孤児院編 その17 光の精霊~再び
花の、いや、華の咲いたような笑顔とはまさにこの事かと納得するような笑顔。
うんやはりフィオーラ嬢はこうでなくちゃいけない。
美少女には笑顔が一番!・・・それを曇らせるようなことは二度としちゃいけないな。
まぁ公爵家の御令嬢の事を俺みたいな一般庶民・・・いや、一般貧民が気にかけるのは流石に無礼すぎると思うけどさ。
そして楽しそうな笑顔からいきなりの真顔。
何この子、感情の振れ幅が大きすぎじゃない?情緒不安定?
「・・・で、彼女はそんなあなたの気持ちを裏切って他に男を作ったと」
「裏切るも何も最初から付き合ってたわけでも無いんだけどなぁ・・・」
少しうつむき加減で顎に曲げた右手の人差指を当て、何かを考え込むことしばし。
ニコッといい笑顔をこちらに向けると
「あなた、ポウム家のハリスで間違いないわよね?」
「『元ポウム家』ですけどね。すでに追い出されて絶縁されてますから」
「絶縁・・・あなたの実家も大概なのね。まぁそれは追々と考えるとして」
何を考えるんだよ、最上級貴族の考えることとか恐えよ!それこそ指先を首元で動かしただけで物理的に胴体と頭がお別れしちゃう世界だからな!
「ハリス、借用書をもう一枚用意しなさい」
「えっ?いきなり借金が増える流れ!?」
まぁこのお嬢様の言うことだし・・・信用も信頼もしてるからいいんだけどさ。
・・・あれ?俺ってもしかしてすっごいチョロくない?
マジで街金で借金してお店通いしちゃうの?
「まったく・・・あなたも・・・わたしもバカね・・・」
「いえ、馬鹿なのは俺だけです」
「そんなことないわ!・・・だって、たぶん、この気持はわたしのわがまま、と言うよりやきもち、なのだから」
「・・・えっ?」
「だって!と、友達が自分以外の知らない友達を連れてきて目の前でその相手を大事にされたら・・・やきもちくらいやくでしょう!それなのにその友達を裏切るような相手ならそれ相応の思いをして貰わなくちゃ・・・ね?ふふふ・・・どうしてくれようかしら」
「可愛く小首を傾げられても恐怖しか感じないので止めてもらっていいですかね?」
やはり公爵令嬢と言う肩書きは伊達では無いらしい。どうやら聖女様だけではなく悪役令嬢の素質もお持ちらしいフィオーラ嬢だった。
司祭様にお願いして金貨一千枚の借用書をもう1枚用意する俺。
『こいつ・・・上級貴族に良いように利用されてるのか』
みたいな目で見られたのは仕方がない。俺だって相手が彼女じゃなければ思うもん。
でもなんか良い笑顔してたし?悪巧みの片棒を担ぐのは嫌いじゃないんだ。泣く子は(男限定で)はっ倒せるけど美人には勝てないしな!みんな、真似しちゃ駄目だぞ?
まぁ悪いようにはしないでしょ?と、友達の事は信用してるし?ホントにチョロすぎて我が事ながら将来が心配になってくる・・・これでも中の人アラサーなんだぜ?
そしてまたまた3日後、勝手知ったる儀式の間である。
前回と同じく聖女様の頭上にはティアラよろしく白い子グマ。
こいつむっちゃこっち見てくるんだよなぁ。で、スキあらば笑わせようとする。ほんっとに精霊とは一体何なのか一度考え直すべきなのでは・・・。
前回と違う所は取り巻き(?)が教会関係者ではなく孤児院関係者という所。
ちなみに指示をしたのはフィオーラ嬢。
むろんシーナちゃん&彼女の彼氏も参加している。
えっ?今日は俺の心をささくれだたせる会なのかな?
てか間近で王国三大美女を見る機会なんて無い孤児院メンバーが神々しさに当てられて借りてきたハムスターみたいに萎縮してプルプル震えてるんだけど。
ちっちゃいコロコロしたう○こしてそうな雰囲気だな。
「ハリス、こちらに来てもらえるかしら?」
そんな奇妙な雰囲気の中前に呼び出される・・・俺。
「司祭にはもう話を通してあるわ。今日からあなたは私の側仕えとして屋敷で働いてもらいます。もちろん今日からと言っても用意が有るので正式に迎えるのは一週間くらい後になるのだけれど」
「はい。・・・はい?」
えっ?聞いてないんだけど・・・いきなり何の話?
「それで・・・悪いのだけれどその見た目では少々側仕えとして問題が有るのよ」
「ヴァー・・・」
「ふっ・・・くっ・・・、んんっ!」
ちっ、耐えやがった。まぁプルプルしながら赤くした顔を背けてるけどな!
「だから今からあなたの治療をするわ。ハリス、そこに跪きなさい」
ああ、なるほど、そう言う流れで俺も治してくれるのか・・・でもお金も取られてるしここにきてまさかの治療の押し売り!?
・・・なんて彼女がするはずもないし・・・イマイチ意図が分からないな。まぁ素直に従っておくか。
超美人の公爵令嬢の前に跪く少年とか普通なら叙爵式みたいな光景に見えるんだろうけど現状女神にひれ伏す魔物にしか見えないだろうなぁ。
例えるなら『瓜子姫と天の邪鬼』の豪華版みたいな。ドラマCDも付いてるよ!あ、瓜子姫のCVは『は○みん』でお願いします。
「・・・光の精霊よ、その癒やしの力を貸し与えたまえ」
俺の頭にそっと手を添えるとそこそこ長い呪文を唱えるフィオーラ嬢。
もちろん力を貸しているのは光の精霊様こと頭上のクマ。
ちなみにこの時クマはこっちを見てサムズアップしたが跪いて俯いている俺に見えるはずもなく、寂しそうにショボンとしていた。
呪文が進むと共にぼんやりと光に包まれていく俺の体。そして最後に
「エヴィーフィ・ヴンデ・ハイルング」『がおー』
ラストの詠唱部分でハモるヤル気の欠片もないクマの咆哮。
くそっ、二度目なのにちょっと吹き出してしまったのがむっちゃ悔しい!!
そして閃光手榴弾が弾けたかの様な眩い光とともに・・・。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
いや、全員でこっち見てるだけじゃなくて誰か何か言えや!部屋の中に鏡とか無いから治ってるのかどうかも分からないしさ。
目で見える範囲、腕とかの火傷痕は消えてるんだけどね?
まぁ今回はフィオーラ嬢に免じてクマ(精霊)の事信用してやるか!
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