クリーガーたちは半日ほどの移動で目的の村に到着した。

 まずは、クリーガーは隊員たちを村の入り口付近で待たせ、マイヤーと共に村の中に入った。

 村は小屋が三十軒ほどが立ち並んでいた。さほど遠くないところから、犬と羊の鳴き声が聞こえた。

 そう言えば、最初、怪物の襲撃を受け、犠牲となったのは羊使いだということをクリーガーは思い出した。

 村の中を進むと、ある小屋の近くに村人であろう初老の女性が数名集まっているのが目に入った。

 女性たちは、クリーガーたちに気が付いた。急な訪問者に驚きを隠せない様だった。

 クリーガーとマイヤーはゆっくりと彼女たちに近づき挨拶をした。

「こんにちは。我々は帝国軍所属の部隊です。怪物の捜索のためにこちらまで来ました。村の責任者の方はおられますか?」

 女性たちは困惑しているようだが、そのうちの一人が村長のところへ案内してくれるというので、その後をついて行った。


 村の中央辺りにある小屋に案内されて中に入ると、長く白い顎ひげを蓄えた老人が座っていた。かなりの高齢に見えた。おそらく、八十歳は超えているだろう。

 ここまで案内してくれた女性が、彼が村長だと教えてくれる。

 村長は突然の訪問者に驚いているようだった。彼は、座ったままでクリーガー達を見つめる。

 女性が小屋を出るのを確認した後、クリーガーは敬礼をして挨拶をした。

「私は帝国軍所属の傭兵部隊の隊長を務めております、ユルゲン・クリーガーと言います。こちらは副隊長のエーベル・マイヤーです」

「傭兵部隊…?」

 村長は傭兵部隊のことを聞いたことが無かったのだろう、不思議そうにクリーガーとマイヤーの顔を眺めてから再び口を開いた。口調はしっかりしている。

「それで、こんな田舎に、なにか御用ですか?」

「この付近に出没している怪物のことはご存知ですか?」

「知ってるも何も、この村の羊飼いが怪物に殺されたんだよ」

 怪物による最初の犠牲者はこの村の人物であったか。村長は続ける。

「帝国政府には羊が犠牲になっている頃に、何とかしてくれと頼んでいたんだが、なしのつぶてだったんだが…。人が死んでようやく動き出したということかね?」

「そういうことになりますね…。現在我々、傭兵部隊二百名が怪物を追跡しているのですが、村のそばに野営地を設けたいと思っております。許可をいただきたく」

「どうせ、ダメと言っても、通らんのだろ?」

「我々は正規軍とは違いますので、無理は言いません」

 村長は長いひげを撫でながら少し考えてから口を開く。

「傭兵部隊と言ったね。ということは、君たちは帝国出身者ではないのかね?」

「私たちの出身は、ブラウグルン共和国です」

「なるほど、なので少し訛りがあるんだな。何年か前にブラウグルンからの旅行者が、ここに来たことがあるが、共和国出身者で会ったことがあるのは、それぐらいだよ。それで、怪物は近くにいるのか?」

「先日遭遇した時は、ここから二日ほどかかる場所にいました。現在、怪物はボールック山脈に向かっているのを確認しておりますので、ここからは離れていっているので、当面は安心かと」

「そうか。ともかく、あの怪物を退治してもらわんと。他の村が怪物に襲われたという話も耳に入っているし、不安でおちおち寝てられない」

「我々にお任せください。なので、ぜひ協力をいただければと」

「村の外であれば、野営は構わんよ。しかし、それ以外ではなにも協力できないと思うが」

「いえ、野営地のみで十分です。これまでは荒れ地で寝泊まりしていましたが、それに比べるとはるかにましです」

 クリーガーは話題を変えた。

「ところで染料が大量にありませんか?」

「染料? 何に使うのかね?」

 村長は不思議そうに顔を上げた。

「怪物は姿が見えないのです。そこで、染料を浴びせれば可視化されて対処がしやすくなると考えています」

「なるほど。しかし、残念だが、染料は無いね」

「そうですか」

 クリーガーたちは村長のとの会話を終え、小屋を後にする。そして部隊に戻り、そこに野営地を設営するように隊員達に命令を出した。

 この日は、部隊は休ませて明日朝、追跡を開始する。


 指揮官用のテントの中でクリーガーとマイヤーは明日以降の動きついて確認をする。二人は話し合って、主にマイヤーの部隊を中心に百名で追跡に当たることになった。

 そして、残す部隊のうちの数名を帝国軍の居る駐屯地まで行かせ、染料の入手を依頼する。

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