第124話 創作のふしぎ
「えっ」
俺たちの話がまとまりなくなってきたあたり、叔父さんが急に黙り込んだ。
「どうしたでござる?」
「……鍵」
鍵?
「ミウ先生の国で、鍵が発見された」
ミウ先生?
あ、小学校の図書室の、ネコ先生か。
「エピソードが降ってきた」
え。
作家みたい。
「なるほど。スズカワ殿。そうでござるか。
これがあるので、人間が創ったものは、人間のものなのでござるよ」
よくわからない領域の話になっているが、まあ、俺たちただの高校生だしな!
「話が動き出すかもしれない。万事何とかなる気がしてきた!」
「では、直ちに執筆なされよ!」
今まで俺たち、いろいろ勝手に話してきたけど、霊感一発で吹っ飛んだな。
これが創作者というものなのか?
「お風呂入ってる三名様どうする?」
「そのままくつろいでもらってくれ」
ビールでも出すか?
そういうことじゃなくて。
「叔父さんが書いた分をネットにアップしたら、三名様の行き先も変わるよね?」
「さよう。発表され、読まれればその通り物事は流れるでござる」
なんか勢いづいちゃって。結局それ次第なら、悩んでたのなんだったんだよ。
「明日、月曜日だからね?」
「それは気になるけど」
叔父さん、執筆モードに入ったせいなのか、なんだかもどかしそうな顔をしている。
「どうにもならなかったら、梨穂子に頼み込んで明日は休む」
そんなことでよかったのか。
「あとは頼んだ!」
「うん」
そう返事するしかないだろう。
叔父さんは自室にこもってしまった。
「書く人、ってこんな感じなの? 栞さん」
「私はあそこまでじゃないけど、書かなきゃ! って勢いよくなる瞬間はあるかな」
俺たちは打ち合わせがうやむやになったので、昼食会場の片づけをした。
「ホットプレートをありがとう」
「なんの、心の友よ」
三名様、お行儀がいいよなあ。あんまりお皿汚してないの。
「さてさて」
俺もなんか頭の中、ごちゃごちゃしてきたぞ。
現実世界と、〈白の地〉と。
そして今、叔父さんの頭の中で渦を巻いている〈創作中〉の世界と。
「やっぱり、あんまりプロット立てないタイプなのね、叔父さん」
栞さんが感心したように言った。
「私も立てたプロットが途中で変わっちゃう方だけど」
そのへん、俺と葦原はよくわからんのでただ聞いている。
「そのタイプであったからこそ、こんな事態になってるのかもしれないな。
でも、それが俺の叔父さんだからな」
俺はこうして支えるだけだが。
「麦茶追加するか」
葦原がやかんを持ってきた。相変わらずうちの台所を知り尽くしている。
何度も言いたい。いつもありがとうな、葦原、栞さん。
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