東への旅編 その4 『その頃の・・・その1』

時は少しばかり遡り、こちらは王都の公爵邸・・・の中のハリスの部屋・・・でなぜか寝起きしているフィオーラとメルティス。


「もう、なんなのかしら!?この「今日も一日歩きました」とか「お風呂入りたいです」とか一行だけの手紙は!!もっとこうあるでしょう?「貴女に会えなくて寂しくて夜も眠れない」とか「早く戻って貴女を抱きしめたい、むしろ抱きたい」とか!!」

「私にそんな事言われましても・・・」


言われなくとも理解っているのですけどね?それでも少しは愚痴りたくなるでしょう?確かに毎日お手紙は届いてますけど少々淡白すぎではないでしょうか?まぁハリスと私はそこそこ付き合いも長いですし?気のおけない関係なのですから仕方のない部分はあるでしょうがそれにしても毎日一行はないと思うのです。

だいたいこの四角い魔道具、絶対にこちらからも手紙が送れるはずなのです!根拠はなくただの感ですが一方通行はおかしいと思いますもの。帰ってきたら問い詰めてやりましょう。


はぁ・・・。彼と出会ってからこんなに長い間離れているのは何時ぶりでしょうか。

思えば最初は『少し変わった子』と言う認識しかなかったのですが・・・。いえ、最初に会った時から心惹かれていたのかもしれませんね。

全身に大火傷を負っていてもごくごく自然に振る舞う変わった、私に対しても何の物怖じもせず接してくれるあなたに。


・・・いえ、今更過去のことなどどうでもいいのです。むしろ走馬灯の様で縁起が悪い気すらしますから。

しかし、それにしてももう少し彼は私に気を使うべきではないでしょうか?その、お、お互いにこう、想い合っているのですから。

いつもいつも油断をしている時に限って私に優しい言葉をかけてくるハリス。

・・・私にだけでは無いのが玉に瑕ですが


だいたいなんなのです?何かする度に何故か他の女が寄ってくるのは。非常に不快です。

リリアナとは昔からの顔なじみなので仕方がないにしても最近は妙にミーナとも仲が良いですしアリシア王女まで屋敷を出入りするようになりましたし。

そもそも私ではなくお母様に色目を使うのはどういう了見なのでしょうか?


いえ、マリア様にも同じ様な態度らしいですし小さい頃に親元を離れた反動で母親が恋しいのではないかと理解はできるのですが。

・・・本当にお母様が恋しいのでしょうか?目が本気の様な気もしますが・・・まぁ年上好きの方が年下好きよりはマシですけれども、もっと男性として健全になってもらわなくては困ります。


そんな寂しい思いをしながら彼の部屋で暮らすことはやひと月。


『トラトラトラ、我奇襲二成功セリ、コクリュウ撃墜』とよくわからない手紙が届きました。


・・・

・・・

・・・


えっ!?コクリュウ・・・黒竜を倒したのですか!?

今まで何度も何度も煮え湯を飲まされたと伝えられるあの北に住む黒竜ですよ?それこそ黒竜退治は王国の悲願なのですよ?

怪我は・・・無さそうですね。あの魔道具の杖で一撃で・・・いえ、竜を一撃で倒せる魔道具とは一体何なのでしょうか?そんなものおとぎ話にも出てきませんよ?

まぁ魔水晶を創ったり色んな魔法を使ったりと常識には収まらない男ですからそんな事もあるのかもしれませんが。


・・・とりあえずよかった・・・。


為政者の娘としては失格なのは理解っていますが・・・行ってほしくはなかった。

愛する人が戦場に、それも竜の相手をするなど彼が出立してから心の休まる事がありませんでしたからこれで今晩からは安心して・・・と言うか今日は手紙が多いですね?

これはアントニヌスお兄様の証書?


『黒竜を退治したあかつきにはその全てをハリスに与える』


よくあの強欲な女の吝嗇(りんしょく、ケチ)な息子がそのような条件を飲みましたね。

・・・ああ、竜退治が終わった途端に掌を返して約束を破棄したと。公爵家の人間としての矜持などは持ち合わせていませんからねあの母子は・・・。

そしてあの魔道具の杖も取り上げられたと。一度使うとただの鉄の塊でしか無いからバカにお似合いの棍棒だと。

ふふっ、確かにアレには剣よりも棍棒の方が似合いそうですものね。


次は・・・


『ハリスは公爵家に対する恩をすべて返したものとする』


これは何でしょう?そもそも彼にはこちらがお世話になっているだけで恩など無いはずですが。

いえ、もし仮にあったとしてもあのバカがどうこう口出しするものではないはず。本当にどうしようもない人間ですね、バカのくせに何様のつもりなのでしょうか。

それから・・・子爵の短剣と叙爵の証書?なぜこんなものを・・・。


・・・えっ?待ちなさい、どういうことですか!!


何なのです、この

『てことで私は一人・・・ミヅキと二人で旅に出ます』と言うのは!!それに誰なのですこのミヅキと言う女・・・ああ、蛇の神様でしたね。

いえ、それはどうでもいいのです!!

た、旅に出る・・・ですって?私も連れずに?

『フィオーラ様の事はとてもとても『友人として』大切に思っておりますがさすがにあのレベルの無能な御令息がいるお宅でお世話になるのはちょっと・・・』・・・ふふっ、そうですか、あの男のせいですか。


確かに何もなければ大切な想い人の私と離れるはずがありませんものね?もう、わざわざ『友人として』などと強調して恥ずかしがらなくともよいものを・・・。

『じゃっ、そう言う感じなので探さないで下さい。アディオス!』このあでぃおす?と言うのがよく分かりませんが旅立つ人間にしては少々軽すぎるのでは無いでしょうか?まぁ『旅に出る』つまり『そのうち帰る』ということでしょうからいいのですが。


・・・いえ、まったくよくありませんね。私の想い人を勝手に連れ回した挙げ句に旅立たせたあの無能・・・どうしてくれましょう?母子共々楽に死ねると


「お嬢様、お顔があまりにも邪悪です」

「失礼ね!私はいつでも『笑顔の似合う聖女様』だってハリスがよく言っているでしょう?」

「完全に『狂気の鬼神』の顔でしたが・・・」


こんな美少女を捕まえてその言い種はどうなのでしょう。いえ、そろそろ美『少女』と名乗るのは痛々しい年齢に入ってきてはおりますが。

はぁ・・・とりあえずはお父様とコーネリウスお兄様のご帰宅まで待つ事にしましょうか。

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