北都公爵邸編

北都・公爵館 その1 ちっぱ・・・おっぱいです!!

 ・・・あれぇ?


 よくよく考えると何だこの状況。

 適当な街で適当に稼いで適当に暮らす予定だったのにいきなり大貴族様の私物とかちょっと何言ってんのか分かんねぇなこれ・・・。

 ま、まぁ借金があるし?仕方ないね?


 下車した時と同じく綺麗な所作で馬車に乗るフィオーラ嬢、そして・・・えっと、これどうするのが正解なんだ?

 俺が乗っても良さそうな騎乗用の馬なんて余計に引いてきて無いだろうし。

 御者席の隣に座る?後ろから走って追いかける?


「どうしたのかしら?早く乗りなさい」

「はっ!いえ、しかし御主人様と同じ馬車に同乗するというのは・・・」

「あなたは側仕えなのだから一緒に乗らないと役に立たないでしょう?」


 ・・・そう言うものなのかな?

 てかそもそも根本的な話で申し訳無いんだけど・・・側仕えってなんぞ?護衛とか秘書とか役職的なモノなの?

 呼ばれ方がふわっとしすぎてて何をすれば良いのか職務的情報が無さ過ぎてまったくもって想像出来ないんだけど?


 立ちっぱなしもカッコ悪いのでもう一度「はっ!」と元気に返事をして軽やかに馬車に乗り込み扉を閉めるとフィオーラ嬢の向かいの席に座る・・・メイドさんの隣に着座する。

 いや、そんな目で睨まれてもお仕えする御令嬢の隣に座るとか無いからね?


「ふふっ、ハリス、なかなか良い小芝居だったわよ?華麗に振る舞うあなたを羨ましそうな恨めしそうな目で見つめるあの女・・・実に爽快な気分だわ」

「それなりに頑張ったのに小芝居扱いはひどすぎませんかね・・・てか聖女様がしちゃいけない黒い笑顔になってますからね?」


 繰り返しになるけど別にシーナちゃんには思うところも含むところも一切無いんだけどなぁ。いじめっ子は精神的にシメてきたし。


「まぁもう二度と会うこともない人の事なんてどうでもいいわね。それよりも・・・あなた、私に隠し事してるわよね?」

「か、隠し事・・・ですか?それはナニの大きさとかそう言う?」

「絶対に違うのはわかってるわよね?」


 お、おう、もちろん分かってるよ?てか隠し事してるんじゃなく現状隠してる事しか無いくらいなんだけどね?

 俺は秘密の多い少年なのだ!


「あなた・・・見えてるわよね?」

「・・・みっ、見えてませんよ?」


 なん・・・だと!?

 これは・・・。


 俺がフィオーラ嬢のスリーサイズを見たことがバレてるだと!?!?

 でもアレだよ?別に裸が見えてるとかじゃないんだよ?ただ数字が見えただけで。

 ・・・魔眼をランク10まで上げればそう言う機能(透視能力)が開放されるとかないよね?早めに試しておくべき事項かもしれないな・・・。


「一度目は少し視線が気になった程度だったけど・・・流石に二度目は私だけじゃなくメルも気付いたわ」

「・・・そう、ですか・・・」


 そっかぁー・・・確かに女の子はそう言う視線に敏感だってよく聞くもんな。ちっさくてもおっぱい、否、ちっぱいだもんな。

 てかメルって誰ぞ?


「あら、案外素直に認めるのね?」

「ええ、変に言い訳するのは男らしくないと思いますので」


 むしろ言い訳すればするほど話が拗れるのは目に見えている。

 最終的に『私はそのアップルを一緒に買いに行って欲しかったの』とか訳の分からない話に発展するかも知れないし。足し算じゃねぇのかよ・・・。

 うん、ここは素直に謝らないとね?今後の主従生活に支障をきたすからね?


「あなた、精霊様が見えてるわよね?」

「申し訳ありません!胸の大きさ、いえ、小ささの話だけは誰にもしませんので勘弁して下さい!!」


 ・・・

 ・・・

 ・・・


 ん?


 んん?


「ハリス、少しそこに正座しなさい、そう、そこじゃないわ、椅子の上じゃなく床の上に。それで、胸の大きさ?とは一体何の話なのかしら?いえ、あなた言うに事欠いて小ささなどと宣(のたま)ったわよね?あなたは『(鉱山奴隷に)行きたい』?それとも『(地獄に)逝きたい』?」

「こ、これからも精一杯生きていたいであります!!」


 あわわわわわわわ・・・えっ、ステータス(スリーサイズ諸々)覗き見した話じゃないの!?てか精霊見てたのとかガッツリバレてる感じなの!?!?


「ふう・・・ええ、とりあえずそのお話は今は置いておきましょう。ええ、これから二人の時間はいくらでもあるのだから」

「何となくいい雰囲気の台詞なのに全然嬉しくないのは何故だろう・・・」

「話を一旦戻すけれど・・・あなた、精霊様が見えてるわよね?」


「ま、まぁ見えてると言えば見えてるような、見えていないと言えば見えていないような?そう、そもそも精霊とは哲学的な概念のようなものではないかと本官は思うのでありますよ?」

「見 え て る の よ ね ?」

「イエス・マム!!」


 びしょぅじょっょぃ。


 精霊って実はシュレナンタラの猫みたいな存在作戦、脆くも失敗である。

 てかどうしてソレで押し通せると思った俺。


「そう・・・あなたも『小さなクマ』が見えているのね?」

「ええ、初めて見た時は頭の上に子グマを乗せて歩いてるとか中々ファンキーなや・・・つ・・・・・・っっっ!」


 お嬢様、視線が!コチラに向けた視線が刺さってます!

 そして俺またまた や ら か し た 。

 何をかって?


 フィオーラ嬢は俺に『あなたも小さなクマが見えてる』と言った。うん、確かに見えてる、俺にはね。

 でもフィオーラ嬢には『クマは見えない』んだよ・・・。

 だって彼女の『精霊の友』スキルはランク2。白っぽいモヤモヤにしか見えていないはずなのだ。クマに見えるのはランク4からだもん。


「ふふっ、しっかりしてる様でいてやっぱりハリスちゃんはおこちゃまなのね?でもそれは良いことよ?私、素直な子供って嫌いじゃないもの」

「ぐぬぬぬ・・・」


 いきなりお姉さんぶりだしやがりましたよこの子・・・。


「そう、本当に光の精霊様は小さなクマの様なお姿なのね・・・」

「そうですねー、あ、でもクマって言ってもリアルな感じのクマじゃなくヌイグルミみたいなデフォルメされた感じですけどね?なんかしゃべる時はオーオー言ってるだけですし?そんな様付けするような存在じゃないと言うか、ヤツ、真面目な局面ほど俺のこと笑わせようとしやがりますし」


 多少ヤケクソ気味に精霊子グマの説明をまくしたてる。・・・あれ?フィオーラ嬢、どうしてまた真顔になってるのかな?


「・・・あなた、精霊様とお話が出来るの?」

「・・・ノーコメントで」


 ・・・昔の人はこう言った『口は禍の元』と。

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