳ぐことにこだわり無いよ?そして大都市(一応ここ、北部の中心なんだ)の近くの川とかそこそこの水質汚染があるから入りたくない。

 バーベキュー?うっすいスープとかったいパンと傷んだイモくらいしか食えないのにそんな贅沢な食べ物が出るはずなかろうが。


 うん、実に寂しい夏であった。でも経験値も稼げたしシーナちゃんともそれなりに遊べたし何の問題もない。むしろこれ以上を求めるのは贅沢ってもんなのだ。少しでも気を抜いたら死ぬ世界なのだから。いや、一般人はそこまで厳しくは無いんだけどさ。現状の俺、ど貧民だからね?


 暗い話にしかならないので身の上話はこれくらいにして・・・『秋』である。むしろ『秋真っ盛り』である。

 日付で言えば『10月1日』キリのいい感じである。ああ、ここまで貯めた経験値はとりあえず基礎能力値に回した。だってHPとか低いままだと死んじゃうもん。

 繰り返しになるけどいろんな意味で自衛が出来ないと貧乏人は生きていけない世界なのだ・・・。世知辛いよね・・・。


『いや、なんでそんなに秋に拘るんだよ?』ってお思いの方もいらっしゃるとは思いますが『秋の次は冬』なんだよ?

 何を当たり前のことを大げさに・・・うん、まぁそうなんだけどさ。


 冬、賢明なる諸兄の皆様ならば既にお気づきだと思われるが冬といえば寒い、そして雪が降る。そして諸兄と皆様で微妙にかぶってる。

 特にここはキルシブリテ王国でも北にある北都プリメル、他の大都市よりも秋が短く冬が長いのだ。


 つまり何が言いたいかと言うと・・・これまでのルーチンワーク(草むしりによる経験値稼ぎ&小銭稼ぎ)が出来なくなるのだ。

 いや、これ、マジで死活問題なんだよ?冬場ってカロリー溜め込まなきゃならない季節なのに収入源がゼロ、経験値もゼロ、当然カロリーもゼロである。

 さすが冬、草も生えないとはこのことである。

 早急に、早急に対策を講じなければならぬのだ!!草むしり以外で経験値が美味しくて小銭が稼げるお仕事ございませんかっ!?




 てなわけで草をむしりながら街なかで何か出来ることはないかと探しては見たんだけど早々見つかるはずもなく。

 そもそも子供でも出来るような仕事は普通のご家庭の子供に割り振られているので小汚くて胡散臭い孤児の出番など無いのだ。

 ん?探索者組合?もちろん行ってみたさ。でも年齢制限に引っかかった。『15歳未満お断わり』だから。

 普通に考えたら子供が迷宮に入っても足手まとい以外の何物でもないから仕方ない。


 しかし、捨てる神あれば拾う神あり、灯台下暗し大正デモクラシー。お仕事、見つかったのである。・・・大正デモクラシーについてはいくらなんでも率直過ぎたと反省している。

 この孤児院、運営は教会がしているってのは言った・・・かな?たぶん言ったんじゃないかな?言ってなかったら今聞いたって事で。


 あらためて・・・そう、教会の運営なのである。平たく言えば宗教団体だな。

 で、教会のグッズ売り場(とは絶対に呼ばないだろうけど。神社とかお寺のお守りとか破魔矢とか売ってる所)にあるタリスマン・・・は素材が金属だから無理だけど『神様の像』なら土魔法で焼き煉瓦を作って削り出せば作れそうじゃないですか?


 むしろ彫刻スキルを上げちゃえば製造スキルで作れるかもしれないけど経験値稼ぎにはならないだろうし。

 とりあえず最初は彫刻刀の貸し出しをむっちゃ渋られたけど頼み込んで一体彫り上げたわけよ。余ってる経験値全部『器用さ』に放り込んで(12になっただけだけど)。

 それでも大人でも能力値が10を超える人間なんてそうそう居ないんだからちょっとした彫刻家顔負けのレベルの神様の像が出来上がった。

 で、それを


「大銅貨一枚で引き取って貰えます?」って聞いたら

「お前は神の世話になっておきながら俸給を求めるなどウンたらカンたら(意訳:無料奉仕しろクソガキ)」と言い出したから

「ああ、じゃあいいです」って床に叩きつけ・・・ると迷惑になるからつちくれに戻して消し去った。


 他人に迷惑をかける行為は駄目、絶対。

 いや、俺が土魔法使えるくらいはどっかに(ここに預けられた時に書類にでも)書いてあるだろうにつちくれを消したくらいでそんなに驚いた顔しなくてもいいと思うんだけど・・・。


 てかさ『孤児院の運営』をしてるのは教会だけどお金を出してるのはここのご領主のキーファー公爵家だから神の世話になんかなってないしね?

 大体どれだけ教会のナマグサ坊主ならぬナマグサ神父が中抜してるのかもわかったもんじゃないし。

 教会で買取して貰えないなら最悪どっか他所様で肉体労働でもするか・・・と思っていたら翌日の朝呼び出されて


「しょうがないので大銅貨1枚で買い取ってやる」とか今更言いやがるので

「そうですね大銅貨3枚でならお譲りしますよ?」って答えたらまた

「お前は神の教えというものがナンたらカンたら(意訳:いいから黙って働け)」って話になったのでそのまま礼だけして部屋から出ていこうとしたら

「わ、わかったから作れ!!」


 うん、交渉はまとまった訳だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る