東の果て編 その18 自業自得

「どうでしょうか?道など通る必要は無いでしょう?」

「・・・信じられん・・・卿は・・・転移の魔法などという遺失したと言われる魔法を使えるのか!?」

「まぁ王都の魔法使いですからこのくらいは」

「年の半分は王都に居るがそのような魔法使いなど一人もおらぬわ!!・・・いやはや、侯爵閣下に言われて早めに戻っていたのが功を奏したわ・・・。確かにこれなら荷運びに道を使うこともなかろうな。それでフォリア子爵、確証もなく税を納めていなかったなどという言い掛かり、どう責任を取る?」


「な、何をおっしゃいますか!!転移魔法などと、仮にその様な事が出来るとしても荷物まで運べるとお思いですか!?そもそも転移魔法など有るはずもないではありませんか!!おそらく何らかの魔道具でも使って騙しているのでしょうが閣下はそのような胡散臭い男と私、どちらを信用されるとおっしゃる!!これまで精一杯お使えしてきたフォリア子爵家の先代、先々代も草葉の陰から泣いておりますぞ!!」

「いや、信用が無いのは子爵家ではなくあなた個人の話でしょう?あと私に対する侮辱はよく覚えておきますね?ああ、そう言えば荷物の話でしたかな?私以外の全員が潰されてしまう危険がありますがここに出しましょうか?いろいろと」

「結構だ、転移魔法など使える魔法使い、いや、大魔道士殿を今更疑った所で何の益もないだろう」

「伯爵様!?」


「そもそもフォリア子爵、卿は先程からのハリス殿に対しての物言い何様のつもりなのだ?」

「はっ?いえ、たかだか准男爵家の使用人でありましょう?むしろ閣下がどうして・・・」

「ハリス殿は『後見人』とは言ったが『使用人』だなどとは一言も申してはおらぬぞ?ああ、我が領にはまだその名声は伝わっておらぬか・・・。黒竜殺しの英雄、アプフェル伯ハリス殿の噂は」

「はぁっ!?そ、その様な子供が伯爵家の人間だと・・・?それに竜殺しとは・・・」


「伯爵家の人間ではない、伯爵家のご当主だ。寄り親はキーファー公爵家、ご本人がおっしゃっていたからフリューネ侯爵も後見人だな」

「父上、ヴァンブス公爵家に王女殿下も御後見人と見受けられます」

「おお、そうか。で、フォリア子爵、ラモー男爵、アスト男爵、トゥイグ准男爵、他に何か申したい事はあるか?ああ、もちろん揉めるなら私は全面的にアプフェル伯の味方をするからな?こんな地方の都市一つでこの国の全軍を相手に戦争を仕掛けるような馬鹿に付き合う義理もないのでな」

「ご、ございません!!今回のこと、お手数をおかけして誠に申し訳ございませんでした!!両伯爵閣下にご迷惑をおかけいたしましたこと、平に、平にご容赦を!!」


「ということらしいが卿はどうされる?」

「もちろん貴族としてあれだけ罵倒されたからには命のやり取りしか無いでしょう?領地ごと一族親類郎党に至るまで根切りにするか、領民ごと焼き払って更地にしてしまうか。ラモー男爵には亡くなられた先代ヴァイデ准男爵の無念もございますしね」


「お待ち下さい!元々はそこのラモー男爵が准男爵領の発展を妬み勝手に企んだこと!我々はただその男に乗せられただけなのです!これより精一杯の償いをさせていただきますればどうかどうかお許しを!!」

「私もよく知らぬ間にここに呼び出されただけなのです!!どうか寛大なるご処置を!!これからは心改めこれまで以上にお仕えさせていただきますゆえ!!」

「なっ!?貴様ら!私を唆したのはお前らだろうが!!ここにきて裏切るのか!?そもそも――」


うん、おっさんの罵り合いとか教育に悪そうなものをこれ以上幼女に見せることもないな。

隣の伯爵様をチラッ見たらむっちゃため息をついてるし。・・・その割に目は笑ってるんだけど。

きっとフォリア子爵家、このヒゲの代になってから色々と問題を起こしてたんだろうなぁ・・・でも先祖の功績で無下にも出来ない感じだったと。


今回の事でとうとう愛想をつかされた感じ?さすがに身内じゃない他所の上級貴族に喧嘩を売ったらお咎めなしじゃすまされないもんね。

てか俺も上手く使われてるよねコレ。

だいたい伯爵が王都から戻ってきてるタイミングも良すぎるし。

・・・もちろん絵を描いたのはここの御次男だろう。なら後は下手に俺が手出しをするよりもこのまま任せたほうが無難かな?


「まぁ今回はラフレーズ伯爵に全てお任せいたしますよ。ああ、当然のように私の方からはそちらの方々に対する絶縁状を出させていただきますがね。またそちらの方を焚き付けた商家の人間につきましては・・・いえ、こちらもおまかせしましょう」

「・・・うけたまわった。今年中には全て片付けるようエオリアによくよく言い聞かせておきましょう」

「えっ!?そこで僕にまわってくるの!?」


油断をしてたエオリアが驚いて俺と父親の間で視線を彷徨わせる。・・・小芝居だろうなぁこれも。

てことで後はよろしく!とばかりに幼女とお手々繋いで帰ろうとしたら当然のように捕まり伯爵の書斎(と言う名の悪巧み部屋)に連行される。


「いや、今回は色々と世話をかけたね?最初はラモー男爵の処分だけでいいかなーなんて思ってたんだけどフォリア子爵まで釣れちゃったからさ」

「あくまでも貸しだからね?取り立ては少々厳しいので念の為・・・。ちゃんとした挨拶がまだでしたね、お初にお目にかかります」

「ああ、構わんよ、卿の話は散々侯爵閣下から聞かされているのでな。しかしまさか生きてる間に転移魔法なんてものを実際に目にする、いや自分で体験することになるとは思ってもいなかったがな・・・」


「えっと、あの、えっと・・・」


男三人で話す中オロオロとする幼女とペルーサ。そうだね、どうして連れて来られたのかわからないよね、さっきも一言も言葉を発してないし。


「は、伯爵閣下にはお初にお目にかかります。わたっ、私は・・・ハリスの妻だから伯爵夫人?それとも准男爵家当主?」

「まったく嫁じゃないからね?」

「そうね、半年後の約束だもんね?」

「その約束もしてないけどね?」


この状況で心が強いと言うか強心臓だなこの幼女・・・。逆にいつも男前なペルーサがアワアワしてるけど。

てかペルーサはもう帰っても大丈夫だと思うよ?残る?ああ、帰るのか。普通はそうだよなぁ、俺も帰りたいもん。

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