#16 チーターの脅威
「さて、どこから話そうかな……。うん、まずは兄貴がさっき戦った、文字化けした化け物について話そうか。」
エリルは、カウンターで注文したエナジードリンクをちびちび飲みながら話し出した。
「あのドラゴンはね、チーターがゲーム内のデータを改竄して作り出した、違法改造個体なの。」
「チーターか……。」
チーター。
オンラインゲームを遊んだことのあるやつなら、だれでも聞いたことがあるだろう。
ゲームのデータやプログラムを不正に改竄する、邪悪な犯罪者ども。
奴らはキャラクターのパラメータを異常な値に改変したり、本来なら有料であるはずのコンテンツを無料で使用し、ゲーム運営会社やプレイヤーたちに多大な被害を与えているのだ。
「まったく、この手のゲームやってると、嫌でもそいつらの名前を聞くな。」
おれはうんざりしながら答えた。
以前プレイしていたFPSでも、チーターによる被害は深刻だった。
連中の稚拙な妨害行為のせいで、いったい何度白ける思いをしただろう。
胸に込み上げる苦い思いを吐き出すかのように、おれは大きな溜息を吐いた。
「あのクリーチャーはね、フィールドのあちこちにばら撒かれていて、大勢のプレイヤーが被害を被っているの。でも、今までは都市周辺にあいつらが現れることはなかった。でも、今回は違う。まさか初心者まで狙ってくるなんて……。悪ふざけにしては度が過ぎてる。」
エリルは沈痛な顔でそう呟いた。
なるほど、あれがチーターの作ったものだという事はわかった。
だが、まだ一つだけわからないことがある。
「エリル、あれがチーターの作ったクリーチャーだという事はわかった。しかし、まだわからんことがある。あの空を飛んでるやつのことだ。あいつがばら撒いたオレンジ色の卵から、あのドラゴンが生まれてきたんだ。あれはいったい何なんだ?」
おれの問いかけに対し、エリルは少し間を置いてから答えた。
「正直、まだ詳しいことはわかってないみたい。
たぶん、チーターが作ったBOTなんじゃないかって話。でも、あれがクリーチャーをばら撒いているのは確か。」
BOT……ということは、あれはプレイヤーキャラではないということか。
つまり、あらかじめプログラムされたとおりに、あの化け物をあちこちにばら撒いているという事になる。
いったい誰が何の目的でこんな事をしているのだろう?
……いや、チーターの考えなんて、理解するだけ時間の無駄だろう。
どうせ自己顕示欲の肥大化したどこぞのアホがやってることだ。
大した理由はないだろう。
「なるほど、事情はだいたいわかった。しかし、これだけの被害が出てるんだ。流石に運営も何か対策はしてるんだろ?」
しかし、おれの問いかけに対してエリルは軽く首を振ったあと、こう答えた。
「被害が散発的で、しかも範囲がすごく広いから、運営も対処に困ってるみたい。」
「うーむ、運営もお手上げってことか……。」
おれは天井を見上げて、「ふぅ」と大きくため息をついた。
まったく、せっかくおもしろいゲームに巡り合ったのに、いきなり変なケチがついちまったなぁ。
おれはぼんやりとそんなことを考えながら、椅子に寄りかかっていた。
「ところで、夜兎さん。」
おれは、カウンターの端っこに座っている夜兎さんに話しかけた。
おれが呼びかけると、彼女はビクッと肩を震わせた後、おずおずとこちらを見た。
「その、さっきから気になってたんですけど、なんでそんな離れたところに座ってるんです?」
おれの問いかけに対し、彼女は
「だ……だって、その……畏れ多いというか……なんというか……。」
と、訳の分からない答えを返した。
うん?畏れ多いっていったいなんのことだ?
しかし、彼女はまだ俯いたままで、たまにチラチラとこちらの様子を伺っている。
よく観察すると、どうも彼女はおれではなく、エリルの方を気にしているようだ。
おいおい、あいつまさか、あの後夜兎さんとなにかあったのか?
「おい、エリル。お前夜兎さんになんか失礼なことしたのか?彼女怖がってるぞ?」
おれがエリルにそう尋ねると、夜兎さんがすかさず割って入った。
「ち、違うんです、マーナくん‼︎……そ、その、ほ、ホンモノに出会えたから。ホンモノのエリルちゃんに。
だからその、嬉しくて、つい緊張しちゃって……!」
ホンモノ?ちょっと待て。いったいどういうことだ?ますます訳がわからんぞ⁈
頭の中が更にクエスチョンマークでいっぱいになる。
「あの、夜兎さん?ちょっと言ってる意味がわからないんですけど、もしかしておれの妹って有名人なんですか?」
「あの……まさかマーナくん、ご存じないのですか?」
「ないです。」
おれは即答した。
「あーごめん、兄貴には言ってなかったっけ?わたし実はVtuberやってるんだよねー。」
え?何それ?初耳なんですけど?
エリル、おまえVの者だったの?
いきなり明かされた身内の驚愕の真実に、おれは心底唖然としてのだった。
続く
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