捜索

 ズーデハーフェンシュタットからの帝国軍と傭兵部隊の総勢三百人が乗る海軍の三隻の船は、オストハーフェンシュタットへ到着し、全員、船から桟橋に降り立った。

 一旦、全員整列して待機していると、オストハーフェンシュタットの駐留軍の士官がやって来て、今回、部隊の指揮を取っているコバルスキーに何やら話をしているようだった。

 コバルスキーは話が終わると部隊のほうへ戻り、指令を伝えた。

「早速、ナザッド・ボールック高原へ移動を開始する。そこで、オストハーフェンシュタットの部隊の野営地があるので、そこで一度合流。その後、捜索のため小隊ごとに各方面へ散ってもらう」

 オストハーフェンシュタットの部隊の野営地までの行程は五日。我々は進軍を開始した。


 高原に向かう道は、緩やかではあるが延々と続く長い坂を登り続ける必要があった。さらに、季節はまだ三月、この地域では薄っすらと雪が積もり、足元も悪く兵士達の体力の消費が激しい。夜は気温が下がり、思っていたよりも厳しい行軍となった。野営する時は、クリーガーや兵士たちは焚火で暖を取りながら凌いでいた。

 五日後に訪れる野営地に到着した後も、怪物の捜索でこの地域を何日も歩き続けなければならない。そして、正体のわからない謎の怪物の捜索。考えただけでも気が滅入る任務だった。


 厳しい五日間の行軍の後、オストハーフェンシュタットの部隊の野営地に着いたのは午後遅い時間だった。

 その後すぐに、オストハーフェンシュタットの士官やコバルスキーたちは士官の使うテントの中で作戦の再確認のための会合を小一時間程度行う。そして、会合が終わると、クリーガーたち下級士官を集め指示を出す。地図を確認しながらコバルスキーが説明をする。

 一部隊百名、全部で六つの部隊で行動する。傭兵部隊は、そのうちの二つとなる。コバルスキーから指示された捜索場所は傭兵部隊の二つの隊は、この野営地からはかなり遠い場所を指定されている。おそらくそこまでの移動だけで、さらに三日は掛かるだろう。

 傭兵部隊に面倒なところを押し付けたのに違いない。とはいえ、命令なので従うほかない。そして、出発は明日早朝との指示が出た。

 謎の怪物についての新情報は無いようだった。これについては不安が募るばかりだ。

 コバルスキーは全ての説明を終えると明日の出発まで待機するよう命じた。


 傭兵部隊の副隊長マイヤーが話しかけてきた。

「我々に一番遠くの場所の捜索を指定して来ましたね」

「そうだな。ある程度は予想していたが」

 マイヤーは部隊の一つを率いることになっている。今回の捜索ではクリーガーの弟子ソフィア・タウゼントシュタインとオットー・クラクスの二人はマイヤーの部隊に所属させた。弟子の二人は実戦経験がほぼ無いに等しい。

「ソフィアとオットーをよろしくな」

「わかってるって、任せてくれ。それにしても、心配性だな。少々過保護なのでは?」

 そう言うとマイヤーは笑って見せた。


 翌朝、クリーガーの隊を始め各部隊は決められた捜索地を目指して出発を開始した。

 クリーガーの部隊はボールック山脈を右手に約三日間直進して、その荒れ地一帯の捜索をすることになっている。

 この数日間、天気は良いが気温は低く吐く息は白い。顔を撫でる風は氷の様に冷たい。時折、突風も吹き付ける。顔を上げ右に見えるボールック山脈には雪が白く輝いて見えた。美しい遠くの雪山も、すぐに見飽きてしまって感動を呼び起こすこともなくなっていた。

 足元は薄っすらと積もっている雪の間から、苔や背の低い雑草が生え、所々で大きな石が顔をのぞかせていて、歩きにくい地形となっている。 

 日中は行軍、夜は野営をする。


 ようやく三日かけて目的の場所に到達した。そこは、これまでと変わらず殺風景な荒れ地。

 さて、捜索の開始だ。

 まずは謎の怪物の足跡などの痕跡を探すことになった。怪物の大きさは熊の十倍はあるという情報だ。足跡も見つけることは容易だろう。怪物が、この辺りにいればだが。

 そして、怪物は炎を使うという。炎を口から吐くのか、魔術を使うのかわからないが、突然の襲撃に気を付けてあたりの捜索を開始する。

 各自、地面を注意深く観察し、怪物の足跡が無いかどうか見る。その他にも些細な事にも気を付けながら捜索を続ける。

 日中、捜査を続けるも何も見つけることができない。動くものと言えば野ウサギを何度か見かけることがあったぐらいだ。そして、時折、鳥が空を横切るのを見ることもあった。


 その後、四日間、高原をゆっくりと北へ移動しながら捜索するも、怪物の手掛かりは無かった。

 成果も上がらず、兵士達の士気も大きく下がっている。何とかしなければ。

 とは言え、捜索以外にはやることも、出来ることもなく、クリーガーは頭を抱えるしかなかった。

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