北都・公爵館 その6 怪しいメイドさん

 さて、部屋に戻・・・る途中、寮の裏手で少し気になるものを発見。いや、まぁ単なる小屋なんだけどさ。

 お屋敷の裏手の寮の裏手――何となく裏の裏は表みたいな錯覚に陥るけど普通に裏の裏は更に奥まった場所なだけ――にある建物。


 簡単に言うと洗濯場の近く、俺の借りてる部屋からも見える場所。

 大きさはプレハブの倉庫くらい?使わなくなった自転車とか健康器具とか放り込んである感じの。

 そこでメイドさんが何やら作業をしていた


「人手が必要ならお手伝いしましょうか?」

「ヒィッ!?・・・なんだ、新人さんですか・・・ありがとうございます、でも特に重い物は無いので大丈夫ですよ?」


 小屋の扉を開いて荷物(それほど大きくない何かの入った麻袋)を仕舞っているメイドさんに声を掛けたら物凄くビックリされた。


「そんな死体を隠してる殺人犯みたいな驚き方しなくても・・・」

「そ、そそそそ、そ、そんな事あるるるはずが・・・」

「ちょっと騎士様呼んできますね?」

「もう、可愛い冗談ですよ?」

「もちろん分かってますとも」


 いや、狼狽え方が堂に入りすぎてて不審者にしか見えなかったんだけど・・・。

 まぁ今は笑ってるしホントに冗談なんだろう。


「で、埋めるんですか?それとも焼くんですか?」

「全然分かってないじゃないですか・・・」


 プクッと頬を膨らます可愛いメイドさん。御飯の時にも見たことあるしこれからはBさんと呼ぼう。

 でもほら、一応は倉庫の中を確認しておかないとね?

 あなたを疑ってる訳じゃないのよ?ただ信用してないだけ。


 そして倉庫の中に広がる・・・割れたガラス玉の入った箱、箱、箱。さっきの麻袋の中身はこれか。

 大きさにそれほど違いはないと言うかそれほど大きな物は無いように見える。直径2、3センチくらいのビー玉くらいの大きさか?

 ナニコレ?公爵家ではガラス玉を見たら割る風習でもあるのか?死体を見つけるよりもサイコパスっぽくてそれはそれで恐いな。


「なんですかここ?」

「なにと言われましても・・・見たままですよ?使い終わった魔水晶を一時保管してる小屋ですね」

「なるほどなー」


 ・・・いやいやいや、魔水晶ってなんぞ?全く(ハリス君の)記憶には無いんだけど?

 前の異世界で見た魔石とは見た目から色も形も違うけど似たようなものなのかな?『使い終わった』とか言ってるし何かに利用するものらしいけど。

 メイドさんはさも知ってて当たり前みたいな雰囲気だし、一般的に広く利用されてるモノみたいだし聞きづらいな・・・。


『聞くは一瞬の恥知らぬは一生の恥(※聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥)』みたいなニュアンスの諺もあったしここは素直に・・・鑑定で確認する。

 だってこんな時の為に習得したスキルだもん。


 もしここで『それって何なんですか?』とか質問して、メイドさんに『こいつこんなことも知らないの?とんだDT坊やね』なんて思われたら3日ぐらい部屋に籠もって泣いちゃうかも知れないもん。

 被害妄想が激しい上に凄まじいガラスメンタルだな俺。

 ちなみに鑑定の結果は


『薄黒く色の変わってしまったガラス玉、魔力を消費しきって割れてしまった魔水晶の欠片』

『薄黒く色の変わってしまったガラス玉、魔力を消費しきって割れてしまった魔水晶の欠片』

『薄黒く色の変わってしまったガラス玉、魔力を消費しきって割れてしまった魔水晶の欠片』

『薄黒く色の変わってしまったガラス玉、魔力を消費しきって割れてしまった火属性の魔水晶の欠片』

『薄黒く色の変わってしまったガラス玉、魔力を消費しきって割れてしまった魔水晶の欠片』


 ふむ・・・そのままだ、いや、たまに少し違うのが混じってるな。

 てか魔水晶って呼び方だけどガラス玉なんだ?じゃあ最初から魔ガラス玉でいいじゃん?いや、水晶とガラスの違いとか知らないけどさ。


「やっぱり公爵家ともなると消費量が多いんですね、火属性や水属性のモノもありますし」

「あら、色も変わってしまってるのによくわかりますね?凄いです」


 ちょっとおどろいたあとに尊敬の眼差しになるメイドさん。ふっ、これが(スキル操作)出来る男の実力よ。

 まぁ情報は全然無いから何に消費されてるのかは全くわからないけど。


「お屋敷の方では厨くりややお風呂で水や火の魔水晶を使ってらっしゃるみたいで少し羨ましいですよね」

「確かにそうですね!」


 と思ったらふわっとした使い方の説明が入った。このメイドさん・・・出来る子だ。

 よしBさんからCさんに格上げしてあげようじゃないか!Aさん?あの人はほら、そこそこポンコツだから・・・。

 てかコレ捨てるのかな?ガラス片なら加工すれば窓ガラスとかにも使えそうなのに。色が変色してるから無理なのかな?

 てか煉瓦みたいに土魔法でどうにかならないかな?いくつか欠片を手のひらに乗せてコッソリと小さな声で


「設計、直径5センチ、魔水晶」

『ランク3以上の鉱物魔法スキルと冶金スキル、ランク1以上の設計スキルと錬金術スキルが必要です』


 おおう、土魔法だけじゃやっぱり無理か・・・。

 てか『土魔法だけじゃやっぱり無理か・・・』のデジャヴュ感。つい先程も同じ様な事言ってたよな俺。

 鉱石魔法の獲得に足りないのは採掘スキル、冶金スキルに足りないのは鍛冶スキル。

 まだ経験値に余裕はあるし取っとくか。両方ランク5まで上げて・・・再度コマンドを唱えてみる。


「設計、直径5センチ、魔水晶」


 薄ぼんやりと手のひらの上でガラスの欠片が光り――『大きめのスーパーボール大の丸い玉』と使われなかったガラスの破片が残る。

 うん、ビー玉にしか見えない。一応鑑定してみると


『最高純度の空の魔水晶。魔力を込めるにはランク3以上の魔力操作スキルと各属性の魔法スキルが必要です』


 ガラス玉とは表示されなくなったな。ガラス、水晶、魔水晶、これらの線引がまったくわからねぇ。

 まぁ大切なのは・・・リサイクルが出来るって事だな。もしかしたら何かのお金儲けになるかも知れないしさ。収入に出来そうな技術はいくらあっても良いのだ!

 てか空の魔水晶か。つまりここに魔力を込めれば使い物になるのかな?お屋敷ではお風呂に火と水の魔水晶を使ってるらしいし。


 風呂・・・入りたいよなぁ・・・。

 コレ(魔水晶)が自由に使えるようになったら3日に1回と言わず毎日入れるのかな?

 魔力操作スキル、そ、そのうち使うと思うし?うん、上げるか!一体俺は誰に言い訳してるんだろうか。

 魔力操作、相変わらず慣れるまで気持ち悪りぃな・・・。例えるなら血流を50倍くらい敏感に感じられる様になったみたいな?

 どこか怪我した時に血がドクドクと流れる感覚って言うの?それが掌とか指先に集まる感じ。


 てかこれ、結構MP消費するな、10くらい減ったぞ?俺は余裕があるからいいけど普通の人だとMP切れで倒れてるとこだぞ?

 先程まで無色透明だった魔水晶の中で炎がゆらゆらと揺らめく。


『最高純度の火魔水晶:最大充填』


 MPはそこそこ消耗するけどMP注入自体は案外簡単に出来た。・・・まぁこれをどう使えばいいのかはわからないんだけどね?

 てか(前の世界で見た)魔石と使い方が同じなら何かしらの『古代の道具(エンシェントアイテム)』やら『魔道具(マジックツール)』やらは絶対に必要だろうなぁ。

 それとなくお嬢様に


「・・・」

「・・・」


 ・・・そうだね、俺、一人じゃなかったよね。Cさん、こっちガッツリ見てるよね。

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