襲撃
捜索は特に成果を上げることもなく日々が過ぎていった。
ある夜の未明、見張りをさせていた隊員がクリーガーの休んでいる焚火のところを訪れ、クリーガーを叩き起こした。彼は、かなり慌てた様子だった。クリーガーは起き上がり、その様子にただ事でない気配を感じ取り、剣を手に取って尋ねた。
「一体、どうした?」
隊員は答える。
「コバルスキーの部隊の者がやってきました」
「コバルスキーの部隊?!」
クリーガーは驚いて思わず言葉を繰り返した。コバルスキーの部隊の百名は最初に全軍で集合した駐屯地からさほど遠くない地域を捜索していたはずだ。そこから、ここまでは四、五日は掛かる。
「それで、どうした?」
クリーガーは尋ねる。
「それが、部隊が怪物に襲われて、全滅したと」
「何だって?!」
クリーガーは隊員の発した言葉に再び驚いた。全滅? そして、怪物がそんな近くに居たということか。クリーガーは起き上がり、投げナイフの入ったケースもベルトに取り付けながら言った。
「その者をここへ呼んでくれ」
「はっ!」
隊員は敬礼し一旦クリーガーのもとを後にした。そして、すぐに隊員は帝国軍の兵士を連れて戻って来た。兵士はクリーガーを見ると敬礼して自己紹介をした。
「私は第五旅団所属のイワン・バランニコフです」
「傭兵部隊の隊長、ユルゲン・クリーガーです」
クリーガーも敬礼を返す。小さくなっている焚火の明かりが兵士の顔を照らすが、その表情には疲労の色が見えた。
「我々の位置が良くわかりましたね」
「大体の場所は把握しておりましたし、運良く焚火の明かりが見えたので、それを目指してここまで来ることができました」
この辺りは荒野はあるが、遮るものが少ないのが幸いしたのであろう。さらに、今回の任務は戦争ではないので、敵を気にすることなく焚火をすることができていた。
「状況の報告を」
クリーガーは尋ねた。
「はい。四日前の深夜のことでした」。バランニコフは疲れた様子で話を始めた。「全軍が休んでいる時、突然、怪物の襲撃を受けました。ほとんどの兵士が怪物の炎に焼かれ、部隊はぼほ全滅」
「コバルスキー副司令官は?」
「炎に焼かれ死亡しました」
「なんと言うことだ」
クリーガーは思わず顔を背けた。しばらくの沈黙の後、クリーガーは再び質問をする。
「生存者は?」
「夜が明けて生き残った者が襲撃の跡を確認しましたが、私を含め十二名のみ生存」
百名のうち、十二人しか生き残らなかったのか。
バランニコフは続ける。「生存者は、一部は報告のため最初の駐屯地へ戻り、残りはこの襲撃の事を伝えるために各部隊への元へ、それぞれ別れました」
「それで、あなたがここに来たということですね」
「その通りです」
「怪物が襲撃された時、何か予兆はありませんでしたか?」
「はい、足音が近づいてくるのは聞こえました。すぐに全員が戦闘態勢に入ったのですが、その直後に炎があたりを焼き尽くしました。我々は何も対応できず、皆、焼かれていくままで…。私は…、何とかその場を脱出しました…」
バランニコフは思わず声を詰まらせた。
「怪物の姿は見えなかったのですね」
「はい」
これまで聞いた話の通りだ、怪物はやはり姿が見えないらしい。そんな怪物に夜、襲撃を受けたら全く対応ができないだろう。
「なるほど、ご苦労でした。少し休んでください」
クリーガーは隊員にバランニコフを休ませて、食料と水を分けてやるように指示した。そして、数時間休んだ後、陽が昇り始めた頃、全部隊を率いて襲撃があった場所へ向かうことにした。
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