孤児院編 その14 精霊の友

 そしてあれから・・・3日後。


 ん?いきなり何の話かって?いや、火傷痕の治療の話じゃん・・・。えっ?特にそんな話してなかった?

 いやいやいや、むっちゃしてたよね?

『知り合ってからひと月も経つのにどうして私にお願いしてこないのか?』とか『なら俺がお金借りて治療費お支払いしますので後払いでお願いしてもいいですか?』とか。


 わかりにくいわ!!って?お互いに分かったようなふりをして後々何かあればごまかせるように確信には触れないのが貴族の会話なのだ。

 いや、俺とあの女性(ひと)の会話はそんなんじゃなかったんだけどさ。

 ・・・まぁ、色々とあるんだよ、色々とさ。


 てか『魔法使うだけなのに当日じゃないんだ?』うん、俺も思った。

 フィオーラ嬢が使うのは『光魔法』の治癒術(俺も○門の治療で大変お世話になった・・・)、それも『精霊の力』を借り受けて使う儀式魔法らしい。


『えっ?火傷痕の治療するだけなのに儀式魔法なんて大げさなものが必要なの?』


 前の世界の魔法事情とは結構かけ離れてるので俺も頭の上に疑問符がいくつか並んでるんだけどさ、簡単に言うと


『元々精霊の力の片鱗を使わせてもらってる魔法を更に強化ブーストさせる為に精霊様ご本人に手助けしてもらう事で強力な術を使う』


 為に準備と儀式が必要らしい。なるほど・・・よくわからん。

 精霊の力を借りてるのにさらに精霊の力に頼るとかどう言うことなんだよ・・・。いや、むしろ属性魔法って精霊魔法だったんだ?って疑問が更に追加されて頭がこんがらがっただけとも。


 たぶん『俺のスキルの取り方』って『この世界の魔法の法則』とは微妙に違うんだろうなぁ。方法がどうあれ結果魔法が使えてるんだからどうでもいいんだけどね?うん、今日も前向き(おそらきれい)なハリス君であった。

 でも『精霊様』ってなんぞ?と、物凄く気になったのでフィオーラ嬢のステータスをこっそりと覗き見してみたり。


 ステータスは・・・うん、全体的に一般人より数値がかなり高いな。特に魔法関連(MP、知能、魔術)が。

 身長体重スリーサイズ・・・見てないから、見てないんだからね?大丈夫、成長の余地は有ると信じて強く生きて欲しい。


 そして肝心なのはスキルだ。

 礼儀作法とか弁舌とか武術系も色々ある。肝心そうなのは『光魔法ランク2』と・・・あ、これかな?『精霊の友ランク2』。


 ・・・聖女様って呼ばれてる割に思ったほど光魔法のスキルランクが高くないぞ?いや、むしろ光魔法で火傷痕の治療をするにはランク2じゃ無理だよね?『回復魔法』ならランク2でもいけるだろうけど。

 ああ、使うのが『回復魔法』じゃなくて『光魔法』だから『儀式による強化』まで必要って事なのか。納得した。


 ちなみに『光魔法や回復魔法』だけじゃなく『水魔法や植物魔法』でも治癒系の魔法は使えたりする。むしろ火傷系の治療は水魔法のほうが優秀だったり。

 まぁ水魔法では火傷の治療は出来ても火傷痕を消す事は出来ないんだけどさ。


 てか『精霊の友』なんてスキル初めて見たんだけど?


 ・・・むっちゃ気になるよねこれ。

 けして人間の友達が居な・・・少ないから精霊の友達が欲しいとかじゃないんだからね!!

 て事で物は試しと上げてみる事に。こんな時のための貯金(余剰経験値)なのだ。


 ランク1・・・フィオーラ嬢の頭の上に薄っすらと蜃気楼の様な気配。

 あれが精霊様なのかな?

 なんとなくここにいるよーって感じだけでただのモヤモヤなんだけど。


 ランク2・・・蜃気楼のような透明なモヤが白く光りだした。

 うん、なんとなく神々しい。

 光ってる場所がフィオーラ嬢の頭の上だから超美少女に後光が差して宗教画みたいになってるし。


 ランク3・・・お?手足のあるウイルオーウイスプみたいになった。

 神々しさよりも水木し○るっぽさが増したんだけど?コロポックルとかキジムナーとかの仲間か?

 頭に妖怪を乗せる美少女・・・なかなかにシュールな光景である。


 ランク4・


「ふぐっ・・・」

「あなた、人の顔を見て吹き出すとか一体どういう了見なのかしら?」

「お嬢様、始末いたしますか?いえ、いたしましょう」


 吹き出しそうになったので口を抑えて高速で横を向いた俺を公爵令嬢主従にいい顔でなじられる。

 だって・・・仕方ないだろう!


『公爵令嬢(超美少女)の頭の上で仰向けになって口を半開きで死体のマネをしてるシロクマ(白い子グマ)のヌイグルミ』


 と目が合ったら普通笑っちゃうだろ!

 あいつなんであんなやる気とか生気のない顔でヘタれてるんだよ!!


 てことで


 ランク4・・・薄く光り輝く(死体のモノマネ中の)シロクマのヌイグルミの様な生き物と目が合う。

 精霊様とは一体・・・?

 あれだな、光の精霊以外の精霊にも物凄く興味が湧いてきたぞ?


 なんかランク4で既にお腹いっぱい感が満載だけど一応他のスキルと同じランクで揃えとくか?


 ランク5・・・なんかクマがこっち見ながら『オー?オーオー・・・オー!』って言ってる。

 これ他の人には聞こえてないんだよね?何となく意思疎通が出来た(出来てるのかコレ?)のが嬉しいのか妙にはしゃぎだしたし。


 ・・・もうこいつただのゆるキャラだろ。


 てかあの子グマ、むっちゃ可愛いんだけど?抱っことかしたいんだけど?こねくり回したいんだけど?

 見てくれは威厳もクソもない、むしろ愛らしいヌイグルミにしか見えないけど本当に精霊様で合ってるんだよな?

 きょろきょろと周りを見回してもあのクマ一匹?一人?しか不思議生物は居ないし『レア物』なのは確かみたいだけどさ。


「あなた、今日はやたらと挙動不審ね」


 目の前に『頭の上に変顔するヌイグルミ乗せた人』が居て、あまつさえ笑ってはいけないとかそりゃ挙動不審にもなるだろうよ!

 むしろ頭にヌイグルミ乗せたお嬢様の方がどう考えても不審者なんだよなぁ。


 他の人には見えないから誰にも理解してもらえないだろうし気を取り直して・・・向かうのは教会奥にある『儀式の間』。

 まぁ『儀式の間』なんて呼ばれてるけど要は何もない広めの部屋なんだけどね?学校で言うと体育館の二階部分とか武道場くらいの広さか。

 そこに今日は儀式魔法の為の祭壇が準備、設えられている。薄暗くして魔法陣を光らせれば完全に邪○の館だな。コンゴトモヨロシク。


 いつのも3倍位聖女様っぽい衣装(3倍といっても赤くはないし速くもならない)に着替えてきたフィオーラ嬢。頭オンザクマ。

 見えてると真剣なのかおちょくられてるのか判断に困ってしまう装いだなソレ。

 部屋には儀式をひと目でも見学しようと教会関係者の下級見習い、そして俺と・・・シーナちゃん。


「準備は出来たわ、それじゃあこちらに来て跪いて貰えるかしら?」

「はい、畏まりました。・・・シーナちゃん、前に。よろしくおねがいします」

「はい、えっと・・・はい?」


 俺に後ろから背中を軽く押されてトトトっと前に進み出たは良いもののどうすればいいか困惑顔のシーナちゃんと『こいつは・・・やらかしてくれたわね』って感じのジトッとした目をこちらに向けてくるフィオーラ嬢。

 うん、まぁそうだね、いきなり連れてこられた子もいきなり知らない子の治療してくれって頼まれた子もそんな顔するしかないよね。


「・・・後で詳しく説明してもらうわね?」

「お、おう・・・了解いたしました、マム!」


 恐いよ、笑顔がとても恐いよフィオーラさん・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る