追跡3
夜明け前、クリーガーは野営地の焚火が消えた傍で目を覚ました。
早速、出発の準備をしていると近くで眠っていたマイヤーも目を覚ました。彼は起き上がって、クリーガーに声を掛けた。
「隊長殿。あんたが、行く気なのかい?」
「そうだ」
「あんたが、行くことはないだろう?」
「怪物の足跡のあるところまで、案内しないといけないだろ?」
「何、言ってるんだ。部下に任せればいいじゃないか」
マイヤーも立ち上がり、目をこすりながら準備を始める。
クリーガーは答える。
「いや、私が行く。それにちょっと気になることもあってな」
「気になること?」
「ああ、捜索の途中、ヴィット王国の魔術師を名乗る二人に出会ってね。彼女らも怪物を追っているらしい」
「そいつらは、なんで、怪物を?」
「実は、怪物はヴィット王国の魔術で作られた可能性があると言っていたな。もし、そうなら、彼女らが怪物を倒すと」
「ほほう。じゃあ、任せてしまえばいいのでは?」
「違った場合は、我々が倒さなければならない」
「そうか」
マイヤーは残念そうに苦笑した。
「ともかく、私が同行するよ」
「わかった」
クリーガーとマイヤー、マイヤー率いる部隊百名は野営地を出発して怪物の追跡を開始した。
最後に怪物を確認した場所まで約一日。怪物の移動速度を鑑みると、さらにその場所から怪物に追いつくまで二日は掛かるだろう。
一行は、延々と緩やかな登り坂が続くに道なき道を進軍する。
途中、野営して一晩を過ごし、翌日の午前、最後に怪物を確認した場所に到着した。そこからは、目論見通り雪に怪物の足跡が残っていたので、それを追って進軍する。
道はさらに険しくなっていく。雪が残るその下の地面には、大きな石がごろごろとしていて、非常に歩きにくくなっている。さらに時折、地面から岩が顔をのぞかせていた。それを避けるように怪物の足跡が続く。
途中、冷たい小雨が降り、日中でも気温はさほど上がらない厳しい行軍が続く。
午後。一行は、雪がほとんど残っていない場所に出た。
そして怪物の足跡を見ると、この付近の同じ場所を何度か行ったり来たりしたようだった。
「これは、どうしたことだ?」
マイヤーは、足跡を確認すると辺りを見回した。
「どうやら、ここで戦闘があったようだな」
クリーガーが言う。
「誰と?」
「わからんな」
クリーガーはそう言うも、ひょっとしたらヴィクストレームとローゼンベルガーかもしれないと思った。
「あたりを偵察して、誰かいないか確認を」
マイヤーは数人に偵察の指示を出した。
クリーガーは再び地面を見る。
雪の上に緑色の液体が付着していることに気が付いた。それは注意深く見ないと分からないほどの少ない量だった。クリーガーは、しゃがみこんでそれを指で触れてみる。
「これを見てみろ」
クリーガーは指先に付いた緑の液体をマイヤーに見せる。
「なんだ、これは?」
マイヤーは眉をひそめながら尋ねた。
クリーガーは再び地面を注意深く見る。それは点々と足跡に沿って続いているようだ。クリーガーはそれを指さして言う。
「見てみろ。これは怪物の血かもしれんな」
「血か…。ということは、怪我をしたのか?」
「やはり、ここで誰かと戦ったのだろう」
間違いない、ヴィクストレームとローゼンベルガーが戦ったのであろう。
しかし、怪物の足跡と血が続いているということは、どうやら倒せなかったようだ。彼らはどうなったのであろうか? 付近に彼らの遺体が無いということは、怪物にやられたということはではないようだが。
しばらく待って偵察が戻り、その報告を聞く。辺りには誰の姿もなく、怪物も居ないようで、特に異常はないということだった。
あたりを見回して、この場は何も参考になるものが無いと判断し、クリーガーたちは怪物の足跡を追って再び出発する。
そして、その日の夕方、正面に崖が見えてきた。崖に近づくにつれ、その崖の下に石で組み上げられた砦のような物が見えてきた。
「なんだろう、あれは?」
マイヤーが声を上げた。
クリーガーは胸ポケットから地図を取り出し、確認するが砦や他に何か建物があるような記載はなかった。
「地図は何の記載も無いな」
「人が居るんだろうか?」
「怪物の足跡が、ちょうど、あの辺りまで続いている。警戒をしながら行ってみることにしよう」
部隊は辺りに注意を払いながら、さらに進む。
砦のそばまで来ると、それはかなり大きなものだとわかった。高さは4、5階建ての建物。横にはさほど広がっていないので塔のようにも見える。崖の一部を削り、地形を上手く利用して、造られているのが分かった。上部には窓のような物もいくつか見える。
さらに近づくと、いきなり叫び声がした、上を見上げると窓から人が転落するのが見えた。クリーガーたちのすぐ近くで鈍い音を立てて地面に叩き付けられた。
クリーガーたちは驚いてその人物が転落した方へ向かう。
初老の男性が仰向けで横たわっていた。頭の周りにの地面には血だまりが出来ている。
この高さからの転落は助かるまい。
そして、男性の遺体をよく見ると、胸からも出血があった、これは誰かに刺された跡だ。
刺された後に、上から突き落とされたのか?
クリーガーは上を見上げた、誰かがいる気配がする。
「全員、戦闘態勢!」
クリーガーは叫んで、剣を抜いた。
そばに砦の入り口を見つけた。ここから入れば上に行けるかもしれない。入口と中の通路はそれほど広くない。全員が一度に中に入るのは難しそうだ。
クリーガーは、ほとんどの隊員に砦の前に残るように指示を出した。そして、先頭を切ってマイヤーと隊員数名を率いて中に突入した。
入ってすぐに短い通路があり、正面に階段があった。
クリーガーたちは駆け上がる。階段を上がっていくと途中、各階に物置らしい部屋があった。見ると食料などの備蓄のようだった。
そして、何故か床に土の塊が幾つかあった。
砦の一番の上の階に到着し、開いている扉から用心深く中に入った。
すると、そこには、見たことのある人物が二人居た。
クリーガーの姿を見つけると、そのうちの一人が声を掛けた。
「来ましたね」
先日、突然、野営地に姿を現せて消えたアグネッタ・ヴィクストレームという女性だ。
そして、そのそばには、ギュンター・ローゼンベルガーが剣を手にして立っていた。その剣には血のりがべったりとついているのが分かった。
クリーガーは息を飲んだ。そして、大声で尋ねた。
「一体、どういうことだ?!」
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