東の果て編 その20 はじめての・・・王城
俺が至急と伝えたことを重く見たのかフィオーラ嬢の鶴の一声で王宮に出仕しているガイウス公に早馬が飛ばされる。
・・・いや、今日明日の話じゃないから帰ってきてからでも良かったんじゃないかな?
そのまま他所様(伯爵様だしね)を中庭で立たせたまま待たせるわけにもいかず応接室にお通しする。
なぜか付いてきたヘルミーナ嬢を膝に乗せてのんびりと過ごすこと小一時間。グリューデン伯がむっちゃ居心地悪そう、むしろ『とりあえず屋敷に連絡だけでも入れたいんだけど?』みたいな目でこちらを見ているのでそろそろ解放しようかと思っていた所で
「ハリス様、旦那様が王城まで来るようにとの事です」
えー・・・面倒だから帰ってくるの待ってようよと思わなくもないが、それでなくともお世話になっている公爵に呼び出されて無視が出来るはずなど無く。
仕方無しに伯爵を連れて馬車に揺られてお城に向かう。あきらかにホッとした顔してるな。
「・・・何と言うか、卿は凄いな」
「えっ?何のお話です?」
「いや、あの光の聖女様があんなに表情豊かになられるとは・・・何年か前にご尊顔を拝した時はそれはそれは凛々しく気高くお美しい方だった・・・いや、それはいいとしてどうして私まで城行きの馬車に乗せられているのだろう?」
「旅も地獄も道連れが欲しいじゃないですか?」
「・・・下ろしてはもらえないかね?」
公爵家の馬車に乗ってるのでお城の城門でも中をチラッと確認する程度のチェックしかなくそのまま奥に進んでいく。
用件を伝えるとそのまま城の待合室まで一直線である。まぁ手続きなんかは全部
「ジョシュアじーちゃん、いつも手間かけてごめんね?」
「なんのなんの、ハリス、いや、今はもうアプフェル伯爵でしたな」
「ずっとハリスでいいよ、そんな他人行儀な・・・」
じーちゃん任せなので安心である。
さすがに今回はそこそこ待たされるだろうと予想してたのにそんな事もなく茶を飲みながらグデーっとしてたら30分もしないうちにお呼び出しが掛かる。
さすが王城を言うべきか、シンプルだけど重厚な雰囲気の廊下を進み、通された部屋には
「ハリス、やっと戻ったんだね。まったく、急に居なくなるもんだから娘がぐずって大変だったんだよ?」
「ああ、ハリスやっと来たか、おお、グリューデンも共に来たのか。やはり東側の街に居たのだな。それならそれでリリアナを伴えばいいものを」
「ほう、卿が竜殺しであるか!娘に聞いてはいたがとても竜を相手取り殴り殺す様な男には見えぬのであるな!」
コーネリウス次期公爵、マルケス侯、ヴェルフィーナ嬢のお父さん(ヴァンブス公爵、名前はブルートゥス、音楽とか聞けそうな名前だな)そして
「久しい・・・と言うほどでもないな、少しは控えろと言ったはずだが相変わらずだなお前は」
苦笑いをするガイウス公が揃っていた。
「うわぁ・・・帰りたい・・・」
「卿は、この状況でこの方々を目の前にして最初に出る言葉がそれとは・・・大物過ぎはしないかね?」
確かにわざわざ国内の大きな都市の防衛を担当するメンバーが全員集まってるのは丁度良いと言えば丁度良い話だけどさ。
まぁ雑談で時間を潰すのは勿体ないのでさっそく本題に入る。
各地の迷宮での魔物の氾濫や竜などの大物が知っている他にも出て来ていないかの確認、それに伴った地方の町や村の状況、港以外からの輸入に頼っている物資の増減。
そしてそれらに便乗した国内での内乱や混乱がないかどうか。
うん、まったくこれっぽっちも俺が関わる様な問題じゃねぇなこれ。
「君はあれだね、そこまでの情報を集められる様な伝手もないはずなのに少しの情報だけでよくそこまで判断出来たね」
「いえ、最初にもお伝えしましたが現状ではあくまでも推測と憶測でしかありません。しかし国外からの輸入量の一番多いであろう海運の中心部とも言える街で建材関連の物資の不足が見られるのは少々不思議ではある・・・と、隣の伯爵が申しておりまして」
「私は何も言っていないのだがね?」
「確かにその通りだな、しかしそこまで物資不足が深刻だと言う報告も上がってきてはおらんのだが・・・一度徹底して調べるか」
「迷宮関連の情報と共に故意に隠蔽されている可能性もありますので出来得る限り早急に・・・と、隣の伯爵が申しておりまして」
「いや、私でワンクッション置く意味は特にないと思うのだが?」
伯爵、おかずを食べる時の白米のような役割である。
「内乱・・・または他国からの侵略か。婿殿はどちらかと言えば侵略の方が高確率だと思っているようだがその根拠は?」
「もちろん他国からの侵略の際には国内からの内応者も出るとは思いますが、広範囲での魔物の氾濫の操作や他国からの荷留など国内の勢力だけで隠れてこそこそと出来る範疇を超えていると思われますので・・・と隣の伯爵が寝言で」
「卿はいつのまに私の寝床に忍び込んだのだ?暗殺者かなにかなのかね」
「それで、お前は攻めて来るならどこだと見ている?」
「単純に操られた魔物が暴れた時に被害が一番大きかったであろう場所、鉱物などの輸出国、国の利害関係を考えると・・・十中八九『北の皇国』で間違いないかと」
「たしかにそうだな、あの黒竜が暴れまわっていたら北都の防衛だけでもどれだけの死傷者が出ていたかなど見当もつかんし想像したくもない」
「気がかりはそれが『北』だけの侵略行為なのか他の国も巻き込んだ連合軍なのか・・・ですね。それに戦争と言いましても軍隊で殴り合うばかりが戦争では無いですし。伯爵とも話しましたが戦争・・・経済的な戦争はもう始まっておりそこそこの劣勢に立たされているかと」
シン・・・と静まる室内。
「それで、ハリスはどう対処するべきだと思うのかな?」
「そうですね、相手が軍隊で侵攻してくるまでは今まで通り普通に暮らす、ああ、もちろんこっそりと軍備は整えながらですけどね」
「いや、物資の輸入を止められてるのだとしたらそれもままならんだろう?」
「確かに。塩も半分近くは輸入に頼っているのであるからな・・・。そもそも婿殿が扱いたいという海水塩など不味くて売れるとも思えんのであるが・・・」
「ああ、そう言えばまだ現物をお見せしていなかったですね。さすがにお歴々に塩を直に召し上がっていただくのもどうかと思いますが・・・ご確認下さい。こちらはそのうち売り出そうと思っている砂糖です。そして今更ですが私は婿ではありませんからね?」
ペルーサに渡したのと同じ素焼きの入れ物に入った塩と砂糖を机の上に取り出し蓋を外す。
「いや、卿は今それをどこから・・・まぁいい。・・・混ざりものもないし真っ白だな」
「・・・確かに。砂糖の方も同じく真っ白だな」
「ああ、真っ白だ」
おっさんが揃って感想が『白い』だけってどうなんだよ・・・。
お味の方は
「しょっぱいな」
「確かにしょっぱい」
「おや、これは雑味もなく、それでいて旨味がある・・・この馥郁たる味わい・・・もしこれが同じ値段で出回れば岩塩など誰も買わなくなるのであるな・・・」
お、おう、さすが塩の元締めヴァンブス公爵。
「ちなみにそれは我がキーファー家の取り扱いだからな」
「何を言うか、塩は先祖代々我がヴァンブス家の領域である」
「しかし生産しているのはフリューネ家が治める東部だぞ?」
「「「むむっ・・・」」」
いや、全員でこっち見んな。
「まぁ細かい話を詰めるのは今でなくとも良いでしょう?で、その塩はどのくらいの量が生産出来るのかな?」
「そうですね、現状では1日に1トン程度の生産量となっておりますが魔道具を増やしていけば増産は可能です。もちろんそれに対する人員も必要になりますが。ああ、もちろんヴァンブス家の既得権益を侵害するつもりは毛頭ございませんので。岩塩の味を整える製塩の魔道具をお求めやすい価格でお譲りいたしますし現在稼働している塩湖や岩塩の採集には一切の損害はないとお思いください。当然のように海水塩の生産量の決定権なども全て皆様にお任せいたしますので。あとガイウス様、砂糖をスプーンでそのまま召し上がるのは見ているだけで胸焼けがするのでお控え下さい」
うん、楽市楽座なんて最初から考えてないからね?そもそも国家的に必要じゃないならそんなに生産量も増やす気は無かったしさ。
准男爵家のお小遣い稼ぎ程度のはずが国家戦略に巻き込まれるとかホントにもうね・・・。そして甘党なんだねフィオーラパパ、でも砂糖を直にじゃなくせめてアメ玉でも舐めて欲しいな。
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