東の果て編 その2 15年位してから出直してきて?
茫然自失状態の幼女主従の手を引いてとりあえず重厚な作りになった屋敷の扉を開いて中に入る。
うん、当然まだ明かりは一切備え付けられてないから真っ暗だ。とりあえず光の魔法を唱えて光球を天井近くに持ち上げておく。
崩れかけの体育館の面影はどこにもない綺麗に磨き上げられた床板と壁の腰板、場所によって煉瓦の壁と白い漆喰の壁を使い分けている。
さすがに窓を付けるだけでかなりのガラスを使っちゃったのでシャンデリアなんかはお預けであるが。
まぁそんなことはどうでもいいとして晩ごはんの用意である。
てかなぜだか最初に屋敷に入った時は(きっと食堂がボロボロになってきてたから危険なので移動させたと予想は出来るけど)玄関ホールなのにダイニングテーブルが置かれてたからそれらを元通り食堂に設置し直す。てかこのテーブルと椅子もボロボロだな・・・。作り直しておくか。
木材は大量に余ってるしいつの間にか革とか布もそれなりに増えてるし。たぶんここに来る前に取り壊した三軒の倉庫とか屋敷に捨て置かれていた襤褸なんだろうけど布は裁縫スキルで新品になるからな!・・・革も使いたいし『鞣し』スキルも取っておくか。
「じゃあちゃちゃっとごはんの用意してくるから適当に座って待ってて」
「肉多めでの?」
「・・・お家が急に建った事にくらぶれば机と椅子が急に現れたことくらい何でも無いわよね・・・この椅子、お尻が痛くないわね・・・」
幼女がちょっと織田信長みたいになってるけど気にしない。人間五十年~。
椅子は背もたれと座面は革張りにしてちゃんとクッション性を持たせてあるからな。もちろん肘掛けも完備である。
ミヅキとの約束通り本日はテリヤキチキン・・・なのだがそのまま出すのも面白くないので
「今日はテリヤキチキンバーガーとテリヤキバーガーのセットにしてみた。ドリンクはもちろんコーラで!」
「おお!肉アンド肉じゃな!」
「ドーリス!!お肉よ!?お肉が二種類よ!?」
「お嬢様、お屋敷が急に建て変わることに比べればお肉なんて・・・うう・・・久しぶりですね・・・臭くないお肉ですね・・・」
俺の知り合う女の子が食べ物を食べた時に泣く確率が高すぎると思いました。
てか肉だけじゃなくコーラをおっかなびっくり飲んだ時も「あ、甘い・・・」と言いながら再度泣き出すの止めてね?
確かに山で採れる果物以外の甘味は無さそうな僻地だけどさ。
「さて、お腹も膨れたしお風呂に入りたいんだけどどうする?先に入る?」
「お風呂?お風呂ってあのお水に浸かるお風呂?」
「それはただの水浴びなんだよなぁ。メイドさん、一応使い方教えとくから一緒に来てもらえる?」
お風呂は一階と二階に各一箇所ずつ、広さは公爵家のメイド寮にあったのと同じくらいの広さのモノをご用意。
魔道具の使い方(スイッチを押すだけなんだけどさ)と、魔水晶の交換の仕方を説明してお湯は待つのが面倒なので魔法で入れておく。
「属性魔法使いが必要ないなんて・・・最近の魔道具はここまで進歩していたのですね・・・」
とか言ってたけどそのお風呂、北都と王都の公爵宅にしか置いてないヤツだからね?
あ、街の飯屋さんにも簡易版のが一台あるわ。ネ○バスだな。
俺とミヅキは一階のお風呂、幼女主従は二階のお風呂でのんびりリフレッシュ。
「やっぱり風呂はのんびり寝転んで足が伸ばせる広さがいいよな」
「今日はアレはやらんのか?『ねっしー』とかいうやつ」
「お前それいつの間に見た!?!?」
まったく、油断も隙もない蛇である。・・・えっ?マジで見られたの?もうお婿に行けない・・・。
あ、ここん家のベットとか毛布とか着替えとか全部俺が所持してるからちゃんと返しとかないと。まぁ家具の類はほぼ薪くらいにしかならないような痛み様だけどな。
洋服や下着なども・・・うん、ギリで俺が居た孤児院よりはマシだ。
「あ、御主人様、幼女が御主人様に御用があるとの事ですがいかがいたしましょう?」
「いや、あんたの御主人様はその幼女だ。あー、そう言えば名乗ってなかったような気もするな。俺はハリス、で、あっちは妹のミヅキ」
「畏まりました御主人様」
だからちげぇって言ってんだろうが。幼女はどこにいるのかと思ったら食堂で所在無げに座って足をぶらぶらさせていた。まぁ確かに家具(机と椅子だけだけど)があって明かりが点いてるのはこの部屋だけだもんね?
「幼女、ボサボサの髪が少しはマシになったな」
「だからたぶんあんたより年上だって言ってるでしょうが!!いえ、そんなことはどうでもいいのよ、その・・・えっと・・・」
「ん?ああ、トイレの使い方がわからないのか?」
「別に尿意を我慢してモジモジしてるとかじゃないわよ!!いいわ、あなたの望み通り私の旦那さまとして迎えてあげる!!」
「えっ?そんなこと一切望んでないけど?後15年位してから出直してきて?」
まったく、どうしてこの世界には俺を不治の病(または紳士)だと思いこむ輩が多いのだろうか?
「えっ?」
「えっ?」
「いえ、あなた私に一目惚れしたのよね?」
「してませんけど?」
「だからお家を綺麗にしてくれたりごはんを作ってくれたりお風呂に入れてくれたりしたのよね?」
「いや、泊まるのに不便そうだったからどうにかしただけだしお腹が空いてたから作っただけだよ?」
「私の魅力にメロメロじゃないの?」
「おとといきやがれ?」
『15年後に出直して来い』と言いながら舌の根の乾かぬうちに『一昨日来やがれ』の暴言、まさに外道の所業。
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