第119話 展開に影響が出るじゃないかの件

「葦原殿も、なかなかの健啖家ですねえ」


 葦原、何も言わずに食い続けているだけなんだが、その満ち足りた表情が何よりも雄弁なのだった。


「幸福です」

「そうでしょう、そうでしょう」


 いつもの葦原が見られて、俺も嬉しい。


「そしてみなさん、落ち着きましたか?」


 お、葦原が喋った。


「おかげさまで」

「となると、次には……」

「お仕事が気になりますか。気になりますよね!」


 また強引になにか仕切ろうとし始めてないか?


「まあ、葦原くん、食べて」


 栞さんも、何かを察したみたいだな!


「もちろんさ」


 葦原も一旦引っ込む。

 叔父さんとグレンさん、何を話しているんだろうか。この状況について、さっきから何度も二人で引っ込んでいるけれども。


「……少々、三人で話してもよいでしょうか」


 カネダさんが神妙な顔をしている。


「どうぞどうぞ」


 俺たちは一旦台所に避難した。

 機密事項だもんな。


   * *


「あのね、」


 台所で栞さん、小声になる。


「さっき確認したんだけど、あの三人はね」


 なんだ?


「第110話の続きなの」


 なんだって?


「グレンさんが、この三人を第110話から現実世界に連れてきちゃったの」


 第110話?


「最新話か?」


 それで叔父さんとグレンさんの間がなんか微妙だったのか?


「あの三人、謎の空間にいるじゃない。あの空間がなんだかよくなかったみたいなの」

「よくなかった?」

「私も詳しくは聞いてないんだけど」

「あとで話してもらえるだろうか」

「お二人。待ちたまえ」


 空腹が解消した葦原の頭脳が回転し始めた。


「わかっている状況だけで考えるとだな」

「うん」

「最新話からあの三人が、ということだな。ではこれが気になる。

 第110話の続き、叔父さんはストックあるんだろうか」

「多分……」

「まだないからこそ、グレンさんは大胆にも物語世界から三人も連れ出せた、と考えるのが無理がない気がするんだよ。続きがあったとしてもまだ頭の中の構想止まりとか」


 うん。これまで見てきたところ、叔父さんの小説がわりと行き当たりばったりであることは間違いないのだ。何せ趣味の小説なので。


「今、白い蝶とブランカ、兄弟がいなくなった謎を解くために、あの三人の兄弟たちが奮闘しているじゃないか」

「そして、第110話でいなくなった三人がとらわれている謎空間がほのめかされた」

「なにか事情があるんだろうけど、グレンさんがそこに介入したわけだ」

「……そうか。叔父さん的には微妙ね。お話のこの先の予定を変更せざるを得ないんだわ」


 だんだん整理できてきたぞ。


「謎空間で三人の身体は弱ってたみたいだから、ごはん食べられてよかったんだろうけど」


 叔父さんとグレンさんがずっと話してるわけだ。


「深い訳もなく神様グレンさんが介入しない、ということは信頼したいんだけど、面倒なことしてくれたなあ」


 俺がぼやくと、


「なあに。この件は最初からそうじゃないか。そもそも叔父さんが失踪して始まっただろう。

 何しろ神様グレンさん相手なんだ。我々はとにかく起こったことをひとつひとつ考えていくことしかできないだろう。ははは」

「あ、叔父さん」


 階段から、叔父さんとグレンさんが静かに降りてきた。


「どうした?」

「三名様、ちょっと話し合いたいって」

「そうか」

「ねえ、グレンさん」

「なんでござる?」


 おどおどしてるのは何故だ。


「栞さんからちょっと聞いただけでよくわからないけど、あの三人、多分これから〈白の地〉に戻る手立てはないだろうか、って話を出してくるよね? でもそこですぐあちらに帰しちゃっていいの?」


 叔父さんがきっぱり言った。


「よくない」

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