第2話

 しばらく待ちぼうけで伏せっていると、話は済んだようで、主が何やら話しながら前足を私の頭にのせてなで回した。主はとても器用に前足を使うが、この前足の使い方は温かく心地よく、もっとやれば良いと思う。


 また主が歩き出そうとするので、後ろを付いていくと、例の『さかな』が走って追いかけてきた。主は振り返ってあーだとかうーだとか唸っていたが、もう一度『さかな』のナワバリまで戻ると、そこを前足で示して「お座り」と私に命じた。


 私は小さく吠えてそこに座った。主はまたあーだとかうーだとか唸っていたが、やがて思いついたように「待て」と命じた。その意味なら知っていた。何を待つのかは分からないが、待たねばなるまい。主の命には、おとなしく従うのが良い犬である。


 主は満足したように笑うと、またすぐに悲しい匂いになって、今度はちゃんと悲しい顔をして、今一度私の頭をなで回した。ひとつふたつ、更に良く分からないことを私に命じると、主はまた歩いて行ってしまった。主は振り返らなかった。私はどうすれば良いのかと思ったが、主が『待て』と命じたのでおとなしく待つ以外になかった。


『さかな』が主と同じように私の頭に触れようとしたが、威嚇してやった。そこに触れて良いのは、主だけである。私の威嚇に『さかな』は前足を引っ込めて、くるりとナワバリの奥に入っていった。

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