孤児院編 その10 一発金貨一千枚の女

 能力値のことはこれくらいで終わるとして最初の話に戻る。もちろん三馬鹿の事ではない。

 そう、新年の話だな。


 新年とは言っても『神に仕えるものは贅沢は慎むべきである』とかなんとかいう理由で孤児院の食事が豪華になるようなことはもちろん無い。

 むしろ新年以外でも年間を通して食事の質が(下がることはあっても)上がることは一度もなかったからな?刑務所でもお節っぽい物が出るらしのに。


 まぁ俺はシーナちゃんと何か食べに行くけどさ。

 最近はそこそこ小銭を持ってると認識されてきてるので昔は嫌な顔で追い払われてた屋台なんかも愛想が良くなった。

 もちろんそんな店では何も買わないがな。俺の心は猫の額よりも狭いのだ。


 いや、それ(新年のごはん)もどうでもいい話なのだ。

 そう、俺、今年で14歳になったんだよね。

『ハリス 14歳の春』って言うといかがわしい『IV(妄想を掻き立てる映像作品)』のタイトルみたいじゃね?いや、年明けたばっかりだからまだまだ春じゃなくて真冬真っ盛りだけどさ。


 まぁあれだ、俺が14歳ってことは・・・一つ年上のシーナちゃんは15歳ってことなんだ。

 何が言いたいかと言うと

『シーナ15歳夏、卒業』うん、完全にいかがわしい。間違いなく尻とか丸出しのはず。


 この孤児院、15歳になると夏までには働き先を見つけて出ていかないといけないんだよね・・・。

 うん?初耳?いや、だって他の子が入って来ようと出て行こうと俺には何の関係も無かったしさ。


 最近は(小金目当てに)近寄ってくる女の子も居たけど基本的には老若男女問わず嫌われ者だったもん俺。見た目的なもので。

 自分で言ってて悲しくなりそうな事実・・・。

 同じ屋根の下で暮らしてたのに冷たすぎる?それは・・・そうかもしれないけどさ。


 特に俺が他人に出来る事も無ければ他人が俺にしてくれることも無いんだから条件は同じではなかろうか?

 もちろんこの三年で世話になった(少数の)人たちには機会があればなんらかの恩返しはしようと思ってるけれど・・・ただの貧乏な孤児が出来ることなんてあるはずもなく。

 まぁその辺は追々と。してもらったことは忘れない。そしてされたことも忘れない。因果応報、自業自得、目には目を歯には歯をの精神で!


 それで、シーナちゃんなんだけど・・・一応働き口は決まってるんだ。

 この孤児院からは少し離れるけど『大蟻の巣』って呼ばれる迷宮の近くの宿屋の下働き。

 もちろんいかがわしい宿屋(と言う名の何か)じゃないよ?


 一階が飯屋兼酒場になってて二階三階が宿泊できる部屋になってる普通の(いや、本当にその営業形態は普通なのか?)宿屋。

 まぁいかがわしいお店じゃなくても『自由恋愛という名の金銭を伴う恋』が発生しないとも言えないんだけどさ。

 そもそもこの国では春を売るのも買うのも法律で禁止されて無いし。


 俺も(二人の間に金銭が介在してもいいから)優しそうなお姉さんと恋がしたいとかそんなこんなはさておき・・・シーナちゃんである。

 正直物凄くお世話になった。この三年間精神面の支えになってくれたってだけじゃなく身の回りのお世話とかも甲斐甲斐しく、嫌な顔・・・もたまにしながらしてくれたからね?


 もちろんお世話と言ってもいかがわしいヤツじゃなくて洗濯とか掃除とか背中を拭いてもらったりだとかだからね?

 少女に背中を拭いてもらうのはそれなりにいかがわしいな。

 そしてそろそろ『いかがわしい』がゲシュタルト崩壊しそう。


 もしシーナちゃんが居てくれなければ・・・俺の性格が今の5倍位ひねくれたものになっていたのではないかと思うくらいには支えてもらったのだ。

 なので出来れば『彼女の顔の火傷痕』くらいはどうにかしてあげたい。


 昔から火傷をしてなかったお顔の部分は結構愛らしかったのだが成長してさらに可愛らしくなったので火傷痕部分が余計に痛々しく見えるもん。

 ん?治療出来るのかって?もちろん出来るさ、スキルがあれば。いや、あればも何も既に『光魔法』がランク5もあるんだから治療系上位スキルの『回復魔法』を取るまでもなく治せるんだ。


『ならなんで自分もシーナちゃんも治療しないんだよ・・・』って話なんだけどさ。物凄く目立っちゃうからなんだよなぁ。

 フィオーラ嬢(著作権ガン無視で量産してる神像のモデルさん)の話が出た時に『俺の火傷痕の治療をしてもらう予定だった』って言ったの覚えてるかな?

 そう、魔法が使える人間はそこそこ居るのに『この程度(火傷痕)の治療が出来る癒し手』が『聖女様』なんて呼ばれて『金貨1000枚』もお布施が必要な世界なのである。


 そして俺とシーナちゃんがいるこの施設は『教会が管理している孤児院』なんだよね。『腐っても』もとい『腐っていても』一応は宗教施設なのだ。

 そこで生活していた子供の火傷痕がいきなり消えたりしたら『神様の奇跡だ!!』などと『金の亡者(教会関係者)』が騒ぎ出すこと請け合い。


Q:そんな状況で俺がシーナちゃんの治療をしたことが知られたらどうなるでしょうか?

 A:囲い込まれていいように使い倒されて飼い殺しになります。


 明るい未来が一切想像出来ねぇ・・・。

 いや、それでもここの職員(ナマグサ神父とその仲間たち)がもっと真面目で真摯な人間だったら考え方も少しは変わってたと思うんだけどね?


 骨の髄までアレだからなぁ。俺が領主なら教会ごと取り潰してるレベル。外面は取り繕ってるだろうし、俺が知らないだけで善良な人間も居るんだろうけどさ。

 ここでの俺の生活にかかった費用なんかは女神像の売上で孔雀の尾が付くほど返してるし特にこれと言って(シーナちゃん以外の人間には)恩も義理も感じていない。


 そんな俺が教会に囲い込まれる?何の冗談だと。

 腹の上にぶんぶく茶釜乗せて茶を沸かした後に火薬詰めてふっとばしてやろうか?(訃報:タヌキ、いわれのない巻き込まれ事故で死亡)


 ちなみに自分の治療だけなら何の問題も無いんだよ?だって俺の顔が治っても火傷する前の顔をこの街の人間は誰もしらないもん。むしろ自分自身も知らないからね?

 教会の外で治療してそのままこの孤児院に戻らなければ気付かれようがないのだ。まさに完全犯罪。いや、悪いことは何もしてないけどさ。


 うーん・・・いっそ二人で駆け落ちでもするか?いやいやいや、流石にこの歳(中の人じゃなくハリス君換算)で女の子の一生を背負うとか重すぎる・・・。

 そもそも恋愛経験ほぼ皆無だよ俺。色々諦めて釈迦の様な心境の俺だけど女の子と二人きりの生活とかまた胃を壊すこと請け合い。


 そして(三年近く一緒のベットで寝起きしてるし、もちろん男女間のアレやソレは一切無い)嫌われてはいない・・・とは思うけど『なら好かれてるのか?』って話になると何とも言えないし。

 シーナちゃんには他に選択肢が無かっただけ・・・そもそも外見コレな男と一緒に居たがる女の子なんて居ないだろうさ。


 うん、余計なこと考えてると心がまたダークサイドに落ちそう、無心無心・・・。

 父さん今日もいっぱい女神像作るぞー


「へぇ・・・器用なものですね?と言うかそれ・・・リリアナかしら?でもそっちにあるのは・・・」


 ・・・やらかした。ボーッとしてたらいつもの女神様の像じゃなくてリリアナ様を彫っていたらしい。


Q:えっ?リリアナさん?誰?

 A:ほら、ハリス君のストーカー相手の王国三大美女。侯爵家のお姫様。


 ふとした拍子に思い出しちゃうのは元ハリス君の中の人の残照なのか。チッ、ダークサイドじゃなくハリスサイドに引っ張られていたか!!

 完全に『ストーカー再び』である。

 絹糸よりもサラサラと柔らかく輝く銀色の髪、透き通るような白くくすみ一つ無い肌、優しさを具現化したような微笑み、小ぶりだが自己主張をするとても形の良い胸部おっぱい。


 うん、会ったこともないのに鮮明に思い出せるというこの気持ち悪さ。

 てかこんなモノ他の人に見られたらぁっっっっつ!?!?!?

 いやいやいや、今さっき声・・・かけられたよね?それもリリアナ嬢を知っている&呼び捨てで呼べる程度には親しそうな人に。

 振り返っちゃ駄目だ、振り返っちゃ駄目だ、振り返っちゃ駄目だ。


 無。


 そう、無になるのだ!・・・無理だな。

 いや、無理じゃない!諦めるな!集中してるフリして無視してればそのうち居なくなるはず!

 ・・・居なくなった所でなんの解決にもなってないんだよなぁ・・・。

 首から『ギ ギ ギ ギ』と音がしそうなゆっくりした速度で見上げるとそこには


「あ、一発金貨一千枚の女」

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