第3話
いくつかの『光』がついたり消えたりして、それでも主は戻ってこなかった。ただ、主が待つように言った『さかな』のナワバリは、快適なものであった。吠えずとも、美味い飯が出てくるという点において。かの『さかな』には、つがいがいるようで、そのメスも魚臭かったから、やはり魚ばかり食べているのだろう。いつも『さかな』とそのつがいはナワバリにいたが、どちらもとても静かだった。
『さかな』は主と同じように、木の匂いがする不思議な薄いものに、黒い何かをごちゃごちゃとなすりつけることを繰り返していた。いつもいつもそうしていて、時にはそれをぐちゃぐちゃと丸めて投げ捨てたりするものだから、散らかっていけなかった。
『さかな』のつがいは、飯をつくるのが上手く、しかし犬は嫌いであるのか私が遠吠えをするたびに、例のきゃんきゃん煩いへんてこな音で騒ぎ立てた。
主につがいはいなかったから、私には『あしなが』のつがいというものが良く分からなかったが、これは仲の良いつがいなのだろうということだけは何となく分かった。
このつがいは、へんてこな音でやり取りすることは少なかったが、代わりに目と目を合わせたり、首を小さく振ったりすることで、充分に互いの考えが分かっているようだった。どの『あしなが』も、このように静かであれば良いものをと思う。
『さかな』が忙しく、あの不思議な薄いものに、黒い何かをなすりつけている時は、そっとつがいが飯を差し出す。それが忙しくない時は、決まって『さかな』はつがいと一緒に飯を食うのだ。
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