第15話 「秘密」
指輪はそのままふわりと宙に浮かび、神薙さんの人差し指に収まった。
「これは……」
「トリックじゃないの。
指輪に触れると、」
一旦指輪を外し、今度はテーブルの上に置く。
同じ動きで、指輪は再び神薙さんの指に。
というか、どこから彼女の手に渡ったんだろう、この指輪。
「それがね、」
話し始めようとしたそのとき。
「葦原?」
俺の名を呼びながら階段を騒々しく降りてきた。
「はじめまして、友人の葦原です」
「どうも……」
神薙さんと生真面目に挨拶をかわして、
「外! 今日は二度目が来た!」
「二度目?」
まだ伝えたものか迷っていて誰にも話してなかったこの件だが、これはなし崩し的に説明することになるなこりゃ。
居間の外を見ると、紫の霧。
今回は二階だけではなく、家ごと飛んだようだ。
「え、霧?」
神薙さん、一瞬息を飲んで、
「しかも、紫の……え、まさか」
「俺、外見てくるわ」
玄関口に走ると、葦原も続いてくる。
「あの……私も、友人です。はじめまして」
「……こんにちは」
栞さんがスマホを持ったまま、挨拶をする。
「ごめんなさいね、楽しいところ、お邪魔しちゃって」
「いえ、そんな。浩平くんのお家のことが今は大切ですから」
「ところでこの霧って、」
「あ」
神薙さんが、外を指したその指に光る指輪を、栞さんは見逃さなかった。
というか、指輪はなぜか、またぼんやりと光りはじめていたのだ。
「その指輪、ひょっとしたら、」
「わかる?」
神薙さん、やっと話ができる人に会えたような、そんな勢いだ。
「あの……〈白の巫女〉の指輪みたいだな、と思って」
「そうよね?
よかった、鈴木さんの小説、あなたも読んでいたのね?」
ということは、神薙さんも読んでいる、ということで、栞さんは少し驚いた。
働いている大人の人にはネットの小説を読み込んで叔父さん失踪の手がかりを探すような時間はないだろう。
そう考えての、これまでの読み込みぶりだったところがあった。ここは比較的暇な女子高生の役割だと思っていた。
「やっぱり、どこかで無事なら更新されるんじゃないか、とか、そういうこともありましたし」
「でしょう?
私も、最初は更新チェックだけのつもりだったの。でも、読みはじめたらなんとなく引き込まれて。
……ああ、でも、なに? この指輪に、紫の霧……」
「あの、」
栞さんはまた、自分の果たすべきことを成そうと決意した。
「そうなんです。
どうもこの家、日曜日に小説の舞台の異世界に飛ぶみたいなんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます