北都・公爵館 その2 それで、誰を殺れっておっしゃるんです?

 孤児院から公爵家のお屋敷まで(城塞都市の中での移動なのでそれほどの距離は無いのだが)光の精霊様の話を肴に二人で盛り上がり(一方的に問い質されていただけとも言う)気付けばお屋敷の入り口、高い城壁に囲まれた大きな門の前に到着。


 まぁまだこの門からお屋敷と言う名の小ぶりなお城までそこそこの距離があるんだけどさ。

 地下鉄の駅1つ分くらいか?てかそれキロメートル単位で離れてるじゃねぇか。

 流石にそこまでの敷地面積は無いが・・・門からお屋敷まで200メートルくらいはあるように思う。200メートル、1ハロンだな。


 ああ、フィオーラ嬢に『精霊様が見えること』についてはしばらく誰にも言わないようにと口止めされた。

 お願いすれば魔法の威力が上がるらしいからね?もちろん最初から自分で言い触らすような気は全く無いんだけどなぁ。

 ほら、俺って根が素直じゃないですか?だから誘導尋問とかハニートラップとかには弱いのだ。


 そしてやたらとヌイグルミについて食いつかれた。

 お、おう、機会があれば作ってあげるから落ち着いてもらいたい。

 てかヌイグルミ作りの為だけに裁縫スキル上げるって完全に経験値の無駄遣い・・・いや、女性モノのセクシー下着を作るという崇高な使命もあるもんな?まったく無駄じゃない。


 馬車の窓に吊り下げられた赤いカーテンをそっと手で開き、そこそこ透明度の高いはめ込みのガラス窓から外を覗くとそこに見えるのは真っ白なお城。

 平城で石垣も空堀も無いので籠城には向いていなさそうだけど・・・何故か攻め落とす方向で思考してしまうのは前世(前異世界)の経験のせいだな。

 いや、異世界関係なく日本に居る時からそんな妄想はしてたな。うん、男の子ってみんなそんなモンだからね?


 日本地図とか世界地図とか見ながら統一を考える。K○EIのゲームをやった事がある人なら絶対に!

 てか流石にこの国でも1、2を争う権勢を誇る大貴族様、機能的な中にも美しさを兼ね備えたとても素晴らしいお城である。


「さすがに何かしら後ろ暗い所が有りそうな公爵家、立派なお屋敷ですね?」

「今日からここで暮らすのですから人聞きの悪いことを言うのは止めなさい、それに後ろ暗いところなんて・・・ナニモナイワヨ?」


 おい、どうしてカタコトになってる?まぁ最上級貴族のお家に何も無いはずもなく・・・。


「それで、誰を殺してくればいいんですか?」

「いきなり物騒ね!?あなたの中での公爵家ってどんな存在なのかしら・・・まぁしばらくは行儀見習いってところかしらね。それなりには出来ている様だからそんなに難しいことはないと思うわ」

「えっ?それで月に金貨百枚ももらって良いんですか!?」

「一言もそんな話してないわよね!?」


 いやぁぁぁぁぁ!欲しいのぉ!おちんぎんいっぱい欲しいのぉぉぉ!!

 ちなみに声に出したらドン引き通り越してスンッとした顔をされそうなので俺の心の中にそっとしまっておく。

 でも女騎士ちゃんに侮蔑の眼差しで蔑まれるのも悪くないんだよね。嫌な顔しながらパンツとか見せてくんないかなぁ・・・。

 DT拗らせてこの年齢なのに性癖がそこそこヤバい気がしてきた。


 さて、そんなお城・・・お屋敷の入り口、階段の両端にずらりと並ぶのは綺麗どころのメイドさん達、およそ20名の女性と加齢じゃなく家令、羊さんじゃなく執事さんっぽい壮年の紳士。

 平たく言えばちょっと枯れたじいちゃんだな。たぶん肉弾戦は得意ではないと思われる。

 後々聞いた話だと名前はセバスチャン・・・ではもちろん無く『ジョシュア』じーちゃんと言うらしい。


 速度を落とした馬車が玄関先の階段下にゆっくりと止まる。

 広々としてても玄関ポーチって言うのかな?見た目は大病院で救急車が止まる場所みたいなイメージか。

 停車した馬車から真っ先に降りる俺。

 もちろん手を差し出してお嬢様が降りるのをエスコートするためだ。

 お嬢様が下車するとそこに揃った声で


「「「お帰りなさいませお嬢様」」」


 の、ご挨拶。

 ・・・お出かけの度にこれやってるのかな?すっごい不経済と言うか、マンパワーの浪費と言うか、ただの時間の無駄遣いと言うか。


「今日はあなたを迎えに行ったからよ?こんなこと毎回はしないわ」

「心を読まれた・・・?」

「顔に出ていたわよ?」


 マジで!?なら『並んでるメイドさんの中から綺麗ドコロを一人二人俺に下さいお願いします!』と想いも心も込めてフィオーラ嬢を見つめてみたが


「な、何かしら・・・」


 なぜだか赤くなってそっぽを向かれてしまった。

 ちなみにメイドさんと言ってもビクトリアンなメイド服を着用しているわけではなく、お揃いの渋い色合いのワンピースの上から真っ白なエプロンを着用しているだけだった。


 これはアレか?セクシー下着に続いて俺に裁縫スキル上げろって言う天啓なのか?

 ホワイトブリムっていいよね?ちなみにメイド服は短いヤツより長いヤツ派、制服のスカートは膝上派、でも一番好きな制服は警察官とか自衛官です!

 俺、どうやら戦闘的な女性に惹かれるらしい。


 ここでお世話になる落ち着き先として公爵様の邸宅の裏手に有る離れの建物(こちらも昔の田舎の木造の小学校一棟分くらいの大きさはあるが)の一室を貸して貰えるという事なのでさっそくお部屋まで案内してもらう。

 フィオーラ嬢、暇そうに見えるけどそんなに暇なわけでは無いのでもちろん案内は『メイドさん(A)』が担当してくれる。


 まぁ常識で考えても使用人の案内をご主人さまがするのはおかしいもんね?

 メイドさんの名前?そんないきなり名前とか・・・聞けないじゃん?よくわからない人見知りを発現させている俺だった。


 部屋は一番奥の方になるのでそこまでの道すがら色々と説明してくれる『A(仮名)』さん。

 荷物?いえ、特に無いです。はい、ここが使用人用の食堂で、こっちがお手洗いですね?

 ええっ!?お風呂?お風呂有るんですか!?!?1週間に1度?十分です。ありがとうございます!ありがとうございます!

 俺のお風呂に対する超ハイテンションに若干笑顔のひきつるAさんであった。


 お風呂、お湯の用意は俺が責任を持ってどうにかするから毎日入らせてくんねぇかなぁ・・・。


 俺はっ、風呂の為ならっ、他では一切使わないであろうスキルを取ることもっ、辞さないんだぜっ!!

 お湯を出すのに必要そうなのは『水魔法と火魔法』後は『魔法合成』って感じかな?いろいろ潰しが利きそう・・・てか俺そのスキル3種とも既に持ってるじゃん。


 ん?知らない人の前でいきなりそんなスキル使ったら目立つ?

 ・・・そうだね(この世界では)初めて入れそうな風呂に少々意識を持っていかれすぎて(少々頭も)いかれてましたね。


 ちなみに馬車に荷物を乗せてる描写が無かったので(メイドさんに聞かれた時にも答えてたし)おわかりだとは思うが手荷物すらナシの俺。

 おっぱいを隠すんじゃなくてブラブラさせた方の手ぶら。男の子だからな!何をブラブラさせてるのかは秘密だ。もちろん手だからね?


 孤児院で使ってた古着は他の子達が使う物だから今着けている自前の下着以外は全部置いてきたんだ。

 まぁ買った下着もそこそこ使い込んでるので他人に洗濯させられない一品ではあるんだけどさ。さすがに何枚か新しい下着を用意しないと不味いよな。


 時間ができれば古着や布糸を買ってきて少々試してみたい事もあるけど・・・そのへんは追々と?

 入ったばっかりの新入りだし休みが欲しいとか言いにくい上に収入(お給料)とかどうなるか不明だもん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る