第118話 打ち合わせ
「危なかった!」
スズカワサトシとグレン氏は二階の部屋に移った。
「三名様を見てたら『サヤたち元気ですよ』とか言いそうになったよ。
自作の登場人物に会ったのは初めてじゃないけど、こんな気持ちにはなったことないぞ」
「よく堪えてくだされた」
自作の小説の続きが書きあがっていないうちに、登場人物たちが自宅に来てしまった。
何より今、本編で話が盛り上がっているのが兄弟を探しているダメ三人組の旅である。スズカワの頭の中は正直サヤや魔法生物たちでいっぱいなのだった。ついつい言いたくなる。
「あの謎空間が隙だらけで悪意の連中に都合がよくて、そこからの緊急避難で三名様はうちにいる。神様の手まで煩わせて」
「拙者の手くらいいくらでもお貸しするでござるが、まあ状況はそうでござる」
「俺がこの事態になってから作者として悩んでたのはね、そんな謎空間の今後だった。これからの展開にとって、あの停滞、何になるのかって。この先下手にあの空間使うとまた今回と同じことになるかもしれないのかな」
「その可能性は残るでござる」
「こうして三名様を引きはがしたけど、となれば三名様は次にどこから出現すればいいのかってさ」
「御尤もでござる」
「でも今、彼らの話を聞いて思った」
見ればまだ涙ぐんでいる。
「物語を動かすのは世界の設定だけじゃないんだ」
「うむ!」
「登場人物は生きているんだから、俺もそれに応える。そんな展開を先に準備してもいいはずなんだ」
「まさしく!」
「という訳で、俺の中の構想では劇的なそれぞれの兄弟の再会、という場面ができていたんだが! それをさらに盛り上げたいと思う!」
「おお!」
「……どうすればあの三名様、家から〈白の地〉にうまいこと着地させられると思う?」
「……」
「今はと、とりあえず休養していただいて。そこまでは問題ないでござろう?」
「でもさ。そういうふうに長期の休養を勧めるみたいな展開になってるけど、明日月曜なんだが」
鈴木邸は留守になる。
「グレンさんが面倒見てくれるなら助かるんだけど、タロキチだってここのところいないだろ? 何かほかにも動いてるんじゃないの?」
「う、それは」
「とりあえずさあ、」
これから夜の食事までに風呂。洗濯。
食事。
就寝。
「また眠っている間に〈白の地〉に戻してもらうというのはどうだろうか」
異世界と現実世界の狭間にあり、〈赤の竜〉による侵攻を食い止めるという位置にあるこの鈴木邸。
異世界人が訪れ、エルフや巫女、神までもがやってくるこの鈴木邸。
とはいえ明日は月曜日。
それらの何より優先されるのがこちらの世界での日常生活なのであった。
異世界人の三名様を近所の目にさらすことなく、仕事も学校も休まず。そんな方法があればそうしたいのはやまやまだが。
「鈴木家がごく普通の家庭である建前は、崩せませんからなあ」
「何しろ俺は一度失踪しているからな。何かあると目立つぞ」
それも考えてみればグレン氏のせいなのだが、
「その線でまいりましょう」
しれっと流された。
まあいい。
「で、その場所なんだけど、いつもの鈴木邸が出現する場所だとブランカ遠いよな」
彼らはブランカの研究所へ戻りたいのだ。
「しかし。ここであっさり戻ってしまうと、白い蝶の謎を追いかけてるサヤたちの立場はどうなるんだ?」
「……」
「そうだよ、さっき、その文句言おうとしてたんだよ」
グレン氏は先ほど、話しの途中で栞さんが登場したことによっていろいろ胡麻化されていたのだった。
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