使い潰された勇者は二度目、いや、三度目の人生を自由に謳歌したいようです

プロローグその２ そして始まる・・・

　てことで翌朝。

　物置のような部屋と言うか実際物置に粗末なベット（木枠に横に木材をただ並べただけのような出来の悪い簀の子ベット）らしき物が置かれただけの部屋で目覚める。

　ああ、もちろん特に使い道の無い（使い道の解らない）雑多な物はいっぱいあるんだよ？だって物置だもん。寝食に使うようなものがベットのみってだけで。

『一応貴族の三男なのに自室が物置とか貧乏すぎじゃない？』と思ったあなた！なかなかに鋭い。

　まず前提としてここはハリス君の家じゃない。そもそもハリス君の実家、『ポウム家』は腐っても『都貴族』だから。

　そしてここは『王都キルシュバーム』では無く『北都プリメル』・・・にあるエタン教会・・・に付属する孤児院。

　まぁ簡単に言うとハリス君、『実家に捨てられた少年』ってことだな。

　しかしここで『すわ、チート発揮で実家ざまぁ一直線の展開か！』などと早まってはいけない。

　だってハリス君、そこそこの問題児なのである・・・。

　ってことでこれからどうすればいいのか？ハリス君のこれまでの生活のおさらいから始めたいと思います！

　あれだな、口に出してないからいいけど最近独り言が激しいな俺。パーティ組んで旅してた時ですら事務的な会話しかしてなかったし仕方ないか。

　コンビニに買い物に行ったら間違いなく『あ』から発言しちゃうくらいに他人との会話スキルが低下してると思うし。

　・・・いや、日本に居る頃からそうだったけどさ。異世界まったく関係ないけどさ。

　あ、（袋は）お願いします。

　あ、（レシートは）いらないです。

　人見知りコンビニあるあるは置いといて――まず初めに実家、既に名前が出ている『ポウム家』だな。都貴族の準男爵家だ。

　詳しくは（ハリス君が興味がなかったので）分からないが家職的には区役所の職員みたいな感じだと思われる。

　人数がそれなりにいるから一人くらい減ってもどうってことのない事務員みたいな仕事だな。

　下級貴族の家系の割に父親母親共に見目が良く、上の兄二人と共に結構な美形の三兄弟として王都では有名で準男爵家の三男坊の癖に五歳の時に既に婚約者が居た。

　まぁもちろん過去形なんだけどさ、実家追い出される前に当然婚約は破棄されてるし。

　婚約者と言ってもこれまでに数回の顔合わせをした程度の面識しか無いのでまったくの他人と言っても差し支えない相手だからどうでもいいんだけどね。

　ちょっと待て、『都貴族』ってなんぞ？と疑問はお有りでしょうが華麗にスルーして続くハリス君の過去バナ。

　実家の話に続いては追い出された理由と婚約を破棄された理由だな。

　この世界・・・ってほど大きな話かどうかは分からないけど、この国では

『十歳を迎えた国民は必ず教会で祝福の儀式と言う名の所持技能スキルの確認』

　が行われる。

　まぁよく有りそうな話だ。

　剣槍弓鉾盾などの戦闘系技能を筆頭に超花形スキルである地水火風などの魔術系技能、薬学に錬金術に鍛冶や木工などの製造系技能、少し地味だけどお役立ち度は高い農耕採集採掘などの生産系技能などなど。

　そんな中でハリス君が授かったのは『土魔法』。

　えっ？魔法スキルじゃん？将来有望じゃん？城壁ドーン！空堀バーン！一夜城ババババーン！！！みたいなのだよね？

　あ、あれか、どう考えても優秀なスキルなのに何故か周りの人間だけが気付いてないよく有るやつか？

　・・・残念ながら本当にハズレスキルなのである。

　そもそも土魔法と言うか『土魔法ランク１』、出来ることは『レンガを一つ作る』くらいしかない。

　それも粘土質の土がない場所でレンガを作ろうとすると魔力消費が激増。

　木偶のぼ・・・楽天家のハリス君、当然のようにレベルが高いわけでもないし顔は良くても魔力の高い家系に生まれたわけでもない。

　粘土がある場所で一日に数個のレンガが作れるだけのスキルなんて貴族どころか平民ですらハズレ扱いされるのは当然の事である。

　まぁここまでなら実家を追い出されることは無かった。

　使えないスキルだったとしても働き口なんて山ほどあるし？もちろん安月給だけど・・・。三男坊なんて予備の予備、特に残念がられる程でもない話だ。

　小さい時から上の兄二人も剣の稽古や槍の稽古、読み書きそろばんと色々教えてくれようと頑張ってくれてた程度には家族関係も良好だった。

　でもハリス君、そんな兄達を華麗にスルー。趣味の泥団子造りに邁進する。

　ちょっと内向的すぎじゃないかなハリス君。

　てかさ、祝福の儀式って教会が権威を維持する為に呼んでるだけでただの『所持スキルの確認大会』でしか無いんだよね。

　それも一番高レベルと言うかその時点での獲得経験値の高い物だけが見れる『魔道具っぽい物』を使ってるだけじゃないかと思う。

　で、それを

『お前は神よりナンタラの技能を授かった！』

　とか偉そうに言ってるだけでさ。

　だって朝から晩まで木刀振りまわして頑張ってたワイルド系の上の兄貴が剣術、読書好きで知的クール系の下の兄が算術、泥団子こねてた我らが俺、ハリス君が土魔法だよ？

　それに・・・まぁいいや、続き続き。

　さて、ここまででも圧倒的自業自得なハリス君（趣味泥団子作り）、最後にものすごい爆弾を破裂させてしまう。

　なんと『侯爵家の御令嬢』に恋してしまったのだ。

　うん、別に恋したっていいじゃない。身分の差なんて二人の熱い想いの前では障害になんてならないさ！

　・・・なりまくるんだよなぁ・・・。

　そもそも侯爵令嬢『リリアナ』嬢、ハリス君より三つ年上でこの国の『第三王子の婚約者』にして『キルシブリテ三大美女』の一人。

　貧乏准男爵家の三男がどうこう想うのもど厚かましい超高嶺の華。こうしてみると三づくしだなリリアナ嬢。

　ポウム家の寄り親（子爵家）の寄り親（伯爵家）の寄り親（侯爵家）と言う普通なら顔を見ることも困難なお姫様なのだ。

　でも何の因果か偶然か『祝福でハズレスキルを引いちゃった息子を少しでも慰めてやろう、美味しいものとか食べれるし』と思った子煩悩で小市民な父親に連れられて行った侯爵家のパーティで二人は出会ってしまう。

　そして見てくれだけは可愛い稚児さんの雰囲気を漂わせるハリス君にリリアナ嬢が優しく接してしまう。

　そこからのハリス君、まるでと言うか真っ当なと言うかどっから見ても『あっこいつストーカーだな』って分かるレベルのストーカー行為に励む。

　親に注意されても侯爵家の門番に注意されても滅気ずにリリアナ詣。その熱意を（泥団子作り以外の）別の部分で発揮していれば・・・。

　最後は婚約者の第三王子に注意されるも不貞腐れた態度で食って掛かる。

　イラッとした王子が炎の魔法で脅かす→ワタワタしたハリス君、炎を避けようとして何故か真っ直ぐに突っ込む→そして火達磨・・・。

　常備薬ならぬ常備ポーションで九死に一生を得るも火傷痕は消えず。この世界のポーション、高価な割にそこまで高性能では無いらしい。

　流石に（そこそこ救いようのない馬鹿なヤツでも）子供に怪我をさせたと言われるのは世間体が悪い王家＆侯爵家。

　火傷痕の治療費を支払うも・・・そこは貧乏貴族のポウム家、受け取った大金を借銭の支払いや家屋の修繕に使用して僅かに残った端金を持たせて出家という名の絶縁、教会（付属の孤児院）にご招待。

　本人のまったく伺い知れぬ場所で最初で最後の親孝行をした訳だ。

　全身火傷した上に捨てられ異国（王国内だけど）の地に降り立ったハリス君、唯一の長所である顔の良さすら無くなり孤児院で虐められとうとう精神が崩壊してしまうも何故か異世界で元勇者だったおっさんの魂が迷い込んでしまう←イマココ。

　・・・いかがだろうか？

　最後の治療費使い込み以外は本人以外誰も悪くないと言う・・・。

　子供のやったこと？でも子供のやることで普通に御家断絶とかある世界なんだよなぁ・・・。

　あ、もちろん理解は出来ても納得が出来るかどうかは別物だからね？裕福になったら実家を札束でビンタ――この世界お札は使われて無いな――ならぬ金貨を顔に投げつけてやる！

　何そのただのお賽銭。