王都公爵邸編 その8 リリおねぇちゃま

 やってきました侯爵邸。

 もちろん昔ハリス君が訪れていた時のように門衛に嫌な顔をされたり止められるような事もなく・・・まぁ馬車の中に居る上にちゃんとした公爵家の馬車で先触れを出した上で来宅してるんだから当然なんだけど。

 馬車から降りると玄関にはメイドさんが待機中、フィオーラ嬢と一緒にそのまま奥に――リリアナ嬢のお部屋までご案内される。


 ・・・てかさ、侯爵邸に到着した時から物凄く嫌な威圧感みたいなのを感じるんだけど?

 この感覚・・・(前の異世界での)経験から導き出すと絶対に呪術的なモノだと思うんだよねぇ・・・。

(ハリス君が)2度3度しか通った事はないはずなのに鮮明に覚えている廊下を進みお嬢様の部屋の扉の前に。

 扉係のメイドさんにドアを開いてもらい中に入る。


 うん、心臓がえらいドキドキする、完全に不整脈。

 部屋の中には昔のようにリリアナ様が座って・・・は居ないな。お出迎えも出来ない様だとかなり体調がお悪いらしい。

 部屋の中を更に奥に進み寝室の扉を開けてもらう。さすがにここに入るのは初めてである。

 ベットに天蓋などは付いていないようで柔らかそうな敷物と掛け物に包まれるリリアナ嬢がすぐ目に入る。


 昔と変わりのない美しい曇りのない銀色の髪、とじられた瞳に整った顔立ち、そして真っ白な肌に・・・顔半分を覆う爬虫類のような鱗。


「おねぇちゃま・・・」

「ん・・・えっ?だ、誰!?」

「大丈夫よリリアナ、私よ。口惜しいけど私じゃあなたの病気を治してあげられそうにないから今日は手伝いを連れてきたの。昨日ちゃんと伝えてあるでしょう?」

「確かに聞いてはいましたけれど・・・まさか男性を連れてくるなんて・・・」


 まぁ、普通に考えて男を寝室に通すとか、あまつさえ三大美女と呼ばれる女性が体に鱗を生やした姿を見られるとか早々我慢できるようなことじゃないもんな。


「男性とは言ってもまだまだお子様ですけどね?お久しぶり・・・と言って良いものかどうか、ハリスです、リリおねえちゃま」


 ごくごく軽い挨拶に聞こえるように努めて明るい声で伝える。


「リリおねえちゃま?おねえちゃま?なんなのその可愛い呼び方。私のことはいつも御主人様とか他人行儀な呼び方しかしないくせに。なんなの?ちょっと地下の尋問・・・お話しするお部屋借りてくるわね?」


 それって部屋の中にトゲトゲした道具とか椅子とかが置いてある部屋ですよね?


「お姫さま、話がややこしくなるので少し静かにしててもらえますかね?」

「えっ?あ、うん?ごめんなさい?・・・何で今、私叱られたんだろう?」

「クスッ、ハリスちゃん、フィオーラ様と随分仲が良いのね?少し前までは『おねぇちゃまおねぇちゃま』って私にいつもくっついていましたのに」

「いえ、そこまでくっついたりはしてなかったと思いますけど・・・」

「あら、でも今ではあれよ?『おひぃちゃまおひぃちゃま』って私にべったりだもの。男の子の成長は早いから仕方ないわね?」

「いや、一度もそんな呼び方した記憶がないのですが・・・」


 いきなり始まるマウントの取り合い。うん、俺のことを巻き込むのは勘弁していただきたい。

 てか何なんだこの人達は・・・一瞬カンガルーの殴り合いの幻が見えたわ。公爵令嬢と侯爵令嬢でレベルも同じくらいだしな!

 まぁこのまま雑談に参加してても仕方がないのでお仕事お仕事。


 何の?もちろん病気の確認である。当然医者でも何でも無いから触診はしないよ?

 掛け物越しでも分かる、昔よりも一回り・・・いや、二回りは成長されたあの膨らみ・・・は関係ないな、うん。

 じゃあどうするのか?『魔眼スキル』で見るだけの簡単なお仕事です。


 ・・・

 ・・・

 ・・・


「もう・・・さっきからそんなに見つめられると恥ずかしいですよ?」

「ああ、申し訳ありません、少し病状の確認を」

「そう・・・ですよね。そうで無ければこんな気持ちの悪い女のことなど見たいはずありませんよね」

「そんな事あるわけないじゃないですか。昔も今も変わらずリリおねえちゃまは凄く、凄く綺麗ですよ?」

「そんな慰めはいりません!!鱗の生えた女など美しい訳がないじゃないですか!!」

「いや、別に鱗ぐらいどうと言うことも・・・」

「ならこんな女でもあなたは嫁に出来ると言うのですか!?昔みたいに『ぼくのおよめさんになってくれなきゃしんじゃうからねっ!!』て今でも言えるんですかっ!!」


 おいやめろ過去の黒歴史をなぜここでぶちまける!?

 一応記憶には有るけどそれはあくまで『ハリス君』の記憶として書き込まれてるモノだから恥ずかしくなかったんだからな!?

 それをここで、俺の記憶として上書きされちゃったら


「おねえちゃま、それは二人だけの秘密ということで・・・」


 顔を真赤にして崩れ落ちるしかないだろうが・・・。耳が燃えそうなほど暑いぞ・・・。


「あら・・・そんな真っ赤になって・・・フフッ」

「なんなのかしらこの空気はっ!?とても気分が優れないのだけれどっ!?」


 フィオーラ様、痛いのでトゥキックはお控え下さい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る