孤児院編 その16 ストーンブラストッッ!!(石礫の嵐)
・・・フィオーラ嬢が教会に顔を見せなくなってから――早ひと月。
季節はやっと凍える冬から・・・いや、まだまだ十二分に寒い冬なんだけどね?北国の2月とか気を抜いたら人死にが出るには十分だもん
「久しぶりねハリス、その後いかがお過ごしかしら?」
いつも通り片隅で延々と女神像を彫り続けてる俺の元に、もう来ないと思い込んでいたお嬢様が再来した。
てかさ、そこそこ心の中が虚無な状況だったから今まで全く気にしてなかったけど『会えなくなった女性の似姿』を一心不乱に彫り続けるとか、それも本人に見られるとか完全にアウトじゃね?気持ち悪い通り越して恐怖以外のナニモノでもなくね?
そんな俺の心中なんて関係ないと言わんばかりに前の様に俺の前で椅子に腰掛けるフィオーラ嬢。
久々に見る彼女はまるで天使の様で、そんな彼女に俺がかける言葉なんて何もなく――
「どうしたのかしら?そんなゴブリンがストーンブラストを受けたような顔をして」
どんな顔だよそれ。てかそこそこ火力の高そうな攻撃魔法食らってるよねゴブリン?顔どうこう以前にそいつ間違いなく死んでるんじゃね?
まったく・・・もう会えないと思ってた女性ひとがいきなり目の前に現れたらそりゃビックリくらいするだろう。
あ、いかんいかん、挨拶、挨拶しなきゃ!
「あれほど厳しかった冬の寒さも近頃は和らぎ、春の訪れを告げる優しくも暖かい風が」
「あなたは何を言っているのかしら・・・」
なぜか卒業式の送辞っぽい挨拶を始めてしまう俺。動揺しすぎだろ。
「これはこれはお姫さま(おひぃさま)、本日も麗しきご尊顔を拝し奉り誠に恐悦至極にございます」
「その他人行儀で仰々しい挨拶も随分と久しぶりね」
他人行儀も何も他人だしなぁ・・・って少し前までの俺なら言えてたのになぁ・・・。
また顔が見れて嬉しいと思っちゃってる、気持ちの高ぶりが自分でも分かっちゃうからどうしようもないんだよなぁ。
「複雑そうな顔で百面相するのは少し面白いけれど止めなさい」
「今日はやたら顔面ネタで推してきますね?」
『先に渡しておくわね』と言いながら(女騎士様が持っていた荷物を受け取り)木箱に入ったなにやらをこちらにそっと差し出す。
どうやら王都のお土産らしい。
うん、何だこれ?妙な模様の大きめの布・・・あ、バスタオルか?って風呂とか三年くらい入ってねぇわ!違う?壁に貼り付ける?ああ、タペストリーっぽい何かか。いや、むしろ観光地のペナント?まったくいらんわ!
倉庫の壁にそんなもの貼り付けても薄暗いor真っ暗だから何も見えないんですが?バスタオルの方がまだ嬉しかった。
いや、お土産を買ってきてくれたその御心だけはありがたく。あ、選んだのは女騎士ちゃんなんだ?んっとにつっかぇねぇなこのポンコツ・・・。もちろんありがたく頂戴いたします。
てか最近教会に来れなかったのは俺のあまりの馬鹿さ加減に呆れ返って嫌気が差した訳ではなく王都まで出掛けていたかららしい。
新年から何やら酔っ払って大怪我をした王族の治療にあたっていたんだと。迷惑な人間はどこの世界にでも居るものである。
まぁ普通は新年って豪華なお料理とか食べて餅食って酒のんで騒ぐもんね?
もちろん孤児院では代わり映えのしない毎日、盆暮れ正月関係なく日常生活が続くだけだがな!
変わらない日常、また相まみえることが出来た目の前の女性に心の底から安堵してしまう自分がいるが・・・何を期待しているのかと少し忌々しくも思ったりする。
少し自分の気持ちにモヤモヤとしながらも笑顔になる俺に
「それで、その後、あの彼女とはどうなのかしら?毎日幸せにキャッキャウフフしてらっしゃるのかしら?ケガラワシイ」
Oh・・・何か憤ってらっしゃる・・・?
そして事実無根も甚だしい想像は止めてね?
「え、ええ、お陰様を持ちまして彼氏も出来たようで幸せそうにしております」
「何よそれ、ものすごく他人事みたいに」
ジト目、すごい、商品サンプルみたいな模範的なジト目いただきました。
てか他人事みたいじゃなくてこっち(シーナちゃんの恋模様)に関しては心底他人事なんだよなぁ。
あれからはまったく俺の部屋で寝るなんてことは無くなったし、最近は二人で会話すらしてないもん。
そもそも顔を見かけても目を逸らされると言う・・・。
俺は特に気にしてないけどシーナちゃんからしたら気まずい、もしくは少し遅れてきた反抗期なのかもしれない。
まぁ超高額の借金がある知り合いとかそりゃ近づきたくないわな。心配しなくても請求とかしないんだけどねぇ?
治療に多大に力を貸してもらってるのでこのひと月の経緯をありのままで説明する。
治った!喜んだ!彼氏出来た!ちょっと頭の悪いカエサルかよ。または喜○商店。
「それは・・・なんなのよそれは」
「何と言われましても、彼女の治療をして頂けたお陰様を持ちまして」
「とりあえずあなたはその慇懃無礼な妙な話し方を止めなさい!」
「えー・・・無礼な所は無かったと思うんですけどね・・・」
おおう、ちゃんと目上の人と話す話し方したら怒られたでござる。てか妙ってなんだよ妙って。
あれか平民は『しかしまぁ何ですな』から始まって『君とはやっとられんわ』で締めないといけないとか?昔の漫才師か。
「あなた、彼女の為に金貨一千枚の借金まで背負ったのよね?自分の方が酷い見た目なのに彼女に治療を譲ったのよね?そこまで惚れた相手が、怪我が治ったとたんに他に男を作ったのに何とも思わないの?それは1人の男としてどうなのかしらっ!?」
「うん、正しい認識だけど酷い見た目とか直球ぶつけて来るの止めようね?譲ったも何も自分はこの見た目でも特に不便とかしてないですし・・・そして俺はシーナちゃんに惚れてはいないですよ?」
「いいのよ、そんな苦しそうな顔・・・はしてないわね。いいのよそんな声を震わせ・・・てもいないけど強がりを言わなくても」
「いや、本当に恋愛感情とか無いですし、もしも有るとしたら父性本能的な庇護欲くらいかな?」
「どこから目線でモノを見てるのよ・・・彼女、あなたより年上でしょう?何、あなた年上大好きなの?・・・はっ!?あなた少し気心がしれてきたのをいいことに私のことも庇護したいとかよしよししたいとかなでなでしたいとか思ってたのね!?」
「思ってないですよ?」
「そこは思いなさいよ!と言うかこう少しは考え込んでから答えなさいよ!」
・・・俺は何をキレられてるんだろうか?
「前も少し話したと思いますがシーナちゃんにはここに来た時からずっと親切にしてもらってたんですよ、こんな見た目なんで他の子に虐められてるのを庇ってもらったり、腹を空かせてる時に自分の食べ物を分けてくれようとしたり。せめてその分の恩返しがしたいと思うのはそんなにオカシナ事でもないでしょう?」
「私も繰り返しになるけれどその対価が金貨一千枚と言うのは世間一般では十分にオカシイと思うわよ?」
「金額とかじゃないんですよ、彼女の親切に報いる術が俺にもあった、ただそれだけの事です」
そのせいであなたを傷つけたのは予定外でしたが・・・とは言えない。
俺のために怒ってくれる人が居ることが嬉しいと思っちゃってる自分、相変わらずのクズ野郎だなぁ・・・。
「あなた、言ってることはものすごく男前ね・・・」
「他人の家の前で倒れてていきなり動き出したら聖職者呼ばれそうな見た目ですけどね?」
「ぷふっ・・・笑いにくい自虐は止めなさい」
「ヴァー・・・ウァー・・・」※首を少し傾げて虚ろな目をしたゾンビのモノマネ中
「ぐっ・・・ふっ・・・ふふふふっ・・・」
むっちゃ笑ってるじゃん。
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