盗み聞き
ヴィクストレームは扉に耳を当て、部屋の中の会話を盗み聞きをしている。
その内容について。まず、今しがた中に入っていた人物が傭兵部隊の隊長を務めているということ。その人物の話し相手は、この街の統治責任者で帝国軍の司令官のようだ。事前に調べてある情報だと、確か、彼はボリス・ルツコイと言う名前だったはずだ。
そして、先程の宿屋の前の騒ぎは反乱を企てている旧共和国の過激派を襲撃したということ。このように、旧共和国の支持者がテロや反乱を企てているのを未然に防ぐために軍、警察、秘密警察“エヌ・ベー”が活動をしていることもヴィクストレームは事前に知っていた。
さらに、盗み聞きした話の内容は、傭兵部隊は新しい任務を与えられ、ナザッドボールック高原に出没した謎の怪物を捜索をしろとの内容だった。
興味本位でここまで来たが、予想外の情報を入手できた。
しばらくして、ヴィクストレームは中に居た人物が外に出て来る様子であったので、急いで扉から離れた。彼女は扉のすぐそばで立っていたが、中から出て来た人物には幻影魔術のおかげで自分の存在は見えなくなっている。なので、そこにいることがわかることは無い。
扉が開いて中から出て来たのは、整えられた茶色い髪に、茶色い瞳。軍人としてややスラリとした体形の人物であった。ここに来るまで見たのは、ほとんど後ろ姿であったが、初めて間近で彼の姿を見た。顔をよく覚えておこう。
制服のデザイン少し帝国軍兵士と違うので、この制服を着ているものが傭兵部隊の隊員ということだろう。
彼は城の廊下を歩き、去って行った。
盗み聞きした部屋の中の会話から、彼の名前はユルゲン・クリーガー。
彼は、シュミットが言っていた傭兵部隊の隊長で、旧共和国の精鋭部隊であった“深蒼の騎士”の一員だ。彼に出会えるとは幸運な偶然だった。
ヴィクストレームは、もう一度、彼の名前を頭の中で反芻した。
ヴィクストレームは城への潜入は、これで十分と考えて、もう城を出て宿屋に戻ることにした。
城の通路を抜け、外に出る。所々に松明が灯してあるので、その光が仄かに辺りを照らしていた。
建物から進み出て、城門から街へ戻ろうとしたが、城門はもう閉じられていた。門の脇にある小さな小屋には見張りのための衛兵が数名いるのがわかった。
ヴィクストレームはそれを確認すると躊躇せずに念じる。すると、ふわりと体を宙に浮かせた。
これは念動魔術だ。手を触れずに物を動かすことができる魔術で、使い方によってはこのように自分の身体も浮かし、宙を飛ぶことができる。
この魔術を使って、城壁を軽々と越えて城壁の外側に降り立った。
そこからは徒歩で宿屋に向かうが、通りには監視役の帝国軍兵士が居るので、幻影魔術で姿は消したまま進んだ。
通りは人通りは全くなかった、ここでも夜間外出禁止令が施行されたままのようだ。
ヴィクストレームは誰にも見つけられることなく、宿屋に到着し自分の部屋に入った。
ふっ、と一息をついてベッドに腰かける。明日の事もあるし、今日のところは早めに休むことにした。
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