新しい同居人編 その4 人買いさんじゃねぇし

3時間の徒歩。そしてもう少しだけ歩いた先に・・・最初の民家を発見する。


「こちら、現地のロマルに到着いたしましたハリスです」

「現地と言うかただのぽつんと一軒家じゃの」


まぁ田んぼの脇の農具入れみたいな荒屋(あばらや)が一軒建ってるだけだもんな。

アレだよな、ヴィーゼンでもそうだったけどクソ人数が少ないのにどうしてこいつらは離れて生活したがるのか?

まとまれよ!いろいろと不便すぎるから住民全員まとまって暮らせよ!!

ヴィーゼンも含めてクソ貧乏な田舎だから山賊とか盗賊に襲われることもない(盗るモノがないので割に合わない)だろうけど野生動物くらいは出るよね?危機管理能力皆無なのか?

いや、野生動物とか出たら貴重なタンパク源として現地の住民がお召し上がりになるだろうけどさ。


さすがにじきに冬と言うかすでに冬なので外に広がる畑に人の気配はないけど・・・家から煙の様な物が少し出ているのでおそらく人は住んでいるのだろう。

そもそも大して手入れもなされていない様な畑だから季節関係なく収穫があるのかと聞かれても答えられないが。



普通に戸板を叩くだけでも外れてしまいそうなうっすい戸をとんとんと叩く。

一応隙間は無いので覗き見は出来ないみたいだな。


・・・

・・・

・・・


出てこねぇ・・・。中で微かに物音はしたけど出てこねぇ・・・。

いや、何でだよ!これだから排他的な田舎者は!

あぁ、無言で戸を叩いただけだからもしかしたら怯えられてるのかな?


再度戸を叩いて


「おるかー?」

「・・・えっと、ど、どちらさまでしょうか?」

「よーし、おるな!いくわ!」

「ひぃぃぃっ!?」


「お主は何がしたいのじゃ・・・」


声をかけたら返事は帰ってきたけどさらに怯えられたでござる。てかこんな村の外れ(?)に住んでるにしては年寄りじゃなく若っぽい女の子の声だったな。

引き戸を開けようとしたら反対側から力一杯抵抗されたので普通にここに来た理由と身分を――半時間かかって――説明して開けてもらった。

まったく、これだから(ry



そっと開いた戸の隙間からこちらを覗く目が見えたのでニコッと微笑んでやったら戸が開いた。

まぁ成人してるかどうかの兄ちゃんと幼女の二人連れが立ってるだけなんだからそこまで警戒はしないわな。

家の・・・家?の中には5歳くらいから15歳くらいまでの女の子・・・女の子?が5人。あれ、狭い中に想像よりいっぱい居たぞ?

いきなり大声とか出したら蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑いそうな感じ。例えが酷すぎるな。


「いきなりの来訪失礼する。早速で悪いがこの領内に先頃下級妖魔が出てきた迷宮の入り口があるらしいのだが場所のわかる者は居るだろうか?」

「・・・ひ、人買いさんですか?」


「ぶふっ・・・」


あれー・・・戸が開く前に説明したよね?理由と身分。そしてミヅキ、笑いすぎだからな?


「こんな愛らしい顔をした稚児さんの人買いなどいない、いいね?」

「そ、そうですか・・・」


ちょっと震えてた女の子、思いっきりホッとしてるし・・・。

てか前にも少し触れたことがあるけどこの国には奴隷は居ない(ことになってる)から人買いとか存在・・・するかもな。


港から出てしまえば他所の国だもん。

港から近い貧しい村、特にここを治めてたのはあの男爵だからなぁ・・・。

いや、そもそもこの村外れの荒屋、そこに住んでるのが少女と幼女だけとか少しおかしいよな?髪色とか目の色とか違うから姉妹って感じでもないし。


奥にいる小さい子のお腹が『くぅ・・・くるるるるる・・・きゅるっ』と鳴ったので保存用に料理してあった食事を取り出してみんなに配る。

お、おう、ミヅキも食うのか?本当にお前は自由な蛇だなぁ。

ゆっくりと食べさせながら一番の年長さん(俺よりも年上の16歳らしい)に話を聞く。

つっかえつっかえ、時々途切れながらに話してくれた内容は・・・やっぱりそうか。


まぁ纏めると


あのクズ男爵が

『他国の商人から金を受け取る→ここから女の子を連れて行く』

と言う至ってシンプルなシステム


あのおっさんは本当にろくな人間じゃねぇな・・・。

てか5人中3人はあいつと一緒に居た他の貴族領の人間らしいし。

この子達はクズ男爵一家が居なくなってもここに放置されたままだったらしい。

食べ物もなくなってたみたいだし、見つけるのがもう少し遅かったら危なかったんじゃないかこれ。


てか少なくとも二人はこの領の人間なのに放置されてたのかよ・・・。


「主よ、目が怖いぞ?童どもがおびえるじゃろうが」

「一番の幼女にそんなこと言われても・・・」

「我このなかでは一番の年長者ぞ!!」


ぷくっと頬をふくらますミヅキとそれを見て笑う女の子達。腹も膨れて少し落ち着いたらしく全員最初より少しだけ表情が柔らかくなった。

ミヅキ、さすが神様だけあって気配りの出来る蛇である。

そして『人買いさん』扱いは俺が『領主の使い』だと名乗ったことからの勘違いであって決して俺の風貌が胡散臭かったとかそういう理由ではないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る