王都公爵邸編 その7 子グマを乗せて
遅いよ、疑問に思うのがとても遅いよ!
そしてタイミングよくそこに通りかかる我らがお姉様ことオースティア様!
「さっきからなんの騒ぎなのですか?・・・そこの黒い鎧姿は誰?」
「ハリスですティアかーさま!」
「ハリス?・・・あなた、衛士に囲まれて何をしているの?」
「いえ、実はですね・・・」
一から説明すると最初は不審顔だったオースティア様、腰に挿していた扇子を取り出し口を抑えて大爆笑。
メルちゃんも大爆笑。笑ってるけど今回の諸悪の根源はお前だからな!!6割くらいは俺にも責任はあるけどな!!
真っ黒い格好で二階から飛び降りてくるとか確かに完全に不審者だったし仕方ないね?
俺を囲んでいた騎士の方々大いに困惑。そして紛らわしいことは避けるようにとお説教タイム。
某宇宙の暗黒卿の衣装で正座させられて滾々とお説教される俺。何このカオス・・・。
で、翌日からは仮面を被らない事!と注意を受けた後、ご長女とチャンバラごっこをしていたのだった。
いや、別にチャンバラは関係ないんだ、うん。
王都に到着して8日目の朝、Aさんが呼びに来たのでフィオーラ嬢の元へと向かう。
あ、2日目以降は食事は北部から来たメイドさん達ととらせて貰っている。さすがに毎回公爵家の方々と食事とか胃が痛くなるから。
対面に居たおばさんと息子さんがとても面倒くさいし・・・。
おばさん、私と息子の分も光の魔水晶を用意しろとか言ってきたけど普通に断ってやったしさ。
俺はフィオーラ嬢に世話になってる身だから頼み事なら報酬をキッチリと用意してからフィオーラ嬢かオースティア様を通せって。そしたらむっちゃ歯軋りしてた。
「・・・お顔色が少々優れないご様子ですね」
「ええ、そうね。ええ、ハリスがヘルミーナと楽しそうに遊んでいる時も私は一人で頑張っていましたから。あなたは年上が好きなのかと思ったらやはり年下、いえ、小さい子が好きなのですね?」
言い方!!それだとロリコンになっちゃうから!!てか年上と言うか美熟女好きはあながち間違ってないけど!!・・・『正解!!』とか言うと話がややこしくなるので言わない。
ちなみに『ヘルミーナ』と言うのは小さな姫騎士こと、ご長男のご長女である。ややこしい言い回しだな、ご長男のご長女。次期公爵の御令嬢だな。
「さすがに公爵家の方を無下には出来ず・・・決して貴女(あなた)を軽んじている訳ではないのですが・・・」
「・・・ごめんなさい、意地悪な言い方をしてしまいましたね。リリアナの治療が上手くいかなくて・・・最低ですね、あなたに当たるなんて」
お互いを気遣い合うようにゆっくりと見つめ合う二人。
「いえ、私で良ければ如何様にでも。お姫さまの御心のままに」
「では・・・少しだけ・・・抱きしめて下さいますか?」
「あ、そう言うのは無理です」
「今すごくいい雰囲気でしたよね!?あなたガードが硬すぎませんか!?」
だってここお嬢様のご実家ですし?お父様もお母様もいらっしゃいますし?
変なことしたらどんな目に遭うか分かったものじゃないじゃないですか・・・。
ツルツルほっぺをプクッとしたフィオーラ嬢をなだめてお呼び出しの要件を聞く。
てかあれじゃね?『フィオーラさまのほっぺ』とか言う商品名で洋菓子を作ったらかなり売れるんじゃないだろうか?
「申し訳ありませんが・・・侯爵家に一緒に出向いてリリアナを見てもらえませんか?私ではどうすることも出来そうにないのよ」
うん、まぁ想像は出来てたけどさ、思ったよりも遅かったと言うか何と言うか。
たぶん俺があそこのお屋敷にトラウマでもあると思って物凄く気を使ってくれてたんだと思うけど・・・特に何も無いからね?
どちらかと言えば『火達磨の子供』を目撃させられた向こうのご家人達がトラウマになってる可能性大。
「了解しました。今日これからですかね?」
「ええ、馬車の用意が出来次第ね。大丈夫?その、火傷の事を思い出したりとか・・・」
「そうですね、全然大丈夫ですよ?むしろリリアナ様の事の方が気がかりですし」
「そう、そうよね。リリアナはあなたの初恋の相手ですものね?どうせ私ではなくリリアナが抱きしめてって言ってきたらっ!?」
立ち上がり、そっと目の前の女性を抱きしめる。
・・・シャンプーと彼女の体の匂いがまざった凄くいい匂いがした。
「・・・俺が今守りたいと思うのは・・・貴女だけですからね?」
「ごめんなさい、つまらないことを言って・・・」
数分前に出来ないとか言いながら数分後には女の子に抱きつく節操のない俺。
だって、ねぇ?あんな寂しそうな顔されたら・・・。
フィオーラ嬢、リリアナ嬢の治療が進まない状況で思ったよりナーバスになっていたのかもしれないな。もう少し気を回しておくべきだった。
いかんいかん、余計なことはしない、余計なことは考えない。
「さて、じゃあ出ましょうか」
「あっ・・・もう、もう少しゆっくりと抱きしめてくれても・・・いえ、そうね、急ぎましょう」
軽くしがみついてきていたフィオーラ嬢から離れる俺。
館の入り口に横付けられた馬車に乗り込み少しぎこちない、でも嫌じゃない空気に包まれてブリューネ侯爵邸に向かう二人だった。
「あれ?私も居るぞ!て言うかハリスが来るからお嬢様の部屋のお手洗いは使わずにお屋敷のお手洗いに行って戻ってみたら妙に甘ったるい空気が漂っているんだが・・・」
「オー!オーオー!!オー・・・」
「そもそも精霊子グマって王都にいたの?」って?ほら、普通に最初から北都を出発する際に馬車に乗ってたじゃん。あんまり目立ってなかったけど。
こっちに着いてからも二日に一度は俺の部屋でゴロゴロしてるし。今日は俺の頭の上だし。
このクマ、抱っこした時は普通に子犬くらいの重さがあるのにこうして頭に乗っかってる時は全然重さを感じない。むしろ触れてる感覚もない不思議生物。
精霊が生き物かどうかって疑問は残るが。
キーファー公爵邸を出発した馬車は一路フリューネ侯爵邸へ。
なんとなく子牛が売られて行く歌を歌ってたら。
「何ですかその不吉な歌は・・・縁起が悪そうだから止めなさい」
と、嫌そうな顔をされた。日本では全国民が知ってるムード歌謡なのになぁ。
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